第289話 島への帰還

「もう直ぐ島が見えてきますよ」


「長いようで短い旅でしたね」


「そうですね。次に行く時は何か月単位で行かないと余裕がありませんね。あぁそれから、昨日話したようにくれぐれも魔銃の事は内緒ですよ。魔方陣の方は話しても大丈夫ですけど」


「分かっていますよ。あれを知れば皆さんが戦闘狂のように成りますからね」


 おいおい、それは貴方もです。貴方の場合はもう成っていますけどね。自分の事は気づかないもんなんでしょう。今のサラをフランク達が見たらなんというか……?


 まぁフランクも自分が戦闘狂に成っているのに気づかない人ですから、サラを見ても気づくかどうかは分かりませんが?


「島の皆はどうなっているでしょうね? 自分達もかなりの経験をしましたからね」


「そうですね。自分達でどう考えて行動したのかも気になります」


 そうだよな。今回は本当に全て自分達で決めて行動するようにしたから、個人で行動してるのか? グループなのか? もしかしたら全員で動いている可能性もある。


「そうだ! サラ、どういう風に皆が行動したか予想して、それを当てた方が外した方に一つお願いを出来るというのをやらない」


「面白そうですね。是非やりましょう。負けませんよ」


 これは日頃どれだけ人の観察や分析が出来ているかで勝負が決まる。勿論それだけではない。人以外の周囲の環境、時間的考慮、色んなことを考えないと答えは出ない。


 これはサラの試験でもある。島に残った皆も同じように色んなことを考えてやる事や方法を決めたはず。それならサラも同じように自分で考えて行動を予測するのも勉強になる。サラの方が島の皆より難しいけどね。


 お互い考え始めたら、夫婦だから似てくるのか、サラも俺のようにぶつぶつ言いながら考えている。


「フランクさんは……ダン、ミランダさんは……森の源、エマさんは……真珠」


 これは俺も真剣に考えないと外しそうだ。島が見える所まで、俺もあ~でもない、こうでもないと考えて結論を出した。


「そろそろ、お互いの予想を言いましょう」


「それじゃ私から……」


 サラの予想は完全個人ではないけど、グループでもない。個人から少人数までに分かれてそれぞれ好きなことをしたでした。確かにその可能性は高いと思うし、俺も一度はそう考えたが、俺の出した予想は違った。


「それじゃ次は俺ですね。俺の予想は……」


 俺の予想は三つのグループに分かれてその日の行動を決めたか、一つの研究テーマの研究を続けたか。


「さあ、どうなっているか楽しみですね」


「まさか全員死んだように成っていませんよね?」


「流石にそれはないでしょ。ポーションもあるし、医者のニックがいますから」


「いえ、そう意味ではなく何もかもをやり過ぎて、肉体的より精神的に披露してぐったりするような感じです」


 成る程……、それはあり得るかも。フランクやミランダは特にそいう傾向があるな。エマもそれに近い……。


 それから数十分後、俺達の最後の予想が的中した。


「いったいどうしたんですか? フランクさん起きてください戻ってきましたよ」


「ん? あぁユウマか? 戻って来たのか? もう三週間経ったんだな……」


「嫌々、寝ないでくださいよ。起きてこの状況を説明してください」


 サラも俺と同じようにミランダ達女性陣に声を掛けて回っているが、皆フランク同様屍のようにそれぞれが色んな場所で寝ているというか、ぶっ倒れていた。


 いったい何があった? この状況を見る限り肉体的にも精神的にも限界まで何かをやってその結果疲労困憊でぶっ倒れたとしか見えない。その後も何とか話を聞こうとしたが、何をしても誰も真面まともに受け答えせず、眠ってしまうので、諦めてそのまま寝かせておくことにした。


「ユウマさん、これでは私達の予想は両方とも外れという事ですかね?」


「ん~~、外れというか、今は分からないという方が正解の様な気がします」


 本当に彼らは何をどうしたのやら……?


 結局、彼らからこの状況の説明と俺達の予想の正解が分かったのは翌日の朝だった。


「おはよう! ユウマ昨日は悪かったな。お前たちが帰って来たのにあの状況で」


「おはようございます。それは別に良いのですが、いったい何をしたらあの状況に成るんです?」


「それを聞かれると答え辛いが、無茶をしたというという事だけは言えるな」


 そんな事は見れば分かる。俺達の聞きたいのはその内容だ。


「フランクさん、この三週間どのように生活していたんですか?」


「そうだな一言で言えば、やりたいことを全てやったかな」


 やりたい事ってみんなそれぞれ違うだろう。俺達の予想でもそうだったから、個人とかグループに分かれてやりたいことをしたんだろうとは思っているが、どうもフランクの言うやりたいことを全てやったというのは意味が違いそうだ。


「やりたいことを全てやったとはどう意味ですか?」


「どういう意味も何も全てだよ」


 この島での研究テーマはいくらでもある。大まかに言っても最低三種類はある。ダンジョン探索、島内調査、真珠の研究が代表的なものだ。細かく言えばきりがないぐらいある。それを全てやったというのか?


「どういう方法でやったんですか?」


「あぁそれは……」


 フランクの話した内容を簡単にまとめると、最初の一週間は全員でダンジョンに潜り続け宝箱の回収と最深部への到達を何度も繰り返した。そして二週目はこれまた全員で島内をくまなく調査、採取して、残る三週目にそれまで集めた物の研究をそれぞれでやったというもの。それも時間が惜しいと、この三週間一日二~三時間の睡眠でやっていたらしい。そして最後の二日ぐらいは一睡もしていなかったという。


 それもHPポーション、MPポーションをがぶ飲みしてやっていたというから、呆れてものが言えなかった。どんなにポーションでHPが回復しようが、睡眠をとっていなければそれは蓄積される。その結果があの惨状を招いた……。あほかと言いたかったがそこはぐっと堪えて、そこまでしてやった成果を聞いてみた。


「それで、皆さんの成果はどんなものです?」


「それは俺がひとりで全部は説明できない。全部は把握してないからな。聞きたいなら全員を集めて発表会でもした方が良い。あぁでもダンジョンの事だけなら俺一人でも教えられるぞ」


 まぁそうでしょう。ダンジョンは全員で行っているし、当然リーダーはフランクだったでしょうから、それは当然だね。フランクがそういうのでダンジョンの事だけでも聞いておけば、後の報告に時間が掛けられるからそうして貰うことにした。


 そして俺は、その報告を聞いてまた呆れてしまうことになる。


 内容は実に欲望むき出しの行為で、人は欲しい物があるとここまで出来るのかと思ったね。ダンジョンはいくら最深部まで到達されようが短期間では変化しないようで、最深部の宝箱から出る物も変化しないから、前回出たマジックバッグが出続けたらしい。そうなると当然皆の分を確保したいと思うのが心情、結果全員分が集まるまで周回したそうだ。それもいつダンジョンが変化するかも分からないので、睡眠を殆ど取らずに……。


 それを聞いて俺はダンジョンの成長やスタンピードの法則が少し理解出来た。ダンジョンが成長するのには魔力のような物が必要だが、普通は成長する必要がない物だから魔物を作って余る魔力のような物を消費する。しかしその魔物を作り過ぎると今度は魔物が魔力を消費するし、数的にも飽和状態になるので、その数を減らすのにスタンピードを起こして放出する。それと本来なら最深部まで来られたら成長して来られないようにする必要があるが、成長には魔力が必要だから魔力を貯める期間がいる。それなのに周回を続けられたら、本来貯める魔力を魔物や宝箱に使わなくてはいけないから、成長が出来ない。


 今回のマジックバッグ連続出現と最深部までの深さが変らなかった事で、この法則が正解だと俺は確信できる。この確信もフランク達の無茶な行為のお陰だが、流石に此処まで行くとダンジョンが可哀そうになるよ。一応生き物だからね……。


 ただ、この法則も変わる可能性はある。それは俺達が発見した魔力スポットの変化の可能性だ。休眠期と活動期があるとすれば、島の近くのスポットに変化が起きれば、魔力濃度が変わるから、ダンジョンにも影響が出る可能性があるからです。


 この事は俺達の冒険の報告の時に皆に教えておく必要がありそうだ。勿論、国にも。この世界にある魔力スポットに変化が起きれば既存のダンジョンにも影響が出る可能性があるから、国も知っておく必要がある。


 当然国への報告は俺ではなくフランク達だ。その為に教えるのだから……。丸投げ……。






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