第233話 クロスボウ
「ユウマ、この後は待ちなんだよな」
「そうです。ですがその間に善と判断された人達の中ら、希望者を募って戦闘訓練をしてもらいます。これを使って」
「何だその弓のようにも見える物は」
「これはクロスボウと言います。このレバーを引く力さえあれば子供でも扱える武器です」
本来は自国防衛に使おうと思って暇を見つけては作っていたものだが、まさかここで使う事に成るとは思ってもいなかった。
「そりゃヤバイ代物だな。子供でも扱える武器なんて戦い方が変わってしまうな」
「そこまでではありませんよ。簡単に扱えますが、射程距離が短いので、ゲリラ戦や防衛には向きますが、本格的な戦争には普通の弓の方が有利ですよ」
「サラに使い方を教えていますから、サラと一緒に村人の訓練をお願いします。50人もいれば問題ないでしょうから、鑑定で問題のない人から選抜してください」
今回悪と判断された人には兵士や騎士だけでなく村人にもいたし、領主の片棒を担いだ村の村長や町長も相当な悪だった。殺人まではやっていなかったが、強姦は数多くやっていたんだろう、強姦魔の称号が付いていた。勿論、その家族も子供以外は殆ど犯罪者で本当に呆れたよ。
家族には称号は付いていなかったが、住民に聞けばそれはもうやりたい放題の家族だった。子供の中にはガキ大将的に振舞っていた子供もいたので、そういう人たちは隔離して後にこの国の人に裁いてもらう予定だ。
本来なら兵士や騎士の中にも善良な人が数人位いるだろうと思っていたのに、この領にそんな人は一人もいなかった。もう犯罪者の巣窟と言って良い程の悲惨さ。そりゃ村長や町長が犯罪者なのを見逃してる段階でそんな奴はいないよね。
村人の訓練などをしながらどう動いてくるか待っていたら、隣の領の兵士と騎士が50人ほどやって来た。なんだかお約束のように盗賊と同じ人数にちょっと呆れながらも、そいつらと対峙した。
「我らはここの領主に被害にあった隣領ベルクの者だ! 大人しくそいつらを引き渡して被害の補償しろ!」
「お前らが言う罪人ならお前たちの目の前にいるだろう。そこでひっくり返ってる連中がそうだから好きにするがいい。補償に関しては俺達には全く関係のない事、まして領民はそこの領主の被害者だからな。補償というなら国からこちらが貰いたぐらいだ」
「罪人に関してはそれで良いとしても、ここは我らが国、他国の人間がどうこうして良い物ではない。よって直ちにここを立ち去れ! さもなくば武力をもって制圧する」
「アハハ! 武力? お前たちが? やれるもんならやってみろ! ただし命の保証はしないがな」
思いっきり相手を煽っておいて、止めにこの世界では誰も見たことが無いだろう、ファイヤーアローの10連を敵の前方に打ち込んでやった。
その爆発と火に驚いた馬が暴れて、振り落とされる騎士が何人もいて、統率が取れなくなったが、何とか落馬しなかった騎士の指示で怪我人と何日も食事をとっていないでぶっ倒れている、この領の領主を含む罪人たちを引きずりながら回収、逃げるようにここから立ち去った。 ようにではなく逃げたが正解だけどね……。
「ユウマ、えらく相手を煽っていたけどあれで良いのか?」
「えぇ、あれで良いんですよ。あれぐらい煽っておかないとまた来ないでしょ」
「わざわざ来させるために煽ったのか? 来ない方が良いだろう?」
どんどん来てもらわないと今後困るから今はこれで良い。今はこちらの戦力を小出しにして恐怖を植え付ける段階。次は何がある? と思わせるのが狙いなんだよね。
迂闊に攻められないという思考が働けば時間が稼げる。南部の領主全員が動くのが早いか国が早いかは分からないが、最終的に国が騒動を治めるように持って行きたいから、今はこれで良い。
これだけやっても国が動かないのなら、飛行船で王都に魔法の雨を降らして脅迫してでも動くように仕向けてやる。
「そう言えばフランクさん、次相手が攻めてくるまで多分もう少し余裕があると思うんですよ。それでという訳でもないんですが、フランクさんが鑑定した住人の中に木工職人と鍛冶職人はいませんでしたか?」
「あぁいたぞ、多分木工職人の多くが船を作る方の職人だと思うが、流石海が近いだけあってそれなりの人数がいたな。ただ鍛冶職人は数人しかいなかったぞ。それがどうしたんだ」
「ちょっと作って欲しい物があるので、その人達を集めて貰えますか。それと他のどんなスキルでも良いですから、スキルを持っている人たちを把握しといてください。その為に申し訳ないですが、もう一度全員の鑑定をお願いします」
「全員? するのは良いけど、流石に子供は必要ないよな」
「いいえ、子供も含んでの全員です」
子供まで含んでの鑑定をもう一度やらせるのには理由がある。本人はもう忘れてるのかも知れないが、鑑定、特に人物鑑定の経験値を伸ばすためです。人物鑑定なんてそう何時もするものじゃない、でもそれが今ならやりたい放題というか仕事のように出来るんだから一石二鳥です。
まして鑑定する相手が言い方は悪いが種類が豊富、経験値としては最良だと思う。この経験はきっと進化の糧に成る。俺はそう確信している……。
「皆さん良く集まってくれました。大変な時期ですがここで立ち止まっていても未来が無いので、皆さんには今後の為に今から動いてもらいます。その内容は…」
俺は事前に準備して置いた、小型の帆船の絵を見せた。船の設計図何て俺には書けないからこれを参考に専門家に検討して貰おうと思っている。俺の鑑定EXなら調べることも出来るだろうが、敢えて今回は彼らに任せようと思う。
習うより慣れろの精神で、頑張って貰いたい。苦労して作り上げたものはきっとこの先の糧に成る。
俺の最終目標は大型の帆船を作ることだからね。小型の帆船でノウハウをしっかり身につけて貰いそれで作って貰う
「あんちゃんよ! 船を作るんだから木工職人は分かるんだが、何故俺達鍛冶職人も呼ばれたんだ?」
「勿論、船作りに参加して貰う為ですよ。今回作る船は今までと違って強度が非常に必要になりますから、補強する部分の金具を作って貰いたいんですよ」
この鍛冶職人の参加にも意味がある。今後外洋に出るなら木造船では無理なんです。この世界には魔物という脅威が存在するんですから、普通の船では外洋に出るなんて死にに行くような物。それには将来金属で船を作る必要があるから、鍛冶職人に船の構造を学んで欲しいからです。
そして、最後にもう一つ。今回使うクロスボウを作る技術には木工と鍛冶のスキルが必要だから、共同作業はこれからの最大の利点に成る。
今はここまで、馬車を作るのに二つの職人が協力してるなんて伝わっていないようだが、ここは海が近いのだから船で協力することを学んで貰う。
クロスボウが作れるように成れば、ゴムかそれに似た素材がさえ手に入るように成ればバリスターも作れるようになって、外洋に出ても大型の魔物に対抗できるように成る。
この騒動が終わればこの領地は返すつもりだったが、かえって返さない方がこの国の為に成りそうだと思えてきたんだよね。脅威があるという事は危機感が薄れない。そうすれば辺境に優秀な家臣を配置するように成る。
この国が変わるためには、これぐらいの荒療治じゃないと変わらない。それに俺達はこの国の南に島を持っているから、ここをこの大陸の入り口に出来るから、エスペランス王国だけでは出来ない改革が容易になる。
何でもかんでもエスペランス王国から発信されていたから、妬みが集中していたが、これに仮想ではあるが外国勢力、それも他の大陸とという脅威が加われば、他国の見る目が分散出来て、尚且つ武力も一つの国に向けるだけで済まなくなる。
フリージア王国ともトンネルを通じて交易が出来るように成れば、今まで共和国がもっていた有利性もなくなるし、選択肢が増えるという事は、今までのように胡坐をかいていた商売ではいけなくなるので刺激になるでしょう。
他の国もエスペランスと同等かそれ以上の文明が他にもあると匂わせる事で意識を散らせるから、技術の吸収に積極的になる筈ですから、エスペランス王国と対立は自国の損になると実感することになるでしょう。
第三者の脅威をうまく使ってエスペランスの脅威を減らす。だけど本当は同じ国がやってる事なので、いざとなったら物凄い恐怖に成るはず……。
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