第232話 ところ変われば……

「それで、トンネルは完成したんだろうが、これからどうする」


「トンネルは一応最終手段ですから、今は兎に角隣の領の領主がどうするかも見てからですね」


「その事なんだが、どうも雲行きが怪しいんだよ」


「怪しいって、どうしてですか?」


 フランクの話だと俺が一日帰るのが遅くなったから、待つ間に色々と調べようとしたらしい。元村人の話を聞くことが主だったようだけど、その内容があまり良くなかったのと、全く動きが無い事もあってこの発言になったとうことだ。


 動きが無いのはまだここまで来ていないだけの可能性もあるが、村人の話をフランクから俺も聞いたが、その内容がとんでもなかった。


 これは俺の失敗かな? まさか隣の領の領主もあまり評判が良い人ではないとは思わなかった。


「ビクター様からも連絡は来たんだが、ビーツ王国自体が南部と北部では距離があるから未だ北部でも何の騒ぎも起きていないそうだ」


「村人の話も気に成りますね。普通の国なら辺境には優秀な家臣が配置されるけど、この国ではその逆で一番素行の悪い家臣が追いやられる流刑地みたいになっているというのが」


 普通ならそんな領主が来れば領民が逃げると思うのだが、この国の法律は領民の移動を制限しているから質が悪い。


 これは国が動いても無理かもな? 元々南部と北部が仲が良くないなら、国が動いても南部は無視する可能性すらある。同盟国がこれでは今後に差し障る。


 どうしたら良いだろうか? こうなったら黒騎士でも登場させるか? そしてこの領を乗っとちゃう? それぐらい危機感を与えないとこの国は変わらないだろうな。


 俺の腹は決まったので、皆に相談して最終的な結論を出そう。


「皆さん聞いてください。皆さんも状況は聞いていると思いますから、分かると思いますがこの国はダメです。今後エスペランス王国との交易が始まっても、ろくなことにならないと思います。北部だけならまだしも南部はどうしようもありません。ですから俺は決めました。この領を俺の物にします」


「ちょ! ちょっと待て、ユウマそれ本気か? 本気だとしてもどうやるつもりだ?」


「ユウマさん、流石にそれは…… 結婚式もあるのに……」


「本気ですよ。具体的にはこの領と隣の領との間に壁を作ります。そして独立宣言を出せば、それだけでこの国は荒れます。そこからはこの国次第です」


 俺の計画は、俺達は海を渡って異国から来た外国人という設定にして、この領の惨状をみて、これなら自分達の国にしても問題ないだろうという判断をしたから、壁を作って独立した事にする。


 この大陸の人間、特に海に面している国はこの大陸以外に別の大陸があることを知らない。だからこの国のように辺境に最低な領主を置いている国がある。それが今回の原因になったと思い知らせる意味でこの方法が一番良い。


 ましてこの国のように南部と北部では産業が違うという理由だけで、お互いがマウントを取ろうとしてるから国が割れる。お互いが協力すればこの国ほど資源が豊富な国はないのにバカなことをしている。


「この国次第というけど、どうなると予想してるんだ?」


「恐らく先ずは南部の領主たちが来るでしょうね。でもこちらはこの国の王宮に独立宣言をしますから、早いうちに北部からも来るでしょう。そうなれば南部の惨状をもう国は放置できません。自分達がやった事で領地を取られる羽目になったのですから」


「確かに国が荒れれば国民も黙っていませんね。特に南部の国民は国にも南部の領主にも不満を持つでしょうね」


「そうです。そこで南部の国民にこの独立国に来れば普通の暮らしが出来ると宣伝するんです。そしたらどうなると思います?」


「そりゃ国の法律なんて無視してここに逃げてくるだろうな」


「でもそれじゃ、この国が崩壊してしまいますよ」


「そう、普通ならそうなります。でも独立宣言をする時に解決策まで教えてあげるんですよ」


 独立宣言の時に、国が動いて南部を掌握するように仕向ける。勿論、それが出来るなら当の昔にやっているはずだから、直ぐにはやらないだろうが、南部の領主がどうあがいてもこの独立国を攻め落とせないなら、北部も動かざるを得なくなる。それでも動かないならこのままここは独立するだけ。


 トンネルがあるからフリージア国との交易も出来るからここは何一つ困らない。まして俺達がいるのだから、どうにでも出来る。


 これは黒船来航をモデルにしている。国の危機という事で国がまとまるか、割れるか、崩壊するか、自分たちで選ばせる。


 独立国は全てを城壁で囲うから、海からの侵入もさせない。元々大きな領じゃないから、作るのにもそこまで時間は掛からないだろう。


 この国との交渉には黒騎士に登場して貰って、俺達の存在は隠す。これらの計画は全てエスペランス王国に伝えておくから手出ししないように頼んでおく。


 まぁカルロスや王様は慌てるだろうが、自分達は知らないふりをするだけなんだから、そこまで問題にはならないだろう。ただ俺は恐れられるかもしれないが……。


 どのみち飛行船については此処にいる段階で王宮に報告しないといけないんだから、それだけでも危機感は持つはずだ。飛行船って脅威だもんね。でもこれまでの俺の貢献度を考えれば、普通の思考が出来る王なら、信用してくれるだろう。


 ここまで俺が急にこんなことをする気になったのは、やはりあのことが原因だ。この世界の事を甘く見ていたのもあるが、ただエスペランス王国だけが平和でもいけないというのを実感したからだ。


 このまま世界に産業革命が起きても、このような国があればいつか必ず戦争が起きる。現に帝国がそうだったように、国が割れていたから戦争の一歩手前まで行ってしまった。一つにまとまっていても起こらないとは言えないが、確率的には国が安定していない国の方が起こりやすいと思う。


 だからこそ荒療治ではあるけど、今回はこの方法でやろうと思った。国が変わるには前世の歴史でも血を見ない事なんて無かったのだから……。


 まぁ出来るだけ少ない犠牲で済むようにはするつもりだけど、この世界の水準だと厳しいかな?


 この計画が早く終結するには、この国にどれくらい優秀な領主がいるかに懸かっている。北部だろうが南部だろうが関係なくね。


「先ずは壁を作りに行きます。この分だと領同士の戦争に成ると思いますから、まだ時間はあるでしょう。戦争には準備が必要ですからね」


「それじゃ俺達はどうするんだ?」


「こんな事フランクさんに頼んで良いのか迷いましたが、協力してくれますか?」


「何をすればいいんだ?」


「スリープの魔法で、この領に住んでいる全員を眠らせてください。魔方陣でやれば全員使えますよね。皆さんを巻き込んで本当に申し訳ないのですが、お願いできますか?」


 善悪なんて今は関係なく全員を眠らせて、抵抗できないようにした後に、鑑定で称号を確認する方法で選別しようと思っている。


 それで南部の領主が攻めてきたら、選別で悪と判断された人に戦ってもらう。物凄く残酷なやり方が、これも本人たちの自業自得。


 俺の考えと計画を皆に説明したら、皆賛成してくれたので実行に移す。これには元村人たちも協力してくれるみたいだ。


 ほんの数日だが俺達といて如何に自分達の国がおかしいかに気づき、まして俺達が自分達の為に動いてくれてることを理解してるから、協力する気持ちになったようです。


「取り敢えずは領都を一番に占領します。領都だけは俺も行きますから後の町と村はお願いします」


 領都の領兵と領主さえ押さえてしまえば後はフランクさん達だけで十分だろう。元々この領は人口も少ないし、町と言ってもエスペランスの村の規模しかない。


 計画を始めてから壁を作るまでの時間はそう掛からなかった。全員魔力量は多いし、改良型のMPポーションも潤沢にあったから、準備をして夜に成って直ぐに始めたら、翌朝には全て終わっていた。


 ここの領主は本当に無能なんだろう、防衛に全くお金をかけていなかったから、領都でさえ侵入し放題だし、危機感も全く無いから屋敷にも入り放題だった。


 今回作った壁の高さは10mはあるので、そう簡単には乗り越えられないし、強化もしてるから、この国の魔法士の魔法程度では壊されない。


 材料があればバリスターも作りたかったが、如何せんゴムの在庫が殆どなかった。今度魔境の森に戻ったら多めに採取しておくつもり。この先必要になった時に今回のように材料が無くて作れないでは話にならない。


 鑑定で悪と判断された人達は全員武器も持たせず、壁の反対側に放置して、隣の領が攻めてきたら肉壁になって貰う。


 さて、この国はこの後どう出るかな? そうそうこの作戦を実行してる間にロイスには単独行動で、夜のうちに飛行船でこの国の半分まで今回の事件のあらましと独立宣言などを書いたチラシを撒いてきてもらった。



 出来るだけ血を流したくないから、この後この国の王宮が早く動いてくれることを祈るだけだ……。

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