第288話 これ以上は無理

「サラ出来たよ!」


「ユウマさん、お願いですから主語をお願いします。それでは何が出来たのか全く分かりません」


 そりゃそうだ。何かを作るとは言ったけど魔銃を作るとは言っていないもんな。それに魔銃と言ってもサラは理解できないかも? 夢の本の中に書いたとは思うけど、全部覚えてるとは限らないからね。


「ごめんごめん、これは魔銃と言って、魔法を撃てる武器だよ」


「え! 魔法が撃てる武器?」


「そう、これがその魔銃。カッコイイでしょ。こうやって持って、ここに指を掛けて、これを引く時に魔力を流せば魔法が発動します」


「わ、分かりましたから。それをこちらに向けながら話すの止めてください」


「あ! ごめん。つい興奮して。こんな風に人に向けたらいけないよと言うつもりだったのに。本当にごめん、ごめん」


「もう分かりましたから、次からは気を付けてくださいね。それはそうと、ユウマさんでもそんなに興奮することあるんですね。子供のようでしたよ」


 サラに恥ずかしい所を見せてしまった。以前にも魔銃は作った事あったのにあんなに興奮するなんて。多分好きな人の為にあれこれ考えて作り上げた物だから、早く見せたい、説明したい、使って欲しい、自慢したいというような、色んな感情が一気に出たんだろう。子供のようだったと言われても仕方がないね、これじゃ……。


「気を付けるよ。それじゃ改めて説明するね」


 今度は落ちついて、サラに魔銃の使い方とどんな魔法が撃てるのかを説明した。


「ユウマさんと同じ魔法が撃てるのは嬉しいです。これで私も足手まといにならなくて済みます」


 そう言えばサラは結婚する前から、そんな事気にしていたな。後ろに隠れて守られるんじゃなく、俺の隣に立ちたいと剣術や体術まで訓練してたからな……。


「それじゃ、試しに海に向けて一発撃ってみようか。最初は魔力を流したまま引き金を引いた方が良いかもしれないね。慣れてきたら、引く瞬間だけ流すようにすればそれだけ魔力を使わなくて良いように成るから」


 俺に言われた通り、サラは海に向かって魔法を撃った後、不思議そうにしていたから、


「どうしたの? 上手く撃てたのに」


「撃てたのは撃てましたが、何だかユウマさんの魔法より威力が弱いような気がして」


「あぁそれは多分イメージが曖昧な状態で撃ったからだよ。この魔銃の魔法陣は威力の指定がされていないんだ。普通の魔法陣は決まった魔法が決まった威力で発動するけど、この魔銃は威力をイメージする魔法陣なんだ」


 多分サラは俺の魔法が撃てる程度の事は考えていただろうから、魔法は発動したけど、威力までイメージしていなかったから俺の魔法より弱くなったんだと思う。何故わざわざそんな事をしたのか? 今まで通り決まった魔法が撃てる魔方陣で良いじゃないかと思うでしょうが、レーザー系の魔法は威力が一定だと魔物によってはオーバーキルだし、貫通するから後ろにある物にも影響するから危険なんです。


「イメージする魔法陣……」


「そうだね、分かりやすいのはティムやスリープの魔法陣だね。オックスを捕獲する時に使ったけど、あの時俺はイメージしながら魔法陣使ってと言ったでしょ。本来魔方陣は魔力を流すだけで良いんだけど、イメージをすることで魔法の効果とイメージが一致するように成ると、魔法陣なしでも魔法が撃てるように成るんだよ」


「ということは、これで撃っているといつかはこの魔銃なしでも撃てるように成るという事ですね」


「そうだよ。それに威力も調節できるように成る」


「ユウマさん、このタイプの魔法陣て魔法の練習にもってこいの物じゃないですか!」


 言われてみればそうだな。今までは自力でイメージして発動させていたから、イメージが固まるまでまともに発動できなかったけど、これなら曖昧でも発動するから実感が湧くしイメージが早く固まる。ついでに威力調整まで覚えてしまうな……。


 サラのように、ステータスに表示させるために一定の魔法を撃ち続ける補助に魔方陣を使うのもありだけど、サラのやった方法だとそこまでに到達すのに時間が掛かる。


「いや、サラのいう事も正しいんだけど、ただ単純に属性魔法を覚えたいなら、威力が一定の魔方陣魔法を初めからイメージしながら使い続ければ良いだけなんだと思うよ。ただ魔銃の方は威力の調節まで同時に覚えられるということだよ」


 どちらのやり方がステータスに早く載るか? それだけは検証してみないと分からない。


「そうですね。でもこれって盲点だっと思うんです? 今までのやり方は魔法はイメージだけを考えてイメージの練習が先だったと思うんです。でもユウマさんが言ったように、全員ではないですが、魔法陣なしで発動させることが出来たティムの魔法は魔法陣をイメージして使っていました。オックスの数が多かったから、数多く練習できたのもあるし、魔力量が多かったのある。私達はなぜこれを普通の属性魔法で使わなかったのでしょう?」


 確かにそうだ。闇属性のティムやスリープの時はその方法で魔方陣なしの魔法が撃てるようになっている。


 ん? なんだ? 急にサラの目つきが変ったぞ。何か俺に言いたそうな顔もしている。


「ユ・ウ・マさん、一つお願いがあるんですが、聞いてくれます?」


 何だ? この甘えたような言い方は……。俺は思わず動揺して、


「お、俺に出来る事なら別に良いよ」


「それならファイヤーボールのような簡単な属性魔法の魔法陣を作ってくれませんか?」


 はぁ~~~、そう来たか。属性魔法の修得方法に魔方陣が使えると分かったから、風魔法の他にも覚えたい魔法の魔法陣が欲しいと。まぁ作るのは問題ないんだが、今まで魔銃を作っていたから、これから魔法陣を作るとなるとまだここに居なければいけない。早く次に行きたいし魔銃の実戦テストもしたいんだけどな。


 それに俺用に作った、実弾よう魔銃の弾も作りたい……。


 しかし、俺は新妻のこの要望に逆らうことなど出来るはずもなく、承諾してしまったのです。その為結局その日は一日そこに留まることに成り、出発は次の日という事に成りました。


 翌日、俺は直ぐに飛行船を海岸につけ、実弾作りをやりましたが、その間中サラは今まで使った事もない他の属性の魔法を狂喜乱舞は大げさだけど、それに近い状態で撃ちまくっていました。


 そりゃ楽しいよね。俺だって始めて魔法を使った時、一つの属性でも楽しかったからね。それがこれなんだから当然喜びの大きさが違う。


「サラそろそろ出かけますよ!」


「は~~い! 今行きま~~す!」


 返事も軽いな。それだけ機嫌も良いという事だから作った甲斐が有るという物だが、この先の予定が大幅に遅れているので、俺は焦っていた。


 この先魔力濃度を測定しながら行くか、それとも魔境の終わりを兎に角目指すかの選択をしないと、予定の三週間で島に戻れない。どちらにするか?


「サラ、この先の魔力濃度測定を続けると、魔境の森の終わりまでは行けないと思う。ただ測定しなくても行けるという保証はない。どうする?」


「多分私も三週間では無理だと思いますよ。だった往復で三週間ですから。それなら濃度を測って調査を優先した方が良いと思います。それにあの魔銃も使ってみたいですからね」


 まぁ昨日と今日のサラの様子を見てればこう言うとは思っていたけど、こうまではっきり自分の欲望を堂々と言うとは……。


「ではサラの言うように測定しながら、日程の半分の所まで行き、そこで調査は終了、島に戻ることにしましょう。帰りは日程に余裕が出ると思うので、少し早いですがミル村の掘りを埋めるのもついでにやりますかね。二度手間に成りませんから」


「それで良いですよ」


 それから数日、魔力濃度を測定しながら海岸沿いを進んでいくと、濃度は少し上がったが、それ以降はその濃度をずっと維持していた。これから予測できるのは、魔力スポットの場所が海岸沿いにはないという事だけど、内陸からここまで濃度を保てるという事は、そうとう強力なスポットであることは間違いない。


「これ以上は無理ですね。この辺りで内陸に入るのも危険だし、濃度にも変化がないので、それなら戻りながら魔物を討伐してレベルを上げた方が良いと思いますが、サラはどう思います?」


「私はその方が良いと思います!」


 何だよその物凄く嬉しそうな顔は? マジでこれはサラに魔法を教え過ぎたかな?


 俺は確かにサラのレベルが上がって欲しいとは思う、寿命の為にもね。でも戦闘狂に成って欲しい訳じゃないんだよ。どこかでブレーキを掛けないとこのままでは拙い……。



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