第239話 魔法印

 結局アクイラのティムは俺が代表して余っている全てを受け持つことにして、ラロックに帰ってからその所有者を決めるという事になった。


 欲しがりそうな人は沢山いるからね。フランクの我がままなんて許しませんよ!


 ティムの魔法は上書きできるから、一度所有者が決まっても全く問題ない。ただこの出来るというのも問題だから、今その対抗策を検討中。


 そうしないとオックスみたいにティムで飼っている魔物が、盗み放題に成ってしまうからね。


 今、もう一つ考えてるのが、焼き印ならぬ魔力印を作れないかの研究だ。

俺じゃないよ、先に言っておくけど……。


 魔方陣をスタンプに出来ているから、そこの職人と意外な人物が一緒に研究している。勿論、その中には拠点の錬金術師も数人参加している。此処まで言えば意外な人物が誰か分かるよね? そう拠点と言えばグランです。


 何故グランがその研究を始めたのかは、ラロックでは無い所で起きたオックスの窃盗事件が発端。


 窃盗と言ってもティムの上書きをして盗んだわけではなく、殺して盗んで売り払おうとして明るみになった事件なんです。現状オックスは時期的に移動していない時期だから、不自然だという事で調査が入ったのですが、当初は死んでいたからティムされている証明が出来なかった。でも最終的には鑑定でティムされていたオックスだと判明して犯罪は立証されました。


 ですがこの時に分かった事があるのです。ティムされているかどうかが分かる鑑定には称号まで鑑定できる人じゃないと出来ないことが分かってしまったのです。


 称号まで見れる鑑定持ちはそこまで多くいないので、いざという時に困ることになるのを避けるために持ち主を証明する別の方法が検討され、焼き印が候補に挙がったのですが、これもポーションの改良が進んでるお陰で、低価格の初級ポーションでも消せてしまう事が判明、また振出しに戻ってしまった。


 そこで困ったグランから相談された俺が魔力印の事をアドバイスしたという訳です。これは魔法契約書やティムの研究をしてる時に思いついたことの一つなんですが、隷属の様な強制力をもつものでなくても証明する意味を込めた印鑑の様な物があれば、印鑑証明のある印鑑と同じことが出来るんじゃないかと思ったからです。


 これが成功すれば前世では出来なかった、全ての持ち物に個人の所有権を付けられるように成る訳です。魔力印ですから普段は見えないけど、その物に持ち主の魔力を流すと印が現れる、逆に持ち主じゃない人が流しても何も出てこないという仕組みです。


 だから印は同じで良いんです。違うのは流す魔力の違い。以前の研究で分かっている個人の魔力には指紋と同じ様に違いがあるから、その魔力で印を押せばその魔力以外には反応しないという仕組みを今研究してる訳です、グランがね……。


 結局はそういう魔法の魔方陣が出来ないとどうにもならないんです。魔方陣の魔法文字の研究はされていますが、それをしてるのは賢者候補と見習いだけ。正直グラン達だけでは作れないのは分かっているのですが、敢えて放置しています。


 魔法文字の意味をしる。これがこの先どれほど役に立つのか、今は分からないでしょうが、一つづつ魔方陣が増えていく度にそれを直ぐに理解出来るようなり、応用も出来るように成る。それと、もしかしてですが魔方陣について日々触れていればグランに魔方陣が見える鑑定が出来るように成るかもしれない?


 フランクのように数値の方が見えるようになってから、魔方陣というのが習熟度の順番かも知れないが、そうじゃなく魔方陣が先で後から数値という事もある。


 レベル上げを中心にやっているからフランクは数値の方が先になっただけで、グランのように魔方陣ばかりだと魔方陣という可能性があるのです。


 俺の場合は初めから数値が見えていたからこの順番なんだと思い込んでいるが、俺ってそう意味ではチートだから普通の人には俺の常識は当てはまらない。


 もう少ししたら、俺の創造魔法で魔法を作って、魔方陣は渡すつもりだけど今はもしかしてを試させてもらっている。


 これだけじゃ、無理かもしれないからグランもパワーレベリングした方が良いかな?


 どのみち飛行船の事を知ったら、乗せろと言われるのは目に見えてるから、調査の継続とユートピアの紹介も兼ねて、島とユートピアに連れて行こう。黙っていてバレたら今度こそ絶交されそうだ。


 グランって子供みたいなところがあるから、根に持つんだよ……。


「ユウマさん、飛行船は何処に降ろすんです?」


「そうなんだよな……、フランクさんはどう思います?」


「流石にラロックに降ろすのは無理があるだろう。今回は普通にお前の家にしとけ、今回の休暇も森でしてることに成っているからその方が違和感がない」


 近いうちに結婚式で王達に色々暴露するけど、それまでは秘匿しといた方が良いだろうな。俺達の意向もあるけど、ビーツ王国の件では国を巻き込んでいるから国の意向も踏まえて行動するべきだな。


「それはそれで良いとして、アクイラはどうします?」


「それもあったな。しかしこいつらも今は連れていけないよな」


 そう言えば魔物にもレベルがあるんだけど、魔力の濃さだけがレベルを決めてるのかな?基本的に魔力の濃さが一番可能性があるだけで、もし低レベルの魔物が高レベルの魔物に攻撃して勝った場合どうなるんだろう?


 現状先ずそのようなことが起きないから、今の状態が保たれているけど、人間と同じようにパワーレベリングをしたら、魔物もレベルが上がるのかな? 


 いや、それはないか? それが起きるなら、スタンピードも起きるはず。レベルが上がった魔物は魔石が大きくなるから、必要な魔力が増えてしまって魔力の濃い所じゃないと生きていけないというか弱くなる。


 人間とそこが構造的に違うんだよな。ただ魔物の場合、進化という形ならまた違ってくるのだろうか? レベルは元のままでも進化してる分、基礎値が上がるから元の魔物よりは強くなっている。


 ただ魔石も大きくなっているから必要な魔力は多くなる。ん? 魔力量は多くても問題ないのか? 魔力の濃さがレベルに影響するんだから、レベルが低いのに魔石が大きくなるからやっぱり強くなる。


 まぁこういうことは自然界では起きないことだから、気にすることはないけど、自分のティムしてる魔物を進化させるという楽しみはある……。


「ユウマさん、皆さんの顔を見てください」


 サラに言われて皆の顔を見たら、呆れたような顔をしている……。


「サラさんや、もしかしなくても今俺が考えていたことは駄々洩れだったのでしょうか?」


「はい、何時ものようにね」


 いやいや、分かっているなら止めてくださいよ。多分内容的にあのマッドサイエンティストの時の表情もプラスされていただろうから、物凄く不気味だったと思う。


 あの冷たい視線から伝わってくるのは正にそれを証明している……。


「ユウマ、お前という奴は反省とか自重とかいう言葉を知らんのか? あの新種のゴブリンの隠ぺいにどれだけ苦労したと思っているんだ。頼むからそういう事は金輪際考えることもしないでくれ」


 フランクにはそう言われたけど、こういうのって科学者なら一度は考えるような内容なんだよね。前世でいうクローン人間と通じるものがあるよね。


 まぁこちらの方は殆ど趣味に近いような研究だけどね。通じるものがあるなんて言ったら、前世の科学者に怒られるかな。


「でもそれだと困りましたね。森には誰もいなくなるから餌に困るでしょう? それに結界があるから出入りできるかの確認もしないといけません」


「それなら俺が残っても良いぞ」


 何言ってるのかなこのフランクという大バカは? 最近本当に自由度が増してきているな。確かに今はもうフランクじゃないと出来ないという仕事は無くなって来ているから、絶対にいなきゃいけないという事はない。だけど、この先は俺達の結婚式もあるし、国王達との折衝もあるんだから、フランクが居なくて良いなんて言える状況じゃない。


「フランクさん、流石にそれは無理ですよ。帰ったら何が待っているか分かっているでしょう? まさかそれから逃げる為じゃないでしょうね」


 おいおい、俺がそう言ったら直ぐにこの野郎は目をそらしやがった。それが本心かよ、それなら絶対にその要望は却下だ! 誰がそんな楽をさせるかってんだ。


「サラ、暫く俺達は此処から毎日ラロックに通う事にしよう。そうすればアクイラの面倒も見れるし、この先の準備も出来る」


 俺の計画では暴露する時は此処でと思っているから、王達を此処に連れてくる準備が必要なんだよ。宿泊させるのに今の建物じゃ問題ありだからね。出来れば国王にふさわしい建物を建てようと思っている。


 流石にお義父さんの屋敷の様な物は建てないけど、設備や家具には拘りたい……。



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