第287話 魔銃
ちょっと前までは属性魔法の後天的発現はないと信じられていたこの世界が、今では普通にとまでは行かないが、属性魔法の表示が出ないだけの無属性魔法を使える人が増えてきた。中にはサラのように属性魔法を発現させた人もいる。まだまだ数は少ないけどね。
他にも魔法の種類が格段に増えた。昔と言える程前ではないが、以前は自然現象を模した魔法ぐらいしかなかったのが、今ではファイヤーボールのような魔法は普通になって来ている。魔法はイメージと言う事が浸透してきている証拠だ。それが特に顕著なのが付与魔法。
こうやって改めて整理してみると本当にかなり進歩したと思う。それをもう一つ進歩させるのが、魔方陣魔法であり、今から作る魔銃なのです。
魔方陣魔法は属性魔法を持っていない人でも魔力を流せば使えます。ただ最近の研究結果で、羊皮紙にも限界があるようで、永久に使えるという物ではない事が分かりました。使用頻度が多ければ劣化も早くなり、新しい物を購入しなくてはいけないようです。価格的にはそこまで高くありませんが、紙が売られるようになった時に羊皮紙職人が減ってしまったので、現状大量生産が厳しいようで、その分価格が下げられない。
まして多くが国が買い上げて軍備に回すから、冒険者や庶民には行き渡らない。出来る事なら庶民にまで行き渡って移動の際の自衛に使って欲しいのですがね。
まぁ魔方陣魔法に関しては秘匿している物も多いから広まらないのはしょうがない面もあるんですが、これからは国がどうするか決めるでしょうから、変わって行くかもしれません。
「さてと、魔銃を作るのは良いがどういう形式が良いかな?」
色んな魔法自体を刻印する方法と風魔法や火魔法に特化させて弾は実弾を作る方法、どちらにもメリットとデメリットがある。サラぐらい魔力があるなら魔法自体を刻印したものでもある程度制限なく使えるでしょうが、魔力が少ない人では使用に限度がある。それに対して弾を実弾にすれば飛ばす時の魔法に魔力を使うだけだから魔力の少ない人でも使える回数は当然増えるが、その代わり弾の補充は必要だから、使い勝手と金銭的に不便で負担もある。
それに以前作った魔銃とは違う方法、刻印をどうやるかも問題です。以前の魔銃は付与魔法を使っているので、魔石を使っている。魔方陣を使っていないので魔石の魔力が無くなれば一時的に使えなくなる。魔道具の魔法陣の場合は魔力の供給源が魔石だから似たようなものだが、使い方が違うから魔銃には向かない。
羊皮紙は魔物の皮だから魔力に強い、それと同じように考えれば、魔鉄や魔鋼、究極的にはミスリルで銃を作った方が良い。ただ魔道具のように金属にスタンプで良いのかも心配になる。使う魔法も生活魔法ではないから、耐久力がどうなのかも疑問だ?
今は大量生産の事は考えないでおこう。そこまで考えるには時間がない。
「それなら、魔力濃度測定器に使ったミスリルと魔石を合成したもので、魔法陣を書くか魔法陣を彫った所にそれを流して作るで良いかな?」
ひとりでこんな作業をしていると、どうしても昔のように独り言が出てしまう。転移した当初に良くやっていたな。
「先ずは普通の魔鉄の板で魔方陣を書くタイプと彫って流すタイプを作って反応を見てみるか?」
「こりゃ書くのも彫るのもムズイな。魔方陣は正確に書かないと発動しないからな」
かなりの時間が掛ったが結果的に俺は彫る方が上手く行った。上手く魔法が発動したのだ。これって俺は字が下手という事? いや、それもあるだろうが、多分鍛冶、木工のスキルを持っているから彫金のような事に補正が掛かったんだろう。
これも新しい発見だな。二つのスキルを持っているから起きる現象。場合によってはこれが進化して彫金スキルという物が生まれるかも知れない……?
「いや~~、それはないだろう……、でも俺って経験値100倍。一応見るだけ見てみるか」
「そうですか、そうですか。そういうもんなんですね」
久しぶりに自分のチートぶりに呆れてしまったが、俺のステータスには彫金の文字が確りと新たに載っていたのです。
「これってダブルスキル持ちだからじゃないよな。恐らく金属に彫刻をしたからだよね? でも鍛冶職人も木工職人も細工物は作るんだよね……?」
ん~~~、あ! そういう事か! 鍛冶職人は細工物と言っても彫るじゃなく型で造ったり、熱で曲げたりだし、木工職人は木材は彫るけど金属は彫らない。これって江戸時代の飾り職人と同じだ。これが木工なら指物師に成るんだろうが金属だからな。
そうなると鍛冶の知識と木工の知識を持っていて、することが飾り職人と同じことに特化すれば彫金スキルは発現する可能性が大だ。これって魔道具にも応用できるよね。スタンプの魔道具は格安品、彫金タイプの魔道具は高級品と言うようにね。耐久性が違うという事で差別化できる。
「いやいや、今はそんなこと考えてる時じゃない。今は魔銃作りだ」
俺は頭を振って、余計なことを考えないように本格的に魔銃作りに集中した。
「これなら、魔法のみタイプと実弾ありタイプの両方に使えるな」
魔法タイプならこの刻印を銃口の先端に付ければ良いし、実弾ありのタイプなら銃の後方、弾の後ろに刻印を付けるようにすればいい。
魔力を刻印に流すのはシンプルにミスリル線を利用して、引き金を簡単な構造で作って引き金を引いたら、ミスリル線が繋がって魔力が流れるようにすればいい。ただこれだと実弾ありのタイプは銃の中で魔法が発動するから強度と耐久力が必要だな。それに実弾ありは前世の銃同様、銃口に螺旋を作らないと直進性と威力に影響する。
「これだと実弾ありの方が加工が大変だから高級品に成ってしまうな……」
いや、そうでもないか? 魔法タイプは刻印が銃の先端だからミスリル線が長く必要だし、もしかしたら先端に付ける刻印もミスリル板にしないと威力が実弾ありと同じにならないかもしれない。そうなるとミスリルは今の現状島以外では採れないから、人工ミスリルに頼ることに成る。
人工ミスリルは作るのに時間も掛かるし大量には作れない。それならどちらも高額になるな。俺だからミスリルを遠慮なく使えるけど他の人はそうじゃないからね。それに島のミスリルの採掘を制限すれば大量の魔銃は出回らないだろう。
そう言いながらも結局はこれは当分秘匿するつもりだけどね。これだけはまだ絶対に早い。戦争になんか使われたくないし、これを研究すれば大砲だって作れるから、それだけは避けることは出来なくても、俺はやりたくない。
どのみちサラもこの魔銃を使うような場面は、この魔境ぐらいだから当分は隠せるでしょう。
「よし! ここまで分かればサラの魔銃は総ミスリルで作ってやろう。シルバーのこの世に一つしかない魔銃、カッコイイじゃない。俺の嫁にふさわしい武器だ」
此処には鍛冶をするする施設も無いから、今回は錬成陣をフルに使って、銃の作成をする。全てを一度に錬成するのは剣や刀のようには出来ませんから、設計図を書いて部品ごとに製作した後に最終的に錬成陣で繋ぎ合わせます。今回のミスリル線には魔石を合成していますから、魔力の通りも良いのですが、見栄えの為に総ミスリルにしたのが災いして、魔力が分散されてしまうので、手間ですが、ミスリル線の通るところには、魔力を通しにくい鉛を塗るような形で使っています。
これは弾ありの時でも同様に成りそうなので、本体は普通の鉄の方が良いかもです。もしくは魔鉄や魔鋼を使いたいならサラの銃と同じようにするしかないでしょう。
こんな事を考えていると、俺も自分の分が欲しくなって来て結局弾ありのタイプを作ってしまった。
「おぉ~~~、カッコイイじゃん! これってどう見てもあれだよな。設計図を書いている時から思っていたけど、〇〇ホーン特化型と言うやつだよね。あのアニメ好きだったから魔法銃と言えばこの形が一番に浮かんだしイメージしやすかったんだよね」
分かる人には分かると言うやつだね。この世界にそんな人いないけど……。
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