第290話 報告会
ダンジョンの報告をフランクから聞き終わった頃、漸く他の皆がぞろぞろと起きてきた。
「皆さんおはようございます。もう大丈夫ですか?」
「おはようございます! たっぷり寝たから大丈夫ですよ。 昨日はごめんなさいね、お帰りの言葉も言えず」
「昨日の状態の事はフランクさんから聞きましたから、もう良いですよ。だけど無茶はあまりしないでくださいね」
この世界にはポーションという前世の栄養剤とは違う正真正銘の体力回復剤があるから、こんな無茶が出来るのだが、今回の事はその良し悪しの実例ですね。もし前世にこのHPポーションがあったら過労死はないけど、屍のように成っている人がごろごろといる、ブラック企業で溢れるのかな?
「先ずは朝食にしましょう! どうせ碌な物も食べていないのでしょ。その後でお互いの報告をして知識の共有をします」
久しぶりの全員揃っての朝食は賑やかで、島なのに帰って来たなと思えるひと時でした。その光景を見ながら俺はこう思っていた。人の帰る場所というのは場所より人なのかもしれない。気心の知れた人のいる所が帰る場所、特に俺はこの世界に本当の意味での身内はいないからそう思うのかもしれないが……。
「それじゃ今から報告会を始めます。先ずは誰からほうこくしますか?」
「それなら先ずは俺からやろう。ダンジョンの報告は俺がしたからその続きという事で……」
フランクの報告は島内探索については省いて、最後の個別の研究についてだった。それも俺がついこの間言ったばかりのスキルの併用利用の研究をしていたのだ。その内容はもう既に俺がやっている事ばかりだったが、彼が持っているスキルではない技術ですが、ガラス製品を錬金術で作るというもの。
俺が転移したばかりの頃、試験管やビーカーを錬金術で作っていた事を実践していたのです。その他にも鍛冶スキルは持っていませんが、鍛冶の知識はフランクも持っているので、錬成陣で鉱物を武器の形に錬成する訓練をしていた。極めつけは真珠と魔石の合成などという。禁断の錬成にまで手を出していて驚きました。
最後の禁断の錬成にはやはりエマも絡んでいて、あの国宝級の黒真珠を作るのが目標で取り組んでいたようです。
その後も全員の報告を受けたが、殆どが出発前に俺が講義した内容の実践や今までは俺しか出来なかったことを自分達で出来るようになるように訓練と研究をしていた。
更にその合間に女性陣は俺からの依頼の防水塗料の研究までもしていたから驚いたよ。そこまでやればあの状態になっても仕方がないかと思ったが、そこは敢えてやり過ぎだと注意して置いた。エマなんてこれに船の結界の研究までしてたんだから、ぶっ倒れて当然。次から何かを依頼する時は期限や優先度まで言わないといけないと痛感したよ。
「それにしても皆さん一気にやり過ぎです。俺はここまでやるのに六年掛かっているんですよ。まぁずっとやっていた訳ではないですから六年というのは大げさですが、それでもたった三週間でやろうなんて無理ですからね」
「それは分かっていたんですが、やりだしたら止まらなくなって……」
「ローズさんその気持ちは俺にも分かりますが、ポーションまで使ってやるのはやり過ぎですよ」
オックスの捕獲の時に大量のMPポーションを使わせた俺が言える事では無いが、やはりドーピングは良くない。通常の研究なら特にね……。
「大体の事は分かりましたから、これからも時間を見つけて継続してくださいね。あくまで無理せずにです。それじゃ今度は俺達の番ですね。どうします? サラがやりますか?」
「はい」
「えっと、今回私達が旅行と称して出掛けた冒険について報告します……」
サラの魔銃や幾つかの秘匿することを除いた報告が終わった時、あまりの内容に衝撃を受けて皆は茫然としていたが、暫くして皆それぞれに自分が特に気なった部分について、一言づつ口に出しだした。
「ワイバーン……」
「魔力スポット?」
「ダンジョンの進化」
「魔力スポットの休眠期」
「レベル40や60の魔物のいる可能性」
「魔力濃度測定器」
「飛んでもね~~な。お前達こそこの三週間で色々やってるというか経験したんだな」
隠している事があってもそう思うよね。新発見や解明に近い仮説の提唱や発明までやったから……。
「それで、これらの内容についての国への報告は皆さんの判断に任せます。全部報告するも良し、秘匿するも良しです。部分的にでも勿論良いですよ」
「いやいや、それはお前がやれよ!」
「何を言ってるんですか? フランクさん。これからはそういう判断も自分達でするんですよ。今後自分達の研究で新しい発見や成果が出た時に、今は世の中に出せるか、出せないかと悩むものが出てくるかもしれません。その時に判断するのは自分です。その訓練だと思ってやってみてください」
本当の目的は丸投げなんだが、もっともらしい理由を付けてフランク達に判断させるよう仕向けた。さて、フランク達はどうするかな? 全部国に報告しても良いが、そうすると混乱が起きる可能性もあるが、フランク達も国に丸投げ出来るからそこをどう判断するか?
ただ、俺と違ってフランク達は完全に丸投げは無理、言ってみれば俺が平社員、フランク達は中間管理職、国が社長ならどうしてもフランク達は板挟みになる。時には平社員でも内容の説明は求めらるかもしれないが、殆どは中間管理職であるフランク達が国に対して矢面に立つ……。
俺からそう言われたフランク達は渋々ですが、皆で話し合い始めました。
多分、今回は全部報告しないで秘匿すると思う。緊急を要するような報告は無いからね。それにフランクは自分達で確認したいと思っているはずだ。戦闘狂のフランクがそんな美味しい話を指をくわえて見ているはずがない。
今すぐという訳ではないだろうが、必ず連れて行けと言うか、自分達で行くと言い出すだろう。飛行船も二機あるからね。
レベル上げとか関係なしに、文献にしか出てこないワイバーンなんて絶対見てみたいよね。ロイスなんてワイバーンのティムの可能性を話した時の目の輝きときたら、もう子供のようでしたよ。
「ユウマ、今回は全て報告しない。俺達の成果もな。理由は前回の報告でも国は混乱しているし、国自体が秘匿の方向で動いている。ここで報告しても殆ど秘匿するだろうから、する意味がない。但し報告の内容は書面にして記録しておくから、ユウマの報告は自分で書けよ」
はいはい、そうだよね。秘匿は正解だけど、書面は各自で書くというのは、俺への仕返しが込められているな。当然見たのは俺達だから、俺達が書いた方が正確に書けるけど、国に報告する為だけの書面ならフランク達でも書ける。
多分今度ラロックに帰れば、そこには国のその分野の専門家や研究チームが待っていると思う。国王やカルロスでは専門的なことに成ると対応できないから、そういう人間を派遣してくるはず。そしてそれがこれから常態化するでしょうから、説明できるように俺が書いた方が良いという事だ。
国として一番秘匿したいのが俺の事だから、俺の事を知っている人間は出来るだけ少ない方が良い。既に手遅れ感はあるが、これからフランク達が表に出ることが多くなれば、少しは俺の存在が目立たなくなる。
「報告書は書いておきますよ。サラ書いてみる?」
「良いですけど、手伝ってくださいよ」
「それは勿論!」
秘匿している魔銃や新型の魔法陣の件も記録として残しておく必要があるので、当然そこは俺しか書けないから、サラと一緒に書く必要がある。その時にサラにも教えられるから一石二鳥、いずれサラには俺と同等に近い知識を持ってもらわないといけないから、丁度良い。
いつかはサラに俺が転移者だという時が来るかもしれない。今は何とか夢の本という言葉で誤魔化しているけど、それもいつか限界が来そうな気がする。それに最愛の家族に秘密を持っているというのは結構精神的に疲れる。常に罪悪感があるからね……。
「それじゃ、報告会はこの辺にして、後は各自残りの作業を済ませて、ユートピアに向かう準備をしてください。明後日出発します」
ユートピアに戻ってからもやることが一杯で、俺がゆっくり出来るのは何時になるんだろうか? ゆっくりしたい気持ちとこの世界を探究したい気持ちがあるから、一種のジレンマに陥っているね。今の俺は……。
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