第153話 サラのお願い

「サラさん、着きましたよ。此処が俺の家です」


「まぁ~ 立派なお家ですね。魔境の中とは思えないぐらい整っています」


 サラを背負っているからスピードは抑え気味で来たけど、昼前には我が家に到着した。


「先ずは少しゆっくりしてから、ここの設備を案内しますね」


 少し休憩してから、二人で仲良く昼食の準備をして、食後拠点を案内した。


 初めての共同作業? サラとはこういうことを今までやったことがなった。ラロックでは自分で食事を作ることが殆どないし、サラとは仕事の時以外一緒にいることが少なかったので、デートもしたことがない。


 良くそれで、婚約まで行ったなと俺自身が信じられない。最近聞いた話だが、どうも俺はサラが来てから、いつもワクワク、イキイキしていたそうだ。


 俺自身はそんな事思ってもいなかったが、周りにはそう見えていたらしい。


「ユウマさん、ここにある物全てを皆さん知っているんですか?」


「いいえ、一部はまだ知りませんね。特にあの建物の中にあったものを、知っているのはフランクさんとロイスさんだけです」


 サラは将来俺の嫁さんになる人だから、俺が転移者だという事以外は何も隠さない。


 賢者候補も同じだからね。まぁこれからは賢者たちより早く色々と知って行くと思う。それがサラの願いでもあるから……。


 サラの願いは、自分も賢者候補のようになりたい。出来るなら一番傍で俺の役に立ちたいと言うものだった。


 それを抜きにしても、俺はサラのレベリングを、するつもりでいたから願ってもない申し出だった。


 俺にとってサラのレベリングは必須なんだよ。魔力量による老化の遅れ、それによる寿命の延長が現実味を増してきているから、是が非でもレベルを上げてMPを増やさせる。 


 少しでも長く一緒にいたいから……。


 隠し事はないと言ったが、本当は賢者候補にもまだ見せていないものはある。最終的には隠さないけど、まだ早過ぎるから見せていない。


 俺がこれまでに研究したものや、この魔境で知った情報、前世の知識などを書き溜めている物だ。


 俺がいつ死んでも良いように、知識を残そうと思った時から少しづつ書き続けている。現状そう簡単には死なないとは思っているが、人生なんて何時どうなるかは誰にも分からないからその準備。


「サラさん、ここにある書物は誰にも見せていません。ですがサラさんにだけは今見せておきます。これを今日から使って知識を増やしてください」


 前世の知識の書物は夢で見たものと思ってくれれば良いが、勘の良いサラだと何かおかしいと気付くかもしれない。もしそうなったら、その時は正直に転移者だと話すつもりだ。


 話しても理解できるかは疑問だけど……。


 そう言えば、何処でもドアみたいな転移の扉についても書いたけど、理解できるかな? あれはこの世界の人には理解するとかいう問題じゃないようにも思うけど。


 俺だって空間を歪めるとか、繋ぐとか説明しろと言われても出来ない。だって漫画やアニメの知識だからね。相対性理論でさえ、未来に行くことは理論上出来るけど、過去に戻ることは出来ないんだから、タイムマシーンなんて本来は作れない。


 それが魔法の世界だと可能になるかも? イメージが魔法の原点だから……。


 この実験も始めようとは思っている。急ぐことでもないんだけど、可能性があるならやってみたいと思うのがロマンでしょ。


 サラがもう少し成長したら是非二人でやってみるつもりだ。実験の方法はもう考えてある。先ずは小さな扉の模型を作って魔石に魔法を付与して、小さなものが送れるかの実験、もしくは小さな箱を作って手紙のようなものが送れるかの実験。


 転移扉と転移箱ですね。人が送れるかは分からないが、もし物が送れるようになるだけでも物凄い発明になる。そうなれば物凄い産業革命が起こる可能性がある。


 俺の予想では魔法は出来る可能性が高いが、人を送るという事になれば、それなりの魔力が必要になるだろう。


「ユウマさん、どうしたんです? 何か考え事ですか?」


 いか~~ん、またいつもの癖が……。 


「ちょっとサラさんとのことを考えていました」


 嘘ではないよね……、サラとのことから思考が脇道のそれただけだから……。


「まぁ! 嘘が下手ですね。ユウマさんがそうなる時は、また新しい事をやる時ですよ」


 よ・ま・れ・て・る。この人はどうして分かるんだ? 一年も一緒にいないのに、俺の事が手に取るように分かっている。良い意味で不気味だ。


 こういう人は決して怒らせてはいけない。俺の本能がそう告げている。


 それから一週間ほど毎日午前中は俺の書いた本を使って、個人授業をして、午後からは賢者候補同様、パワーレベリングをした。


 今回は初めから森の深部に行って、俺が眠らせ、とどめををサラにさせるだけという超効率的なパワーレベリングにした。初めのうちは急激にレベルがいくつも上がったので、サラの体に少し負担だったようだが、サラはそれを根性で乗り越え、一気にレベルを10まで上げた。


 次の週は午前中は変わらないが、午後からはスキル取得のために実習を行った。


 サラに欲しいスキルは何かと聞いたら、一番は錬金術、次に薬師、そして三番目がなんと剣術。


「何で? 剣術なんですか?」


「それは守られるだけの存在にはなりたく無いからです」


 そう言えばサラは言っていたな、俺の一番傍で役に立ちたいと。これからの俺の立場がどうなるか予想できているんだろうな。俺がいくら避けようとも何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性は高い。その時に自分の身は自分で守るという事を考えてるんだろう。


 サラの望みがそうならと、朝一番と午後の実習の最後に剣術を教えた。まぁ俺の剣道の知識だけどね。


 レベルも上がっているので、身体強化と結界の魔法も教えている。まだ両方とも修得は出来ていないが、最低でも身体強化は身につくだろう。


 あ! これ大丈夫かな? サラが身体強化をマスターしたら、お父さん怒らないかな? いや、怒るより拗ねそうだ。娘に先を越されたと……。


 15日何てあっという間だな、サラはまだ帰りたくないようだが、ラロックの事も気になるから、一度ラロックに戻ることにした。俺からしたら行くなんだけどね。


 此処が俺の家だから。早くサラと結婚して、二人とも行くという表現になればいいな。


 俺達が森で過ごしている間に、ラロックと王都ではそれぞれ問題が起きていた。


 ラロックでは国際会議を前に、以前視察に訪れた各国の大使が何人か、いや神聖国を除く全部の国の大使が何の通達もなく押しかけていた。


 一方、王都ではスーザンとロイスが王様やカルロス、王都の役人に会って問題を起こしていた。そうスーザンがブチ切れたのだ。


 その可能性はあるとは思っていたが、まさか本当に切れるとは……。








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