第231話 突貫工事
「ユウマ、お前また良からぬこと考えてるだろう。いや、やろうとしてるな」
「それにさっき言い訳とも言っていましたね」
「そうですよ良い訳です。このままだと俺達の存在は密入国という事に成るでしょ。ですから、その言い訳を作るんですよ」
フランクとサラから訝しげに言われたが、俺は堂々と言い訳だと言い切った。物凄く苦しい良い訳ではあるけどね。
「それでその言い訳とは何だ?」
「それは前回見た渓谷を利用した貿易路を作るんです。簡単に言うとトンネルでビーツ王国とフリージア王国を繋ぐんですよ」
このトンネルを使ってこの国に入ったという事にするつもり、それでも今度は共和国とフリージア王国にも密入国したと言われかねないけど、そこはこの世界のいい加減なところを理由に誤魔化す。
それは以前グランから聞いた話だが、ビーツ王国と共和国とフリージアの間にある山脈には正式な境界線がないということを利用する。
山脈自体が高すぎてこの世界の人では魔物の強さも相まって超えられないから国境自体が決められていないのです。だから俺達が実際は飛行船で通過していても山の頂上付近を通過して縦断したと言えば密入国とは言い切れないんですよ。
今回トンネルを作るところも普通の人は立ち入れない場所ですから、何処の国にも属していない場所という言い訳が成り立つわけです。物凄いこじつけですが……。
「ということなので、俺はこれから一人で行って来ます」
「そういう事なら俺もついて行くぞ」
「ダメですよ。フランクさんとロイスさんには此処を守って貰わないといけませんから。それに今回は大急ぎでやらないといけませんから、そこは譲れません。勿論サラも駄目ですからね」
「え~~ 私は連れて行ってくださいよ~」
今回ばかりは本当に時間が無いからダメだ。多分明日か明後日には隣領がこの領いやって来るはずだ。だけどその領主が良い奴かなんて分からないんだから、言い訳は絶対早く作っておかないと拙い。フリージア側の道は現状必要ないけど、こちら側は作っておかないと言い訳にすらならなくなってしまう。
「今回ばかりは我慢してください。明後日までには戻りますから……」
そこまで言って、後は返事を待たず、渓谷の横の山に向かって走り出した。
「山の麓の木は強度が無かったが、やはり高度が上がると魔素の影響なのか魔境の森並みに木が堅い。取りあえずは今は切るだけにして、道路は後で作ろう」
木の堅さが分かるのは、魔法を使っていないから、この後大量に魔力を使うからそれを温存するために今は試作してあった魔法剣を使っているからだ。
普段は魔法剣の実用試験をサイラス達に任せているから、あまり実感していなかったけどやはり物凄く使いやすい。魔法付与してる剣だから、魔刀とは違って魔力を流すタイミングとか量の訓練が必要ない。
勿論、魔刀の方が切れ味が良い。ほぼ抵抗を感じないので、木の伐採などしても木の堅さも分からないだろう。
「漸く到着か。此処までの距離結構あるな……。これは少し問題だな、標高が上がるにつれて魔物が強くなるし、飛行系もいるから、ここを輸送するには護衛がベテラン冒険者じゃないと無理そうだ」
トンネル工事後に、ここまでの道路を作るだけでは此処を輸送路に出来ない事に気づいて少し思考がそちらに行きかけたけど、今は兎に角トンネルだと気持ちを入れ替えて、何とか工事に入った。
「よし! やるか!」
そこからは無心で兎に角、何時ものように地下を作る時と同じ要領で、どんどん掘り進めて行った。
今回は突貫工事で終わらせないといけないから、MPポーションも使い放題で休みなく掘り続けたら、急に目の前が明るくなり眩しくて目を覆ってしまったが、それは開通したという事でもあった。
昨日の昼ぐらいから掘り始めたから、開通しても明るいという事はほぼ一日掛かったという事だろうな。馬車がすれ違える広さのトンネルだから、まぁ当然か。
「あれ? 結構な標高の位置から掘り進めたのに、フリージア王国側の方はそこまで標高が無いように思うな……。もしかしてフリージア王国って盆地に成ってるという事か?」
盆地というよりなだらかに傾斜している土地という方が正解だな。盆地なら反対側にも山が無いといけないけどないけど、フリージア王国の東は帝国と魔境の森だからな。
ビーツ王国は平地が少なく直ぐ標高の高い山があるから、急激に登るように成るから余計標高があるように感じるんだろう。
このトンネル普通に馬車で通っても1~2時間ぐらい掛かりそうだな。途中に空気穴を作ってるから問題ないし、トンネル自体にも中間地点ぐらいから両側に微妙な傾斜を作ってるから雨水が中に溜まることはないだろう。
一人で作業してるから、時々独り言が出るけど、まぁこれぐらいはいつもの事だから、気にしないでおこう。人がいても時々声に出たりする事が多くなってる俺なら許容範囲……。
「さてと、急いで戻ってビーツ王国側の道を整備しないと、帰りが遅くなってサラにまた心配を掛けてしまう」
それでも、伐採した木を回収しながらだし、切り株も取り除かなきゃいけないからトンネル工事よりもっと大変。取りあえず地面の硬化はするけど、水はけの事などは後回しにしよう、そこまでやってる余裕はない。
もう少しで麓だなと思っていると、そこには物凄い形相で仁王立ちしてる鬼がいた。
「え~と、どうしてそんな怖い顔をして立ってるのかな? サラさん?」
「どうしてと聞きますか?」
いやそれしか思いつかないのだが。予定通りに帰って来たのだから怒られることは無いと思うけどな……。 強いて言えば無理やり置いてきたぐらいだと思うけど、それぐらいでここまで怒らないよな?
「はい、予定通り帰って来たので……。」
「はぁ~~、予定通り~~~」
あれ? 違うの? 日出てる時から工事を始めて開通したのも日が出ていてからそれで一日、そこから引き返しながら道を作ったから一日でしょ、それなら出発の時、明後日には戻ると言ったから予定通りだよな?
ん? もしかして……。トンネルの開通って2日目の昼だった? 流石にそれはないよね?
「えっと、もしかしてですが、帰ってくるのが1日遅れてるという事でしょか?」
「漸く気が付きましたか。呆れますね!」
あちゃ~~ 本当に中一日含んでいたのかよ。確かに俺の魔力量から考えたら、MPポーションの消費が多いなとは思っていたけど、まさか集中し過ぎていて、時間感覚どころか日にちの感覚まで間違っていたとは……。
普段ならここまでサラも怒らないだろうが、先日の一件以来、俺に対して少し過保護になってるというのもあるんだろうが、心配性になっているサラにしてみれば一日帰りが遅れれば、この仁王立ちも分からなくもない。
「ごめんなさい」
「ユウマさんの事ですから集中し過ぎて黙々とやった結果でしょうが、もう一人じゃないんですよ。良く考えて行動してください」
俺、もう一人じゃないんだよね。気の優しい仲間もいれば、これからは嫁もいるんだから、心配する人がいるという事を肝に銘じないとな。
この世界に来て多くの人と関わって来たのに、どうしてもどこかで前世の孤独だった時代の考えかたが染みついているんだろうな。
自分では頼っているつもりでも、肝心なところは自分だけでやってしまう。危険にさらしたくないとか、効率がとか言ってるのは結局自分が楽だからなんだよ。それじゃこれからはダメなんだ。
危険なら守れば良い、効率というなら皆でやるもっと効率が良い方法を考えれば良い。
「考えは纏まりましたか?」
本当に良く待てるな? こんなにちょくちょく考え事をして黙ってしまうのに、静かに待って、頃合いを見て声をかけてくれる……。
「これからも迷惑かけますが、頑張ってみます!」
それから残りの道路を完成させながら仮の拠点に二人で戻った。良く考えたらサラは一人で麓近くまで来ていたんだな。俺ならそんなこさせないけど、フランク達はサラを信用してるから任せられるんだろう。
俺から見たら皆まだまだ弱く見える、でもこの世界の基準で言えば俺の仲間は皆それなりに強い部類なんだよね。その基準が違うから俺の行動も違ってくる。
今のサラなら風魔法でオークでも首を一撃で飛ばせるからな……。
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