第240話 結婚式の準備が……
「さぁもう諦めて出勤しますよ」
昨日は夜遅くまで俺の家でグダグダと理由を付けて残ろうとしていたフランクだが、結局は俺達が通うという事に反論できる決め手となる材料がなく、今日を迎えてしまった。
何だろう? この喪失感……。一時は兄のような存在だと思っていたのに、今はその面影さえ残っていないような退行ぶり。正直駄々をこねる子供にしか見えない。
まぁ俺にも似たような面はあるから偉そうなことは言えないが、それにしても退行速度が異常だ。面白い物を与え過ぎたか? 元々新しい物好きな性格だからおもちゃを沢山もらえば、こうなるの必然なのかもしれない。
ひとの振り見て我が振り直せじゃないが、俺も人からあんな感じに見られていると思うと恥ずかしくなる。
俺だけじゃなく、他の人からも出発するよう促されたのに、フランクがあまりに動こうとしないので、最終的に俺とロイスに両脇を抱えられて出発するという見っとも無いこといなってしまった。
皆のレベルも上がっているし、身体強化の習熟度上がっているから森を抜けるまでの時間がかなり早くなった。俺の全力に比べればまだまだだけど、朝出て昼過ぎに到着できれば十分でしょう。
「懐かしいですね。最近はこんなに長くここを離れたことが無かったから、より一層そう感じるのかもしれませんね」
ミランダやエマは特にそう感じるかも知れない。最近は自分達の研究で忙しくここを離れるどころか、拠点から出ない日の方が多かったぐらいだからな。
「皆さん先ずは帰って来たことを皆に知らせないといけませんから拠点に向かいますよ。その後は一時解散して温泉にでも入ってゆっくりしててください。正式な報告会は明日にでもしましょう」
そう思っていたのもつかの間、拠点に俺達が到着するや否や俺達は全員拠点の食堂に連行されてしまった。そこに待っていたのは……。
「やぁお帰り、待ちかねてたよ」
出迎えの言葉というより、物凄く皮肉が込められた口調でこう告げたのは、直接会った事はないが遠目から見たことのあった、この領の領主ビクターだった。
その両隣にはグランとお義父さんもいて、何も語らないが只ならぬオーラを発していて、この先の展開が何となく想像できた……。
「先ずは何をさて置き紹介してくれないかな? フランクの後ろにいるのが、かの御仁だと思われるのでね」
俺は食堂に入ってビクターの姿を見た瞬間、条件反射的にフランクの後ろに回っていた。これはもう習性とでもいうのか貴族や王族から隠れるのが当たり前のように体に染みついている。
そりゃ、5~6年も隠れ続け、面会を拒否し続けたのだから、パブロフの犬のように成って当然だよね。
「お初にお目に掛かりますビクター様、ご推察の通り私がユウマ・コンドールです。そしてサラの婚約者でグーテル王国名誉伯爵の爵位を頂いております」
近いうちにはこうなると思っていたから多少は覚悟できていたけど、こういきなりだとどう返して良いか戸惑ってしまい、物凄く硬い自己紹介に成ってしまった。
「こちらこそ初めましてだな。何かとこれまでは会う機会が無かったのでな」
わぁ~ これも皮肉だ。会う機会を拒否したのはお前だぞと
それにしてもビクター以外何も言わないな? グランは平民だからまだ分かるが、お義父さんは元公爵なんだから、普通に話せると思うのに黙っている。これが妙に不気味で怖い。その恐怖心が俺に見える訳もないオーラを感じさせているのか?
そこに怒鳴りに近い口調で言葉を発しながら食堂に入ってきた人物がいた。
「お前らいい加減にしろよな! 俺がどれだけ苦労したと……」
入って来たのはジーン。今回の事で国との連絡の中継をしてもらったから、それで色々気苦労がありこの態度になったのだろう。だが食堂にビクターや父親と元公爵がいるのが見えたとたん、言葉の最後がしりすぼみになってしまった。
「ジーンさん、今回は本当にご苦労様でした。クルンバが直接王宮に送れれば良かったのですが、それが出来ず本当にご迷惑をお掛けしました」
俺が丁寧に謝ったから、流石にジーンもビクターの前というのもあってそれ以上は何も言わなかった。
「丁度良かった。そのジーンからの報告で今、王宮が大変なことに成っているから、私がその張本人に会いに来たという事なんだよ。ユウマ殿……」
そこまでかぁ~ 大変なことを頼んだから、ただでは済まないとは思っていたが、追及されるなら結婚式の時だと思っていたんだが、こんなに早いとは……。
「そうですか、私としては国への報告は結婚式の時と思っていましたし、今回の騒動や休暇の詳しい報告は明日にでもと思っていましたが、今からする方が良いようですね」
「出来ればそうして貰えないかな。陛下も詳しい報告が早く聞きたいそうなのでな」
さて、何処からどこまでを話そうか? 飛行船の事を話せば、魔境の奥地の情報も話す事に成るだろうし、今回発見した島の話をすれば真珠の話までしなくてはいけなくなる。他にもレベルや魔力量の関係、それによる寿命の変化、ミスリルの存在、ティムの魔法や他にも魔法が進化してる……。
フランク達には徐々に公開して来たから、秘匿してることは少ないが、それ以外の人には殆ど公開していないので、秘匿してる事の方が多い。
あ! そうだ俺やサラが話すとボロが出る可能性があるが、かえってこういう時は俺が話して良いと思ったことを全部知っているフランクが説明すれば余計なことは言わなくて済む。
丸投げ! これがこの場での最適解だ。フランクには悪いが犠牲になって貰おう。多分フランクが話す内容にはミランダ達も知らない話が出てくるから、ミランダ達の突っ込みはフランクに行く、この場に俺が居なければ必ずそうなる。
「そうですね。報告もそうなんですが、今後の事もありますから、良い機会ですのでこれまでの経緯を全てフランクさんに報告して貰いましょう。」
「おい! ユウマ! 何で俺がするんだよ。張本人はお前だろう」
ちょい、ちょい、フランクを手招きで俺の傍にこさせて、俺が説明するといろいろ隠してることがバレてしまうかもしれないけど、フランクが知ってる事は全て話しても良い物ばかりだからうっかりが無くて済むので都合が良いと話した。
するとフランクが小声で
「お前まだ隠し事があるのかよ。サラ様には逐一報告して貰っているのに、それでもあるという事はサラ様もグルだな。そりゃ何でもかんでも話せとは言えないから、隠し事があるのはしょうがないが、だからと言ってそれを理由に俺を使うのは違うんじゃないか?」
「悪いとは思いますが、これはサラも賛同してくれると思いますよ」
最近の俺の信用のなさはサラが一番良く分かっている。余計なことをぽろっと言いそうだからと、最近はちょくちょくサラに止められた経験があるからね。
「しかしな~~、 どこから話せばいいんだ?」
「これから国には色々と手伝ってもらう必要がありますからフランクさんが知ってること全てです。ですからそれを簡単に分かりやすく説明するなら、俺との出会いから今までを順を追って話して行けば全て伝わると思いますよ」
「ちょ! ちょっと待て。そんなことしたら1日では足りないぞ」
そう、言ってみればその人の人生をはじめから話すようなものだから、数時間では終わらない。まして研究した内容や色々解ってることを話せば質問が来るから、下手したら1日どころか数日? 1週間? あっても足りないかも?
それにこの話が、フランクの嫁のシャーロットやグラン一家全員に伝わったら、それはもうフランクは大変なことになる。吊し上げをくうのは確定だが、その先がどうなるかの予測がつかない。
1日とか、そんな甘い考えのフランクには正直に教えず、それしかないとだけ言って納得させた。
すまん! フランク地獄を見てくれ! 俺はその間に結婚式の準備をするから……。
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