第234話 ビーツ王国王宮
「いったいどういう事だ。南部で起きた事、起きてることは真実か?」
「南部の領主からはまだ何も報告は上がっていませんが、こちらの諜報員からの報告では事実のようです」
「外国から攻められたというのならまだ理解できるが、この撒かれたチラシの内容が事実ならあいつらはわしを舐めているという事だ。南部、北部と別れていてもビーツ王国は一つの国で、国民は全てわしの民だ。それを良くもこのような仕打ちをしおって、わしは絶対に許せん」
「ではどのようになさいますか?」
「北部の領主に召集を掛けろ。揃い次第南部の領主共に通告を出す。わしの民を守れん領主はわしが処罰すると、逆らうなら武力をもって制圧するとな」
今までは内乱を出来るだけ避けるために、派閥争いを容認してきたが、今回ばかりはそれどころではない。民からの搾取に加えて外国からの侵略をゆるすなど、処罰しても何の問題もない大義があるからビーツ王国の国王は今回は本気で南部を潰しにかかるつもりだ。
「宰相よ、わしにはどうしても分からんのだ。このチラシは誰が、どうやって撒いたのかが。内容を読めば侵攻して来た外国の者が書いたように思えるが、それにしてはこの国の事情に詳しすぎる」
「それは住民から聞き出したのではないでしょうか? 不平を持っている住民なら簡単に情報を話すでしょう」
宰相は当然のように返事したが、これは逆に言うと国民がこの国を信頼していない、愛していないという事を証明してることに気づいていない。こんな事を軽々しく答えてしまうこの国の宰相は有能ではないのだろう。
これがエスペランスのカルロスなら、脅されたんじゃないかぐらいの言葉に濁す。真実はどうであっても。これが国のかじ取り、はっきり意見をいう所とそうでない所を使い分ける手腕があるから国王の補佐が出来る。
ビーツ王国の現状は、これまでの宰相が派閥の対立を煽っていたのではと勘繰りたくなる差配だ。最終的決断は王がしたとしても宰相の意見は影響力が強い。下手したら、この宰相が自分の気に入らない貴族を南部に追いやっているかもしれない。
中世の宰相の職は世襲制が多いらしいので、国を操るにはもってこいだ。今回の事でも全て南部に責任を押し付けようとしている。本来は国の責任なのに……。
まぁ国王も有能ではないよな。宰相の意見をずっと鵜呑みにして来たから、こうなってしまったのだから。勿論、この国の特異な場所と形状も原因ではあるけど、あまりにもお粗末である。
現代社会でも罰の代わりに地方に左遷とかがあるが、これって本当に良い事なんだろうか? これって本社は地方をどうでも良いと思ってると勘違いされ益々地方の社員のやる気が無くなるだけだと思う。
日本の慣習からしたら残酷かもしれないが、こういうのは左遷ではなく首にした方が良いと思うな。
無能の貴族が領主を出来る訳ないのは誰でも分かるのに、そうしてるという事は国が国民を見捨てているという事。この王はわしの国民だと偉そうに言っているが、ただの持ち物だと思っているだけで、意味が全く違う。
今回撒いたチラシにはもう一つ条件が書いてある。国王自らが交渉に来ないなら、独立宣言どころか、この国全部を侵略すると書いてあった。
一晩で一つの領を占領し、防壁まで短期間で作ることが出来る者たちが相手だという事は国王も理解してるから、自らがいかない選択肢はなかった。
一方、招集を掛けても北部の領主たちは中々動こうとはしなかったが、そこにエスペランス王国から通告が来たことで、動くしかなくなった。
北部の領主たちは交易所が出来れば相当に儲けられると思っていたのだが、国内が安定していな国とは交易も同盟も考え直すという通告がされたから、大慌てで南部制圧に乗り出すしかなくなった。
この通告もユウマの作戦。ビーツ王国が危機感を持つように追い詰める為にカルロスに依頼したのだ。
これらを見ても分かるように、ビーツ王国の王権は弱い。王が動かさず、貴族が国を動かしていても有能ならならまだ良い。もしくは共和制のように議会でもあればまだましだが、それら全てが無い国だから纏まらない。
漸く、北部の領主と王の軍勢が南部勢力と言われている地域に差し掛かった時、王は驚愕した。
「何だこれは! 確かに農作物は豊富に実っているが、その収穫や手入れの作業をしている領民のやせ細った姿はどういうことだ?」
「恐らく、税の取り立てが厳しく、満足に食べていないのでしょう」
「わしは税の配分を5分と決めているぞ。凶作でも5分、豊作でも5分なのだから、ここまで苦しい訳がない。南部は天候にも恵まれているんだ、凶作など殆どないと報告されているではないか、税の税率は国が決めている。領主にその権限はない。直ちにここの領主を呼んでまいれ」
「大変でございます。此処の領主一党は、ここより南部に逃走したようです」
普通国に逆らうなら境界線の所で対峙するだろうが、この国は縦に長い国だから、籠城するならもっと北部から離れた方が相手の補給が困難になるので、もっと南部に逃げたのだ。
この行動は次の領でも同じだった。それが示すことは完全に国との戦争、内戦をするという意思表示。
「これは、長期戦になりそうだから、北部からの補給をもっと増やせ。足りなければエスペランス王国から買い付けろ。塩や砂糖と交換でも良い」
ここが愚王だよね、物々交換より金銭で払った方が、後の国の再建には良かったのに……。
塩はまだ良いとしても、砂糖は収穫できないとそれまで手に入らない。南部を制圧しても、その分で国の分は賄えない。砂糖産出国が砂糖で苦労することになるのにそれに気づかない。
ましてエスペランス王国はローム糖があるから砂糖自体をそんなに欲しがらないから、買い叩かれる。塩は欲しいから交換するだろうが、元々塩は高い物では無いので、交換できる物資の量が少なくなる。
金なら交易が盛んになるし、魚介類がこれからいくらでも売れるから、返ってくるのにそれさえ気づかない。これまで砂糖と塩に依存し過ぎたことでそれが染みついているから、今回のような時に対処を間違える。
国の全ての行動が遅かったので、俺達は着々と準備が出来るし、情報もかなり集められた。南部の領主たちは自領の戦えそうな領民を募ろうとしたが、あまりに過酷な労働を強いていたので、そんな体力を持つ領民がいなくて集まらなかった。
結局、殆どの領主が連れてきたのは自分の家族と今まで悪事に加担して裕福に生きてきた連中ばかり。正直、今の俺達だけでも制圧できる人数しかいない。
だけど、それをするには少し難しい面がある。彼らが籠城した領都は南部でも一番堅牢に作られているところで、内部に領民がいるから、人質を取られているようなもの。
それに、南部と北部が直接対峙しないと意味が無いから、今は手が出せない。領民だけ救い出せなくもないが、流石に兵士や騎士の数が多いので、夜でも見張りがいるから、見つからずに救出することは不可能だ。
「この後はどうするんだユウマ?」
「取り敢えず静観ですね。ここ国は変わらなければいけない。それも自国の力で、それにはここで膿を出し切らないと変われない」
「でもこれじゃこの国は衰退しますよ」
貴族学校で国の事や領の事を勉強してるサラには分かるようだ。内戦なんて起これば国力は落ちる当然の事だ。でもそれをやらなければいけないぐらいまでこの国はおかしくなってしまっている。
「一度衰退するぐらいにならないとこの国は変われないんですよ。でも俺達がいるからサラが思っているようにはさせませんよ」
一度壊して作り直す。その手助けを外国の勢力と見せかけてやろうとしている。内戦が終わってからが俺達の出番。国王と交渉をし、この南部をラロックのように変えていく。海や南国でしかできないことをこの国に教えて行く。
その前にこの国の国王がそれに納得するかが問題だけど……。
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