第230話 成敗したいけど……
「何だよこいつら、全員盗賊じゃねか。この領はどうなってるんだ?」
「突然ユウマさんが騎士たちを殴りだした時はどうしたのかと思いましたが、そういう事でしたか。あの状況では迅速に動くのがベストでしたね。中途半端にしていたら、村人を人質に取られかねなかったです」
「問題はこの後です。この状態で領主が無関係はありえませんから、普通に訴え出ても無視されるか、逆にこちらが罪を着せられます。それにこの騎士や役人が戻らなければ追加が来るでしょう」
さてどうするかな? あれほど気持ちの整理が付かなかったのに、嬉しくはないがこいつらのお陰で何とか動けるようになった。
一応外交問題になるかもしれないから、ビクター様経由でカルロスと王様には連絡を入れといたが、正直外交問題にならないように終結させたい。
「フランクさん、今現状この村には何人います。」
「確か全員で36人だった思う」
36人か、それなら一週間ぐらいは問題ないな。取りあえず全員でとんずらして、ここの領主とこいつらは隣の領の領主に任せよう。
恐らくこいつらは隣の領で盗賊家業をしていたはず、そして仕事が終わればこの領に帰って来るから、追われないというやり方だったはずだから、この事を教えてやればこちらが何もしなくてもけりをつけてくれるだろう。
「村の皆さんこれから少しの間この村から離れます。ですがまた戻ってきますから安心してください。皆さんの家族が眠る大事な場所ですから皆で守りましょう」
「ロイスさん、ビクター様か王宮から連絡が来たら教えてください」
「それでどこに逃げるんだ?」
「取り敢えずは森に逃げ込みます。俺達ならこの森程度なら何ら問題ないでしょ。仮住まい的なトーフハウスを作りますから、そこで暫く生活して貰います。村にある家財道具は一つ残らず全部俺が運びます」
本当ならあまり俺の能力は見せたくないけど、非常事態にそんな事言っていられない。まぁそれに俺が良い意味で人外認定されているのは分かっているしね。
「避難が済んだら、こいつらを隣の領に手紙付きで届けて来ます。丁度こいつらが乗って来た馬も馬車もありますから。少し面倒ですが一度埋めた盗賊たちも掘り返して全て持って行きます」
「その後はしばらく様子見ですね。隣の領主がどんな人か分かりませんから、裁定が下ってからこちらは動きます」
そう言えば南部に派遣されている医者はどこの町にいるんでしょうか? 1年もこの状態だったのならここの村人は知りませんかね?
「それじゃ俺は一足先に森に行って準備してきますね。俺が戻り次第移動できるように荷物だけまとめておいて下さい」
「ユウマさん、私も行きます。風魔法の特訓の成果をお見せしますわ」
頼もしい限りだ我が婚約者は……。そしてとても人を気遣える人だ。俺を一人にしない為に付いて来てくれんだな。
いつもなら一人でやることが今回はサラも手伝ってくれたから、木の伐採から整地まであっという間だった。まして一時避難の場所だから、簡易的な作りで良いので夕方までには作り終えた。
村に戻った時には村人の準備も終わっていたから、荷物を全て俺のインベントリに入れて、暗くなったけど魔法で明るくして、ちょっと無理をしてでも村人を移動させた。
盗賊の死骸を掘り起こしたから、村中に悪臭が漂っているから、仕方がない。
「それじゃ俺はこれからこいつらを連れて隣の領まで行って来ます。恐らく明日の朝には戻ってこれると思いますが、もし戻らなくても心配しないでください」
「本当に大丈夫なんだな? お前がそう言うなら信じるが、もし無理だと思ったら全てを諦めても生きて帰ってこい。生きる事だけは絶対諦めるな。いいな」
フランクがなぜそんな事を言ったのか分からなかったが、フランクには何か感じるものがあったのだろう……。
そしてその言葉の意味を直ぐに俺は理解することになる。
魔法を使っての盗賊の護送中、隣の領までに領都を含めいくつかの村と町を通過したが、何処も荒れ果てていて、領民の姿は皆やせ細っていた。夜だから人に見つからないようにと明かりを付けずに暗視魔法を使っていたのが、逆に惨状を見ることに繋がってしまったのだ。
フランクの言う生きろは精神的にという意味だったのだろう。俺が多くの人を殺した事で精神が崩壊しそうになっていたことに気が付いていたから、人を殺さなくてもこの惨状を見れば精神がもたず壊れてまた同じような殺りくに走ると思ったから、今は諦めて兎に角帰って来いという意味だったのかもな。
怒りに任せて行動するのは容易い、だがそれを乗り越えないといけない時もある。フランクに忠告されていなければ、多分俺は隣の領に行くことを止めて、自分で領主を殺していただろう。
一度
生き物を殺すことにこの世界の人は慣れている。子供でさえスライムという生き物を平然と殺すのだ。それでもちゃんと真っ直ぐに生きている人が殆どだ。
俺がいくらチートで精神面を神様が少し強化してくれていても、やはり38年も生きた世界の価値観からはそう簡単に抜けられない。その洗礼が今回の事件、ここで踏ん張らないと俺のこれからの人生は残酷なものに成る。
「踏ん張りどころだぞ、俺! ラノベを思い出せ、異世界アニメの主人公を思い出せ。此処は現実だけど、これが物語なら俺は主人公だ!」
その後なんとか気持ちを落ち着かせ、隣の領の町まで辿り着いた。領都まで行っても良かったが、それよりこんなことはさっさと終わらせてみんな所へ帰りたかったから、町で盗賊たちを門の前に放置した。勿論死骸も含めてね……。
本当ならその後まで確認して戻るべきなんだろうが、これ以上は俺の仕事じゃない。そう自分に言い聞かせてその場を離れた。正直盗賊の死骸を見るたびに辛かったというのも理由の一つだ。
日が昇る頃には何とか皆の下に戻ることが出来た。そしてその日差しの先には夜通しそこで待っていてくれたんだろう、疲れてはいるがサラの優しい笑顔が待っていた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
サラはそれ以上何も聞かず、ただ俺の手を握り俺達のトーフハウスに一緒向かった。
俺が目覚めたのは外が急に騒がしくなったお昼頃だったが、その時の俺は外の騒がしさよりも、同じベットで俺に抱き着いた状態で横にいたサラの方が気に成って、外の騒がしさは二の次だった。
「サラ、起きて!」
「むにゃ、むにゃ……。ユウマさん……」
「寝ぼけていないで起きてください。どうしてここで寝てるんですか?」
俺が動揺してそんな事しか言えないでいるとそこへ
「おっはようございま~す! よく眠れましたか? 何だか疲れてるように見えますが?」
「別に疲れてはいませんよ。お願いですからそのわざと誤解を広めようとする行為をやめてください」
「え~~~~ だって男女が同じベットで一晩過ごしたんですよ。いや、ひと朝か?」
「そこは夜でも朝でも良いですけど、何もありませんでしたから、想像でものを言わないでください」
「まぁそれぐらい反論できるなら大丈夫ですね。ではごめん」
何がごめんだよ。どこの侍だよ本当にローズには困ったものだ。まぁローズなりの励ましなんだろうな。ちゃかすことで俺の気持ちを他に向けようとしてるんだろう。
「おはようございます。ユウマさん、私は何時でも良いですので遠慮しないでくださいね」
「な! 何を言ってるんですか!」
サラに留めの一言を貰って目が完全に冷めたし、その場から早く離れたくて、急いで身支度をして俺は外に出た。
「身支度?……」
外が騒がしくなっていたのは、エスペランス王国からの連絡が来たことで、村人を集めて報告がされていたからだ。
内容は、今後の事についてだが、もう少し時間が掛かるという物だった。俺達の存在は明かせないから、こちらから事件の事を知らせる訳にはいかない。それでも今後次第では俺達の存在が問題になるかもしれないから現在調べているので待機しろいう物だった。
当然この国もエスペランスの諜報員入るだろうからその人に調べさせるんだろうな。
「そういう事なら、こちらも言い訳の準備をしておきますか」
「言い訳? 何をするんだ」
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