第236話 開戦? 終戦?
「ユウマやっとお出ましだぞ。えらく時間が掛かったがな」
「本当ですよ。まさか4週間も掛かるなんてこの国はどうなっているんでしょうね」
南部の領主たちの勢力なんて普通に考えれば国軍が相手なら遅くとも1週間あれば殲滅できるはずなのに、殲滅するのに8日、それからここに来るまでに15日以上かかっている。
まぁ疲労を取ってから来たという事も考えられるけど、それでも流石に15日は掛かり過ぎ。それに休養を取ったにしては兵士の疲れ方が尋常じゃない。
「あれどう見ても兵士の移動に馬車を使っていないよな。普通の国ならまだ少しは理解できるけど、この国は縦に物凄く長い国だぞ、兵士の移動に馬車を使わないなんて常識が無いだろう。素人の俺でもそんなことしないと思うぞ」
嫌々、フランクは素人とは言えないと思う。商人だし今まで馬車での移動を何度も経験してるから、徒歩の移動の大変さを十分理解してるから、素人という表現は当てはまらないと思う。軍人じゃないという意味だけに絞れば素人だろうが、移動に関してなら素人ではない。
「これじゃ今魔法を解除できないな。今やったら怪我人続出だよね。もう少し臨戦態勢に成ってからじゃないと無理だよ」
「この状況なら今すぐ開戦にはならないと思うから、戦闘態勢は解除しても良いな。それに元々必要ないと思う。落とし穴で終わりだろう?」
フランクの言う通り、落とし穴で殆ど終わってしまうと思うけど、一応何が起きるか分からないから、準備だけはしておかないといけないから戦闘態勢を取っていたけど、この分だと本格的に対峙するのは明日に成りそうだ。
「取り敢えず皆さんに十分な食事と休養を取らせておいてください。明日は忙しくなると思いますから」
「忙しくなるのは怪我人の治療が殆どだろう。ポーションの準備も出来ているから、瀕死状態の怪我人でも対応できるぞ」
今回用意したポーションは一部あの島の薬草も使われているから、その臨床試験も兼ねている。戦争という場面でやるのは物凄く不謹慎だけど、一度に物凄く多くのデータが取れるのはありがたいから、そこは勘弁して貰う。
言わなきゃ分からないしね……。
「今いうのも変だけど、お前のその恰好は何の意味があるんだ。」
今更? 俺の今の格好は前回の隣領の襲撃の時からなんだけど、気に成っていたならもっと早く言えばいいのに、今になって聞いてくるなんて、聞かれる俺の方が恥ずかしいんだけど。
俺の格好は俗にいう黒騎士スタイル。全身黒ずくめの皮鎧でマスクまでしている。絶対に顔を見せられないのもあるけど、この大陸では絶対にないスタイルというのも考慮して前世のアニメなどに出てきていた黒騎士=正体不明を使わせてもらった。
「外国の騎士というのが見た目で直ぐに分かるようにしたつもりだけど変かな?」
「変というより、不気味?」
正体不明=不気味、間違ってはいないけどそれは言って欲しくないな。あくまで正体が分からないというコンセプトで作ったんだから……。
まぁアニメや漫画を知らないんだから、そういう発想になるのも仕方がないが、仮面位で止めておけば良かったかな?
今回は皮で作ったからまだこれで済んでるけど、本当はスライム素材で作ろうしてたんだよね。ウエットスーツや未来的なスーツを想像してたから、体にぴったりフィットしたスーツを作ろうとしてたけど、作らなくて本当に良かった。作っていたら間違いなく変人扱いされてたよ。
翌朝、敵兵を起こして煽るために創造魔法で作った拡声魔法を使って
「我こそはユートピア王国の全権大使、ズールである。我はこの国の国王の愚策によって苦しめられていた住民を救い、その民を守るために仕方なくここに我が国の領地を作った。これから先この領地は我が国のものとする。よって今後一切の手出しは無用」
ちょっと大げさなくらいに仰々しい言葉を使って口上を述べて、こちらが正義であるということを相手にアピールした。仕方なくなんていう言葉もわざわざ入れて、相手の気持ちを逆なでした。
普通に考えれば、理由はどうあれ侵略であることに変わりはない。それを全て相手が悪いという事にしてしまっているのだから、言われた方は怒るに決まっている。
「ユウマさん、流石に煽り過ぎでは? あとの交渉がやり辛くなりますよ」
「問題ないですよ。普通ならこんな事を言われるなんてあってはならないのですから。そもそも国がちゃんとしてたら、こんな事には成っていません」
王政の国で王の権力が弱いなんてあってはいけないんです。それに戦争が殆どない世界だからと言って国の軍隊が小規模で、辺境伯でもない貴族が多くの騎士を持っていることが間違っている。
男爵クラスの貴族なら騎士は2人もいれば多い方、普通ならいません。代わりに従士が5~10人位というのが普通です。それ以外は兼農の兵士であったり、農夫が戦に駆り出されるというパターンです。
実際ここの前の領主は騎士だけでも10人以上、従士の様な人が50人以上いたんです。これでは税金を多く取らないと維持出来ない。その結果が盗賊家業、なる様にしてなったという事ですね。
「何やら奥の方で騒いでる人物が見えますね。多分あれが国王でしょう。そろそろ動きますよ。落とし穴を起動させてもフランクさん達は出てこなくていいですからね。後は全部俺と住民の方でやります」
ビーツ王国の陣形は前方に魔法士がいて、その後ろに馬に乗った騎士、最後尾に歩兵という物凄くおかしな陣形? 普通なら歩兵がいてその後ろに魔法士、最後が騎馬隊というのが普通でしょ……。
魔法が一番強力だと思っている布陣なのかな? それでもそれは魔法で城壁が確実に壊せるというのが条件。それにしても弓で攻撃されるという事を考えていないのかな? まさかその弓の攻撃も魔法で防ぐつもり? 魔力もそんなに多くないのに……。
戦争が無いと戦術も発展しないんだろうね。まして硬化された土魔法なんて知らないだろうから、魔法でどうにかなると思っているんでしょう。
「全部で何人ぐらいでしょうか?」
「そうだな……、多めに見積もっても5000人はいないだろう」
一国の兵力が5000人もいない……。盗賊が50人以上いたのに……。呆れてもう何も言えないよ。
お! 中世の戦らしく馬に乗った騎士が口上を述べに来たけど、聞こえないふりして魔法を解除。
「ド~~ン」という音と共に平原の地面が一気に陥没。物凄く大きな落とし穴が完成して終戦。予想通り国王と数人は落ちなかったけど、全員あまりの惨事に腰を抜かして、座り込んでしまった。
「作戦通りなんだけど、ちょっと手順を間違えたかな?」
「どこの手順を間違えたんだ?」
「本当はいきなり魔法で攻撃されると思っていたから、それをわざと受けて効果が無いという事を分からせてから、落とす予定だったんですよ」
口上なんて聞きたくもなかったから、思わず魔法を解除してしまったというのが本音だけど、それを言う訳にはいかないから手順を間違えたことにした。
「それじゃ、ちょっと行って王様を拘束してきます」
「軽く言ってるけど、普通ならあり得ないことだからな。国王を拘束するなんて……」
ここまで来るともう、開き直りというか麻痺してるのか、国王という身分なんて全く気にしていない。ただの愚かな人? 一応貴族ぐらいには思っているから少しは丁重に扱うけど、敬う気持ちは全くない。
さて交渉はどうしようかな? 内容はもう決まっているけど流石に交渉の場所が青空の下という訳にも行かない。取りあえずトーフハウスでも作れば良いか?
落とし穴に落ちた兵士の手当ては住民の人にポーションをロープで穴に降ろしてもらって、自分達で治療して貰おう。
あ!でもこれは拙いな。殆どの怪我は骨折だろうからこのままポーションを飲んだら変な治り方をする人が多く出て後が大変になるな。
仕方がない、国王はトーフハウスに閉じ込めといて、俺が治療の指揮を執るか……。
5000人もいるからこりゃ大変な作業に成りそうだ。
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