第297話 またまた魔境

「おう~~~これが飛行船ですか!」


 この一人の言葉を発端に、次々と視察団から飛行船を始めて見た驚愕の言葉が続いた。


「話には聞いていたがユウマ君、これは凄いものだね」


「お義父さんそれはこれに乗ってからの事ですよ。見ただけで驚いていては身がもちませんよ」


 飛行船位で驚いていたら、この先に待っている本当の魔境を見たら腰を抜かすだろうな。高所恐怖症でない限り、飛行船で恐怖は感じないだろうが、本当の魔境の魔物は見たこともないし、同時に恐怖も感じるからね。


「マーサさん、ロベルトさん、今回は申し訳ありませんね。急にこんなことに成ってしまって」


「大丈夫ですよ。今回は相手が役人と騎士ですから、私達が適任です。私達ならあの人達の良いようにはさせませんから」


 勿論、それが人選の理由だからね。それを理解していてくれて本当に助かる。


「日程についてや何かありましたら、直ぐにクルンバで連絡してください」


「はい、多分一週間から十日ぐらいだとは思いますが、変わるようでしたら連絡します」


 マーサ達が飛行船で出発したのを見送ってから、今度は俺達が出発する。今回の同行メンバーは、俺、サラ、お義父さん、お義母さん、エリー、フランク、ロイス、そして最後になんとスーザン。


 本来スーザンは来れない筈だったのです。当然理由は学校の開校準備があるからなんですが、今回ロイス達が魔境に行くことが決まった事をミランダ達が知って、学校の準備は自分達がするからと、スーザンを送り出したのです。


 勿論、これにはメンバー全員が知っている二人の仲を縮めるという魂胆があります。俺も最初聞いた時には驚きましたが、本格的に二人の仲をどうにかしようと皆が思っているようです。身分的な問題もなくなったし、これが良い機会だと女性陣が率先して動いたみたいですね。


 現状の二人ははたから見ているとイライラする部類に入るぐらい、お互いの気持ちを抑えているように見える。どうしてそこで行かないんだと思うような事ってあるでしょ。正にあの状態なんですよ。そこまでするなら告白しろよと何度思った事か。


 まぁそんな感じでスーザンの同行が急遽決まったという訳です。それに伴ってロイスの雇い主であるフランクも気合が入っています。今回の旅で絶対にどうにか発展させようと、うちのサラまで巻き込んで何か仕掛けるつもりの様です。


「さぁ出発しますよ! 暫くはベルトを締めておいてくださいね」


「おぉ~~、浮いてるぞ!」


「あなたうるさいですよ! 子供じゃないんですからそんなに騒がない!」


 お義父さんだからというのもあるが、こういう時って決まって騒ぐのは男の方なんだよね。逆に女性の方は胆が据わっているというか騒ぐ人は少ない傾向にある。家のメンバーを見ていると自然にそう思える位騒ぐのは決まってフランクやロイス達男性陣だからな……。


 若干一名女性でも騒ぐのがいるが、それは好奇心の塊で元気一杯のローズだから、納得出来てしまい、別に誰も咎めない。


「おお~~、これが空の旅か~~、凄いな」


「こんな事が出来るなんて夢のようですね。あなた」


「お義父さん、お義母さん、国王より先に飛行船に乗ったからって帰ってから自慢しないで下さいよ。この飛行船は秘匿事項ですし、陛下が聞いたら僻みますよ」


 今回だって島には自分達が行きたかった筈だ。特に魔道具やそういう物に目が無いカルロスなんて相当行きたがったと思う。以前魔境調査の話をした時でも飛行船と魔境について相当食いついていたからな……。


「いや、もう嫌味は言われているからその心配は無用だ。ユートピアに来る前に散々言われたからな」


 え! 言われた? 


「お義父さんそれはもしかして、陛下がラロックに来てたんですか?」


「あぁ来てたよ、両陛下ともな」


 何してんだよ~~、この間俺達の結婚式に来たばかりだろう。国王がそんなに頻繁に国や王宮を留守にして良いのかよ?


「もしかして、カルロス宰相も何て言いませんよね?」


「勿論来てたさ。カルロス殿は拠点の魔道具生産工場に入り浸っているぞ」


「それで大丈夫なんですか? 国王や宰相がそんなに頻繁にラロックに来て?」


「それなら大丈夫だ。そろそろ代替わりの準備も兼ねて息子たちに仕事をさせてるようだからね。それに以前からわしの引退と移住が羨ましかったみたいだからな」


 成る程ね。確かにお義父さんを見れば羨ましいよな。近くに温泉はあるは王宮より凄い屋敷に住んで、魔境で好きなだけ魔物を討伐してるからな……。まして今回の視察に同行できたのもその身軽さが大いに関係してるから余計に羨ましい筈だ。それなら嫌味を言われて当然か……。


 そんな感じで俺達が話をしてる時、今回の旅の目的の一つに成っているロイスとスーザンはどうしてるかというと、微妙な距離を保ちながら会話をしていた。本当にイライラする距離感だ。もっとこう……近づいて話せよ! この旅の目的に成っているからか今まで以上に二人の動向が気になって仕方がない。


 そんなイライラが続きながらも旅は順調に進み、いよいよ魔境が見えてきました。


「そろそろ、魔境に近づきますので心の準備をしてください。それと昨日話したようにこれから行く場所は魔境の魔力スポットで、ワイバーンの生息地ですから慌てないようにお願いしますね」


「ユウマはそう言うけど、そこまで近づかないんだろう?」


「えぇ、かなり離れた所までしか行きません。その為に身体強化の応用、遠見を覚えて貰ったんですから。身体強化の使えないお義母さんとエリーさんには望遠鏡を使ってもらいますからね」


「ユウマさん、どうしても近づけないんですか?」


「もういい加減諦めてください。ロイスさんの魔力量ではワイバーンのティムは無理だと昨日あれほど説明したでしょ」


 ロイスはここまで来るまでに散々違う事でイライラさせられてるのに、昨日からこのワイバーンの件で更に俺をイライラさせている。何時までも女々しいとスーザンに嫌われるぞと物凄く言ってやりたい。


「見えてきましたよ。あの魔境の森から突き出ている山がそうです」


「おい、ユウマあんなに森の外れから近い所に山があるぞ」


「何という事だ。あんな近くなのに何故ワイバーンを見たものがいないのだ」


「フランクさんもお父さんもそう思うでしょ。俺も初めはそう思いましたが、サラに言われたんですよ、ラロックでもそんなに奥まで入らないだろうと……。ここから見るとかなり浅いように見えますが、実際はラロックの俺の魔境の家よりも深い所ですよ」


 これは人の錯覚なんだよな。魔境があまりにも大きいのと、こちらがいる場所が遠いから山の位置が森の外れから近いように見えているだけなんです。


「もう少し近づいたらその意味が分かりますよ」


 今回も飛行船を見られないように魔境の森側から山に近づいて行くと、


「あの黒い点か?」


「そうです、あの黒い点が普通に目視できるのなら、遠見を使ってみてください。ワイバーンが見えますから」


 お義母さんたちにも望遠鏡で見えるはずだからと勧めてみたら。


「わぁ~~、凄いですね。あれがワイバーンですか!」


「奥様、お嬢様、エリーはもう死んでも良いです。こんなものが見られたのですから」


「婆や何を言ってるの、これぐらいでそんな事を言っているようじゃ、この先何度も死ななくてはいけませんよ」


 サラの言っていることは凄く正しいが、出来ればもう少しオブラートに包んで話そうよ。戦闘狂に成って以来サラの物言まで過激になって来ているのが、最近特に気になる。


 ん? さっきまであれほどしつこかったロイスが何も言わないと思いロイスの方を見ると……拝んでるよ……。そう言えば以前聞いたことがある。ロイスという男は何かに執着する癖があると。遡れば俺が転移したての頃のレンガから始まり、オックス捕獲でティムの魔法に目覚めてからはクルンバやアクイラにハマっている。そして今はこのワイバーン。


 それぐらいスーザンにも執着すれば良いんだけどな……。


「どうですかあれがワイバーンです。レベルは25。以前魔境の調査でみたクロコダイラスが15ですからその強さは分かるでしょ」


「ユウマ君、レベルが15や25なんてとんでもないな。わしがラロックの魔境で倒してる魔物なんてレベル3程度だ」


「此処で驚いていてはサラじゃないですが、身がもちませんよ。このもっと先の魔物は殆どがそれと同等です。そこまでにはもう少し低いのもいますけどね」


「魔境とは本当にその名の通り魔境なのだな。自分達がいかに認識不足だったかよく理解した……」


 若干一名を除いて、皆が魔境という物を再認識したところで、本格的にパワーレベリングに向かう為、魔力濃度の濃い場所へ向かった……。






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