第34話 変化の始まり

 会議の翌日から、皆それぞれに行動を始めた。


 シャーロットとローレンは連れ立って、この村にいる唯一の女性錬金術師

 ミランダに会いに来た。


「初めまして、この村で雑貨屋を営んでおります。フランクの嫁、シャーロットといいます。 こちらは義母のローレンといいます。義母の方も領都で雑貨屋を営んでおります。」


「こちらこそ初めまして、錬金術師のミランダと申します。」


「それで、今日はどのようなご用件で?」


 二人は話を直ぐには始めず、先ずは今から話す内容を秘密にして貰うこと、それが出来ないなら話せないと言う事を伝える。


「商売柄、守秘義務は必須です。お約束は出来ますよ」


 それでも、今回は今後のポーションの件もあるので、一筆書いてもらうことにした。


「随分と用心深いのですね。ここまでするからには、余程の事なんですね。」


 書面を作り、お互いに内容を確認してサインをした。


「それではこちらを見て頂けますか?」


 シャーロットはテーブルに石鹸、シャンプー、リンスを並べて商品の説明をする。

 話を聞いてもまだピント来てないのか、あまり関心を見せないミランダに


「義母と私の髪を触って、臭いも嗅いでみてください」


 臭いを嗅げ何てあり得ないことを言われたが、そこまで言うならと髪を触り、臭いを嗅いでみた。


 髪のサラサラ感で目を見開き、臭いを嗅いでさらに驚愕、普段ごわごわ感を無くすのに使う動物油ならべた付くまでは行かないが、しっとりしてるはず、それに少し変な臭いがする、それが二人の髪はサラサラで良い香りがする


「何でですの? この髪は?」


 確認するたびに、表情が変わるミランダを見て、面白がっていたシャーロットが


「このシャンプーとリンスを使うとこうなります。貴方も試してみます?」


 その言葉に、ミランダは勿論と即答、錬金術工房の裏にある井戸に行き、二人に使い方を聞いて使ってみた。


 髪が乾くのに時間が掛かったが、乾いた髪を触ったミランダは全てに納得した。


「これは凄いものですね。あれ程秘密に拘る理由が解りました。」


「商品は勿論なんですが、本当の秘密は製法にあるんです。」


「製法ですか?」


「そう、製法であり、使う器具が特殊なのです。だからこそ秘密なのです。」


 ガラスというこの世になかった物を使ってる器具だから秘密に拘る。


 いずれガラス工房が出来れば、器具は秘密では無くなるが、それまでは絶対に秘密にしなくてはいけないのだ 。


 何故なら、レンガから始まり色々な商品が生まれたり、改良されるからレンガも生まれていないのに、ガラス器具が表に出てはいけないのだ。


 これはガラスが出来るまで待てない女性陣の我儘のせいでもある。


 どんな世界、どんな時代でも、女性の美に対する関心は留まる事を知らないのだ。


「器具については後日お見せするのですが、製法に錬金術が必要なので今回お話を持ってきました。」


「どうでしょう? うちの専属錬金術師になりませんか?」


「専属?」


「はい、この先この商品の売れ行きは貴方も想像できるでしょ。そうなるとうちの専属でないと秘密が守れないし、他の仕事をしてる暇はなくなると思うんです。」


「あ! それから作って貰う商品はこれだけでは無くなるのですよ。」


「え! これだけじゃないんですか?」


 ロイスから聞いた、ユウマが他にも作れる商品があるということも含めて話す。


「はい、他にも女性が好むものを販売する予定です。」


「それと、出来れば専属になったあと、女性の錬金術師の弟子を取って貰いたいのです。一人では到底無理ですから。」


 ミランダに弟子はいない。職人の世界は男性社会なので、女性がものすごく少ない、成手がいないのだ。


 錬金術師の主な仕事はポーションの製造、そのポーションを使うのもやはり男性中心の冒険者や騎士が殆どだから、注文も男性の錬金術師に集まる。


 女性は男性の錬金術師から仕事を回してもらってる状況なのだ。


 それを女性だけに仕事をくれると言うのだ。まして弟子を取ってくれと、そんなこと想像もしてこなかったこと、人生が変わるほどの一大転機だ。


「是非やらせてください。出来ればですが、私の知り合いの女性錬金術師を誘っても良いでしょうか?」


「勿論です、弟子を取っても直ぐには役に立たないでしょうから、こちらからお願いするつもりでした。」


 そこからは、後日詳細を決めるのと、それまでに他の錬金術師に連絡を取って貰う事と、絶対に秘密厳守ということを念押しして話を終えた。


 一方、男性陣はその頃、グランは塩漬け肉の製造工房に燻製品の委託製造の交渉に、フランクとジーンは魚の塩漬けを作ってる、川漁師の元に向かっていた。


 そして一番の要になる、レンガの製造の為の人集めに、ロイスは知り合いの農家を訪れていた。


「こんにちはベックさん」


「おぉ、めずらしいなロイスが来るなんて」


「はい、今日は息子さん達の仕事についてお話があってきました。」


「うちの息子は読み書き算術は出来んぞ?」


 商人のロイスが持ってきた話だから、当然商人に関係する仕事だと思ったベックはそう言った。


「違いますよ、読み書き算術何て出来なくても出来る仕事ですよ」


「どこかの工房にでも頼まれたのか?」


「工房と言えば工房なのですが、私が作る工房の話なんです。」


「は? ロイスが作る工房? お前店をやめるのか?」


「や! 辞めませんよ。恩のある旦那様を裏切るような事しませんよ。」


 そんなやり取りの後、どんな工房なのか、商売の関係上説明できない事をベックに納得してもらい、後を継げない息子さん達を呼んでもらった。




















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