第154話 フランクの災難
俺が森に帰った次の日、それは突然起こった。
「フランク、大変じゃ!」
「どうしたのお父さん?そんなに慌てて」
「今ラロックの門の警備兵から知らせがあったんだが、どうもビーツ王国とザリウス帝国の大使が此処に来てるようなんだ。それだけじゃなく領都からも連絡が来ていて、神聖国以外の大使全員がどうも此処に向かっているらしい」
「此処に向かってる? 視察は済んでるだろう? 今更何の用事があるんだ?」
フランクは理解できなかった。もうすぐ国際会議がこの国で行われるのは、グランからの報告で聞いているから知っている。それなのに、もうすぐ始まるという時期に大使たちが此処に来る意味が分からない。
「どうするフランク?」
「どうするも何も、通達もなしに急に来られても対応できないし、目的が分からないよ。目的が分かれば対応のしようもあるけど……」
フランクは対応のしようがないけど、兎に角、拠点、学校、病院の関係者や生徒に現状を通達して、兎に角いつも通りに過ごすように連絡した。
大使が来ていることだけを伝えておけば、取りあえず国際問題になるようなトラブルは起きないだろうと考えたからだ。
「ユウマ君は運が良かったのか、虫の知らせでもあったんだろうか? ちょうど居なくて良かったな」
「そうだね、あいつは幸運なのかも? それじゃ俺と父さんは不運なのか?」
この世界のステータスの数値に運の項目はないけど、もしあったら俺の幸運値はかなり高かったんではないだろうか? まぁどちらにしても数値が見えるのは俺だけだけどね。
「ソルト殿、貴殿の国ではどのように申されている。今回の会議では特許の話が中心のようだが、我が国ではそれだけでは済まんと思っている」
「ピッケル殿、我が国もそのように思っております。特許に関してはそれぞれの国で思惑があるでしょうが、そこまで揉めることなく話は纏まるでしょう。勿論、共和国次第ですが」
「という事は、ビーツ王国も医療分野で揉めると思われているのですか?」
「そうです。実際、我が国の教会や錬金術ギルドはもう反発し始めています。薬師ギルドはそうでもないですが、全くないとは言えません」
「そうですか、やはりエスペランス王国の情報が広まりつつあるのと、神聖国が教会を動かしているんでしょうね。帝国でも同様です」
他の国の大使より早く到着している、ビーツ王国とザリウス帝国の大使はこのような会話を交わしていた。
「父さん、あれから何か連絡来ました? 何も動きがないので不気味なんですが」
「いや、何もないな。ただ警備兵の話だと先に着いている大使たちは町の職人のところに行って話を聞いているようだ」
「それってどういうことでしょう? 会議には関係ないと思うんだけど」
「何を聞かれたのか警備兵が確認してくれたんだが、どうも弟子制度が壊れた後の影響についてみたいだ」
フランクはそれを聞いてなんとなくだが大使の目的が分かった。今回の会議で特許の事が話されて、制度が確立しても実際に作るのは職人だから、この国で起きたような職人の反発に対して、どう対処すれば良いかの参考にするためだ。
ラロックは他の領と違ってスムーズに物事が進んだ場所だ。それに卒業生も多く就職している。参考にするにはもってこいなんだろう。
大使だからこの国で起きたことは把握しているだろうから、貴族の不正やギルドの不正も知っているので上手くいかない事の方は熟知しているが、成功例の方は具体的に知らない、だから今回の視察なんだろう。
纏めると自分たちの国でも、この国と同様の事がやりたいという事。グーテル王国と同じだね。
そのやりたいことの中には、病院も含まれているんだろうな、そうじゃなきゃラロックに来る必要はない。領都でも充分だからだ。ラロックに来る必要性、それはラロックにしかない物、そう病院だ。
「父さん、多分だけど他の大使が到着したら、病院に視察が来るかも?」
「病院? 視察はしただろう? なぜまたする必要がある?」
「だってこの町の住民は教会に治療目的では誰も行っていないだろう。改良ポーションもすぐ手に入るし、薬師も身近にいる。それでも治らなければ、病院に来る。教会抜きで医療が成り立っている。その元がこの拠点と病院なんですよ」
以前の視察では個別に視察したから情報としては十分だが、神聖国が中心の医療体制に対抗するには、仕組みとして成り立っているこの町の情報が不可欠。
「今度の会議で神聖国と揉めると思っているんだな。そうなった時に教会抜きでも医療が成り立つようにしたいということか?」
「恐らくそうです。この国ではラロックほどではなくても教会の力はかなり弱くなっていますから」
翌日、フランクの読み通り大使が揃って拠点と病院の視察を申し込んできた。それも見学は少しで、会議というか? 説明会? みたいなものをやって欲しいと……。
「ニックさん、どうしましょうか?」
「そうですね、その会議? に関しては丁度いいので賢者候補の私達で対応しましょう。勿論、グーテル王国の人達も入れて、良い勉強になるでしょ」
「やっぱりそうなりますよね。何でこうも面倒なことは俺達に回ってくるんだ。特に最近は多いですよね。俺も王都に行ったし、今はスーザンさんとロイスが行っている」
それは当然である。俺がそう仕向けているんだから。賢者候補を育てるという大義に隠れた俺の欲望、人任せにするためだから……。
「それじゃ準備はしておきますね。司会進行はフランクさんにやっていただくという事で皆には伝えておきます」
まぁこれも当然の事、フランクの立ち位置は賢者候補のリーダーだし、俺との付き合いが一番長く、グラン商会という雇い主の一族だからね。
「分かりました、準備の方よろしくお願いします。ユウマが帰ってきたら、今度の事をこと細かに報告してやれるように、頑張りましょう」
俺がラロックにサラと戻った時、丸一日フランクから、今回の大使の視察について滾々と報告された。その時俺は思ったよ、今回の事は不可抗力、予想外の出来事なんだから、俺を責めるのはお門違いだと。
勿論、そんなことは口が裂けても言いませんよ。これから先も同じようなことはどんどん増えてくるように仕向けますから、ここで言い返したら鬱憤が溜まりますからね。
俺の目標は、影の大賢者ですから、表に立ってくれる賢者たちにはストレスを貯められると困るので、俺に愚痴るぐらいのガス抜きはさせてあげないとね。
でも丸一日はもう勘弁してほしい……。
大使たちが帰ってから、数日たったころ王都ではスーザン達が、王様たちを前に特許の法律や度量衡について説明をしていた。
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