第127話 運命の人?
物凄く落ち込んでラロックに着いた俺を待っていたのは、ひとりの患者だった。
その患者は本来、この病院に送る事が困難なぐらい衰弱していた。
それでも最後の望みと思い、途中で命が尽きるのを覚悟の上で、遠路はるばる隣国のグーテル王国から運ばれてきた。
この奇跡の搬送には俺が作った改良型の馬車が大きな役割を果たしていた。
台車と上物が別に作れることで、上物にクッション性の高いスライムベットを取り付けることが出来、振動を極力抑え、高速が出せる台車のお陰で、何とか無事に病院に着くことが出来た。
そんな患者を目にすれば、俺の小さな悩みなど一気にどこかへ消え失せ、この命を救わねばと思い、診察を始めた。
今回は一刻を争うので、俺の鑑定EXで診察する。普段は魔力感知を使って弱っている臓器などの診察をするようにしている。これは此処で学んでいる医者の卵たちに魔力感知の魔法を教える為でもある。
当然の如く、無属性の魔法を使うには魔力量も必要になるので、卵たちにもパワーレベリングやスライム討伐はさせている。 年齢に関係なくね。
(うゎ! これはなんだよ、良くこの状態で今まで生きて来れたものだ)
診察結果は乳がん末期、背骨と肺に転移してる。
恐らく、乳がんの末期症状が出るまで本人は気づかなかったのだろう。気づいた時には転移もしていて、骨が脆くなり骨折し動けなくなったということのようだ。
(これはマジにやばいな。どう治療しよう?)
乳がんは切除後ポーションでなんとかなる。肺も同じだな。問題は背骨だ。
背骨の切除は可能なのか? 腕や足が切断されても骨は大きく減っていないから接合できる。でも骨の癌だと骨を大きく切除するから、上手く再生できるか分からない。前世だと人工骨とかになるのかな?
臓器の切除は一部、患部のみの切除だから再生は容易い。だが骨は足の骨が曲がって再生するように、背骨もどうように正確に再生させる方法を考えないといけない。
仕方が無い、先ずは乳がんと肺の転移を先に手術して背骨は後回しだ。これで一時的には延命できる。
「急いで手術の準備を、手の空いているものは手術の見学をするように」
こんな手術めったに見れるものじゃない。不謹慎だがこれは多くの卵たちに見て貰いたい。魔法とポーションのある世界だから、救える命があるというこを……。
「ユウマさんお見事でした。あの状態の患者を救えるなんて」
「いえ、まだ救えてはいません。まだ骨に病巣があります」
称賛してきたニックに、俺は患者の病状について詳しく説明した。そして残っている問題についてどうするか? これから考える事も。
「そうなんですか、確かにそれは難題ですね。どうするつもりですか?」
一応は考えていることはあるが、それが上手くいくかは実験してみないと解らない。
翌日から俺は魔物を生け捕りにしては、何度も背骨の再生手術の検証をした。
「やっぱりこれじゃまともに再生しないな。骨と骨の間隔があきすぎている」
色々試しても、まだ解決策は見つかっていないが、俺の中では前世の方法の応用だと確信してる。
前世だと人工骨を間に入れてボルト固定、背骨ならワイヤー固定か。でもこの世界では人工骨は作れない。本当に作れないのか?
骨=カルシウムは分かる。ただこれだけでは骨は作れない。なんだっけかな?
人工骨の成分。うん~~~~ あ! そうだリン酸カルシウムだ。
肥料の製造に使われるから、人工骨も同じだと知って、へぇ~~っと思ったんだよな。
でもな~~ これ作るの超面倒なんだよな。天然にも存在するけど、この世界にあるのかは分からない。俺なら作れるけどそれじゃ駄目なんだよ。誰でも対応できるようにしないと。
「再生、骨、再生、骨、再生……」
うん? 骨は再生する時どうして曲がって接合するんだ?
臓器は多分だが細胞に記憶があり、その記憶通りに再生する。
じゃ骨は? 骨の細胞にも記憶はあると仮定するとどうして曲がるのか?
あぁ~ そうか、骨は骨と骨の細胞が引き合って再生するけど、骨は動かないから、その場所で接合するから曲がる。
それなら離れていないと錯覚させたらどうだろう?
身体の別の場所の骨の一部を採取して、切除後離れた部分にほんの一部でも繋がってる様に採取した骨をくっ付けて置けば、背骨の形に再生しないだろうか?
骨の一部が欠けたように認識させれば普通に再生されるはずだ。
「ニックさん~~ ちょっと手伝ってください」
俺は考えた理論通りに、ニックの前で魔物の手術をし成功させた。
そうだよ! 欠損した部分が元の状態になると言うことは細胞に記憶があるか、この世界にあるかのどちらかなんだよ。
そうなるとこんな仮定もできる。ポーションは細胞の記憶、治癒魔法は世界の記憶。
これってあながち間違っていないかも……。
数日、再生手術の練習と検証をしたのち、無事患者の背骨の手術は成功した。
「こんにちは、体調はいかがですか?」
「はい! わたしが死に掛けていたんて思えないぐらい調子はいいです。ユウマ先生」
「先生は止めて下さいよ」
「だって皆さんそう呼んでいますよ」
この女性はグーテル王国の公爵家の次女、サラ・ミュラー 末期の乳がん患者だった、その人。
サラとたわいもない会話をしていたら、ひとりの男性がノックと共に入室してきた。
「サラ様、御快復おめでとうございます」
「あら! マイルズ大使、お陰様でこんなに元気よ。あなたには感謝しかないわ」
この人がグーテル王国の大使か、聞いた話だと、この人が視察の内容をグーテルに報告した事で、公爵がサラを此処に送る気になったという話だったな。
サラにとっては命の恩人でもあるな。馬車の手配もこの人がしたみたいだから。
「つきましては公爵様から
「あらお父様から、なにかしら?」
「はい、病気も治ったことだし、ここは勉学にも向いているし、気候も良いので暫く滞在するようにとのことです」
「そうなのね。ユウマ先生そういう事みたいなんですが、どうしたらいいでしょう」
そう言われてもな。サラは確か20歳だったよな。貴族の学校は卒業してるようだし、どういう意味で公爵は勉学なんて言ったのか?
ここの学校は職業訓練校が中心、一応普通科は存在するけど、そこに入れということか?
「サラ様は何か学びたいものとか、学んでいたものとかありますか?」
「学んでいたものですか? これといってありません。それに学びたいものもは分かりません。死ぬのだと思った時から将来の事など考える事もなかったですから」
「それなら暫く私の補佐でもしてみますか?」
この時、俺はなぜこんな事を言ったのだろう? 普通なら学校の見学や拠点の見学を進めて、スーザンあたりに引き継ぐはずだ。
それなのに、この時は無意識にそう答えていた。
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