第235話 ユートピア王国

 内戦が終わるまでこちらは動けないから、その間に今後の事について皆で話し合った。


「内戦が終われば、今度は此処に攻めてきます。その時に俺が特大の魔法で相手を一度驚かせて、それから交渉に入ろうと思っています」


「特大の魔法ってどんなものだ?」


「それは巨大落とし穴です」


「はぁ~~それが魔法? そんなの魔法じゃないだろう」


「一応魔法で作って、落とすのも魔法ですから、からくりのある魔法です」


「もしかして、ユウマさんが時々姿を消してたのはその為?」


「それってもう準備は終わっているという事か?」


「はい! 何時でもこいの状態ですね」


 俺は交渉に必要な魔法で驚かす方法を色々考えたが、どれもパッとしなかった。沢山の雷を落とす魔法、大きな爆発の魔法……、どれも怪我を出来るだけさせないようにすると、中途半端なものに成ってしまう。


 それなら多少の怪我は覚悟のうえで落とし穴で落としてその後の抵抗を出来なくした方が良いという考えになった。


 深さを5mほどにすれば骨折はしても、余程の事が無い限り垂直に落ちれば死ぬことはないと思う。頭から落ちれば可能性はあるけど、身構えていたらそんな事にはならないだろう。


「それでも落とし穴に全員落ちるか?」


「落ちますよ! だってあの壁の向こう側の殆どが落とし穴ですから」


「殆どって、あの平原全部か?」


「トンネル工事で習熟度が益々上がって、巨大な穴を掘るのが物凄く早くなったんですよ」


「それだと人が乗った瞬間に落ちるだろう。そこはどうしてるんだ?」


「今は硬化魔法で固めているので問題ないですが、魔法を解いた瞬間に巨大落とし穴が出現します」


「からくりのある巨大魔法とはよく言ったものだ。まさにその通りだな」


 それでも一部は残る可能性があると思っている。中世でも戦国時代でも、将軍や国王というのは部隊から離れたところに陣を張る事が多いから、落とし穴に落ちない可能性もある。


 総兵力がどのくらいか分からないから何とも言えないけど、この平原はかなり広いから、国王の陣も平原内に作ってくれることを祈るばかりだ。


 この平原に落とし穴を作る事にしたのにはもう一つ理由がある。交渉後に落とし穴は埋め直すが一度掘り返した土だから良い畑か田んぼに成ると思っているからだ。


 実はここに来る最も最初の目的だった米はもう見つけたのだ。草原を下見に言った時に、陸稲がまばらに育っていたんです。だからこの場所で水田栽培も可能だから一石二鳥の落とし穴作戦。


 この領には山脈から流れる良質な水もあるから、きっとおいしいお米が育つはず。品種改良を重ねれば魚沼産コシヒカリの様なお米がとれるかも……。


「ユウマさん! 何ですそのだらしない顔は? 少し涎も出ていますよ」


 やべ! 米が食べらると思ったら、にやけてしまっていたんだな。それに涎まで……。


 しょうがないよね米をもう何年も食べていないんだから。日本人が米を忘れる事なんて無理。良く前世のSNSで米なんてどうでも良いというコメントを見たことあったけど、そういう人は子供の頃から米を食べていない人なんでしょう。私見だが俺は絶対そう思う。


 俺の前世の母方の実家は山深くの田舎だったから、米は棚田の米だった。これを一度食べたら市販の米が美味しくなくなったぐらい米には執着がある。だから米なんてという言葉には超ムカつく……。


 米の話は取りあえずここまでにして、この独立国では農業と漁業を発展させるつもりだ。国民が飢えない、美味しいものが沢山食べられる国。これをビーツ王国に見せていかに南部を大事にしなかった自分達が愚かなのか分からせてやる。


 そこでこの独立国の名前をユートピアと命名した。これは他の大陸にそういう名前の国があるという設定。ユートピアというのはその大陸では楽園という意味だということも宣伝する。


 人は衣食住さえしっかりしていれば幸せになれる。その為には努力しないといけない。その努力は国だけでも国民だけでもいけない。両方がかみ合って初めて成り立つものだという事を広める。


 そうすることでユートピアは見せかけの独立国だけど、この大陸の中でエスペランス王国の一人勝ちみたいに見せない効果が生まれる。この独立国から情報発信していけば努力してる国が二つに成るので一つの国が目の敵にされることが少なる。


 新しい発見である真珠の付与魔法を広めるにはエスペランスではおかしい事に成るから、この独立国はそういう面でも好都合。


 大型帆船をこれから広めるにしても、飛行船は当分秘匿しておきたいから、この別大陸設定はとても有効なのです。


 以前考えた山に住んでいた設定に爺様が本当は別大陸の人間だったかも設定を追加すれば、もっと俺の設定に信憑性が生まれるんじゃないだろうか?


 別大陸は文明が発達してると勝手に思い込んでくれれば更に良い。問題は此処までどうやって来たのかを聞かれたらどうするかだけだ。


 そこまで聞かれたらその時飛行船を出せば良いか? どのみちエスペランス王国の国王達には飛行船は公開するつもりだから、あくまで国外向けの設定では大型帆船で来たという事にすれば良いかな? 爺様は船が難破した時の生き残りという事にすれば大丈夫だろう。俺の両親はその時に死んだという事にすれば辻褄は合う。


「ビーツ王国と対するという所までは良いんですが、問題はここの元領民です。最低でも口裏は合わせは必要です。今の所ここの住民に俺達がエスペランス王国の人間だという事はバレていませんよね?」


「いや、バレてるぞ」


「え! そうなんですか?」


「そりゃ飛行船の事は話していないけど、住民だって落ち着いたら俺達のこと聞いてくるだろう。どこの人位は……」


 そりゃそうだ。聞かない方がおかしいよね。俺がその立場でも聞くは、普通に……。


 そうなると益々、これからの事を住民と話し合う必要があるな。このままではいつか情報が洩れる事に成る。


「そうですね、それじゃこの際ですからここの住民の中から代表者を決めましょう。どのみち俺達はここにずっといるわけではないのですから」


「そうだな。この国との交渉が終われば、ここに一切手出しできなくなるだろうから、ここの住民に任せても大丈夫だろう。それにちょくちょくこれからは此処に来ることになるだろうしな。あの島がある以上」


 そうあの島があるから、これから頻繁に此処には立ち寄れる。まして真珠養殖を広めるならここからが最適。本格的な養殖は島に残して来た養殖の実験結果次第だが、成功していればここでの養殖が現実味が出てくる。


 ただ魔力の濃さがどれだけ影響するかでまた違ってくるが、その時はまたその時に考えれば良い。


 先ずは米作りと帆船作りからだ。米作りはまだ少し時間が掛かる、用水路と水田がまだ作れないからね。落とし穴使ってないから……。


 それでも流石スキルのある世界、帆船の方はもう形は出来上がっている。後はこれを参考にどんどん発展させていくだけ。


 数日後、住民の代表が決まった。代表1人と副代表2人。


「代表になったロベルトと言います。この度は俺達を助けてくれてありがとう。これからはその恩に報いるように頑張って働きますのでよろしくお願いいたします」


「いやいや、恩のために働くんじゃなくて、自分達の為に働いてくださいね。俺達はその手助けをするだけですから。それにこちらの我儘もありますから気にしないでください。協力関係というのが一番合っているんですよ」


「その件に関してはフランクさんから聞いています。此処を仮の外国の国とするという話ですよね。その事は俺達も納得していますから安心してください。解放されてから今日までの皆さんの態度や援助をみれば、俺達の事を考えて動いてくれているのは理解できていますから」


「口を挟んで申し訳ないですが、副代表のラングと言います。俺達は感謝しかないのです。俺達を人間として扱ってくれた人達なんですから、俺達に出来る事なら何でもしますから、遠慮なく言ってください」


「俺は副代表のマッドと言いますが、俺も同じ気持ちです。何でも言ってください」


「そこまで気にすることはないんですが協力して欲しい事があるのも事実なので、これからよろしくお願いしますね」


 前世でいうつり橋効果的なのか、今までの反動なのか分からないが、忠誠心みたいに俺達を崇めてるのはちょっと怖いが、これなら情報が漏れることはまずないだろう。



 ここまで来たら、さっさとビーツ王国との交渉を終わらせて、ユートピア王国の開国と行きますかね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る