第241話 ダメだったか?

 フランクに丸投げという作戦を取ったので、俺とサラはお義父さんを連れてお義父さんの屋敷に戻ろうとしたのだが、俺達の結婚式より知識欲というか脳筋的勘が働いたのか、お義父さんは残ると言い出した。


 その勘は当たっている。脳筋のお父さんが喜びそうな話がてんこ盛りだからね。魔境の奥地のレベル15の魔物の話なんか聞いちゃったら、お義父さんは身震いをして喜び踊り出すだろう。


 まぁその前の俺の家付近の話だけでもそうなる可能性が大きいが……。


「サラ、ここは逃げるが勝ちだから行くよ。それに結婚式の話も早くしないと、この分だと出来なくなりそうだから」


 ビクターだけでもこの状態なのだ。これにグランやお義父さんまで加わったら、絶対こちらに飛び火してくる。恐らくフランクが質問攻めに成ってきたらミランダ達も退散するだろうから、その前に俺達は逃げておかないと逃げるタイミングを失う。


「そうですね。ユウマさんが対応したらどこでボロを出すか分かりませんもんね」


 いや、そこまで辛らつに言わなくても……。そこは結婚式の話をしないといけないという理由にして欲しかったな。


 俺は精神的には45年ぐらい生きてることになるんだけど、まだ20代のサラにこういう扱いを受けるってどうなのよ? 俺は一度死んでるけど引き続き生きてるから、何ていうのかな? 心の強さ? という面では死に掛けた所から生還したサラに負けてるのかな?


 まぁただの結婚前から尻に敷かれてるともいうけどね……。


 何とか食堂を抜け出した俺達は、結婚式の話をする為にお義父さんの屋敷に向かったのだが、結婚式の相談をするはずのお義母さんとエリーからも質問攻めにあう事に……。


 こちらは今回の騒動についてではなく、どちらかというと婚前旅行についてみたいなことを根掘り葉掘り聞かれた。一緒に寝たのかなんて聞かれても答えようがない。雑魚寝的に一緒には寝たし、1つの部屋で二人だけでも寝たから一緒に寝たのは事実だが、この人達の聞きたいことはそこではないと分かるから、答えられない。


 何もなかったんだから答えられるよ。でもね、普通そういう事って本人の前だと言い辛いんだよ。


 今回もそうだが。以前エリーも一緒に森で何日も過ごしているんだから、そこまで気にすることではないと思うんだけどな? どうもお義母さんが今回はその辺を特に気にしているみたいだ。


 結婚式が具体的に成ったからというのもあるんだろうが、「なに」が、あったかを気にするのって……。孫の顔が早く見たいとか?


 いやそれはおかしいよな。それだったら義兄の方が先だろう。あれ? そう言えば義兄に子供っていたっけ? 結婚はしてると聞いた覚えがあるけど子供がいるかどうかは聞いていないような。俺が忘れているだけ?


「サラ、君のお兄さんには子供いたっけ?」


「いえ、まだいませんよ」


 貴族としては遅い方だと思うけど大丈夫なのか? ん? もしかして義兄に子供が出来なかったら、俺達の子に跡を継がせるつもり?


 俺は名誉伯爵だから一代限り、それならいっそのこと俺の子供に公爵家を継がせることで、俺を取り込むつもりか……。ん~~~ その考えは先走り過ぎなような気もする。義兄に子供が出来たらそんな必要無くなるからね。


「ユウマさん、それ以上考えこむとまたいらぬことを口走りますよ」


 少し考え込んだだけだが、サラが止めていなければ確かにそうなっていたかも? だって理由が分からないと気に成るじゃない。危なかった……。


 結局はお義母さんたちが「なに」に、あれ程拘ったのかは分らずじまいだったが、結婚式の話に何とか持って行けそうだから、このまま以前考えていた結婚式のやり方を提案してみた。


 この世界の結婚式のやり方も殆ど前世と変わらないんだけど、大きく違うのは披露宴がこちらだとダンスパーティーに成る事。特に貴族はね。


 そこを俺は自分がダンスが出来ないことを理由に、立食の食事会にしようと提案しました。だってその方が珍しい料理も、飲み物も提供できるから盛り上がるでしょ。


 今回は残念なことに鶏系の魔物は見つけられなかったけど、珍しい魔物は見つけたから、それを提供すれば良い。島の事はどうするかまだ決めていないけど、恐らくフランクが話してしまうだろうから、問題ないだろう……。


 いろいろ隠し過ぎるから身動きが取れなくなって来ているのは、自分が一番良く理解している。だから今回もフランクに説明を任せることで、隠し事を減らそうとしているのです。


 バレて拙いのは俺が転移者ということだけ、それに関係してサラだけに話している夢の話の事だ。その辺はフランク達も知らないから話しようがないから心配はしていない。


「結婚式は好きなようにやりなさい。どうせ此処まで来るような貴族も少ないでしょうから」


 貴族は確かに少ないと思うけど、王族が来るのが一番の問題なんですよ。お母さんからしたら、どちらの国の王族も親戚だから気にしないんでしょうが、俺にとっては初対面で色々突っ込まれるのが分かっているから、憂鬱なんですよ。


 気楽に言わないで欲しい……。


 結婚式の話が落ちついたから、今日はこの辺で家に帰ろうと思った矢先、俺達にお呼びが掛かってしまった。もう少し早くここを出ていたらこの呼び出しに応じなくて良かったのだが、結婚式の話の前にこれでもかと追及されたのが仇となった。


「フランクさん上手く話せなかったのかな? 普通に知ってる事話すだけなのに」


「そんな事では無いと思いますよ。多分父が何か言ったんじゃないかと思います」


 このサラの言葉が見事的中、帰れなかったことへの不満を見せつけてやろうと不貞腐れたような態度で食堂に戻ったら……。


 こちらの不満何ていえる状態ではなく、フランク達は魂が抜けたように疲れ切って放心状態になっていました。


 どんな追及をされたらこの状態になるんだ? 普通に俺と出会ってからの事を全部話すだけだぞ。


 俺からしたら人任せですからこんな感じにしか思っていませんでしたが、フランクが話す内容は良く考えたら、この世界の常識を覆すことが多いのです。そうなれば質問どころか、自分達もやりたいと言い出すに決まっている。


 好奇心旺盛なグラン、脳筋なお義父さん、まぁビクターはどうなのかは分からないが、この三人から質問プラスやらせろ攻撃を受けたらこうなるか……。


 どこまで話したか分からないから先ずはそこを探ってみるか、そうしないと延々とこの三人に付き合わされる。


「ビクター様呼ばれて参りましたが、どのようなご用件でしょうか?」


「ユ、ユウマ殿はいったい何者ですか?」


 いやいや、行き成りその質問はどう答えたら良いか分からんぞ? 何者と聞かれたら人間ですと答えてしまいそうになったが、それはあまりにふざけた答えなのでしなかったが、質問の意図が大き過ぎて答えようがない。


 俺の生い立ちが聞きたいのか、それとも常識を覆した俺の知識や発想力……。どこからそう思ったのかが分からない。俺からしたら具体的に聞いてくれた方が答えやすい。


 そんなこと考えていたら「箇条書きにせよ」と前世で良く言われたことを思い出してしまった。俺に聞きたいことがあるなら、箇条書きにしてて出してくださいと言いたくなったけど、これも我慢した。


「ビクター様、行き成り何者と聞かれて答えられる人は居ません。もう少し具体的にお聞きになられた方が宜しいかと」


 お! 流石サラ、貴族としての経験もあるのでこういう時の返しは上手いな。


「それは失礼した。あまりに今日聞いた話が凄すぎて、何から聞いたら良いのか分からなくなってあのような聞き方に成ってしまったのだ。正直まだフランクの話は途中なのだが、此処まででも聞きたいことが山ほど出てきてしまい、それに答えていたフランク達がこの状態になってしまったので本人に来てもらったという訳だ」


 まぁ分かってたよ、だから俺は逃げたんだ。フランクが話す内容は普通結果だけを話すと思うんだよね。でも聞いている三人はその過程が知りたくなるんだよ、何故そうなるのか?


 フランク達賢者候補や見習い、もっと言えば学校や病院の生徒もそうだが、基本から教えているから結果から過程を想像できる。こう言っては何だが、この三人にはその基礎が無いのだ。


 基礎が無い人に結果だけ話したら、簡単に出来そうだからやらせろと成るか、その基礎の部分を徹底的に聞いてくるの二つに分かれるでしょう。ですがこの三人は三者三様……。やらせろのお義父さん、教えろのグラン、今回のビクターはこの両方だったんじゃないかな?


 だから一日やそこらでは終わらないと言ったのだ。フランクも初めから覚悟を決めてゆっくりと進めれば良かったのに、早く終わらせようと結果のみを繋げて話したんだろうな。その結果がこれだよ、フランクもまだまだだね。


 人任せにしてる俺が言えた義理ではないが……。










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