第238話 アクイラ

 ユートピアを出発して、直ぐに飛行船は停止した。何故って? 早く帰って色々することがあるのは皆分かっているんだけど、俺の性格が移ったのか欲望に忠実になった皆が、あの大鷲のような魔物のティムをさせろと聞かなかったからです。


 大鷲のような魔物はアクイラという名前。名前からしてカッコイイな。さてそれは良いとして、問題はどうやってティムするかだよな~~。


「飛んでるのをティムするのは厳しいな。ユウマどうやってティムする」


「俺も今それを考えていたところです。普通に考えれば餌でおびき寄せてスリープ、ティムのパターンでしょうが、それには一度着陸しないといけませんが、場所が無いので悩んでいます」


 あ! そうだ! こういう時に着陸できる場所はこれからも必要になるから、人が寄り付かない所に中継基地みたいなものがあると便利だな。


「これからの事も考えて、この山の頂上に着陸できる場所を作りましょう」


「そうだな。此処にそういう場所が出来たら魔境の森とまでは行かないが、レベル上げをするのに丁度お良いな」


 この山は他の山に比べれば標高が低いけど、他の山は高いのでレベルの少し高い魔物がいるはずだから、ユートピアの住民のレベル上げには丁度良い。


 何時ものように俺が飛び降りて飛行船をギリギリまで降下させたら、サラも身体強化で降りてきました。それを見たローズも何故か追いかけるように降りて来たのにはびっくりしましたよ。


「ローズさん? どうしたの?」


「サラ様が風魔法を習得したと聞きましたので、私もやってみたくて降りてきました。サラ様の魔法を見るのは良い勉強に成ると思うので……」


 魔法はイメージだから、その実物を見るのが一番良いのだが、風魔法は一番難しいのです。基本見えない魔法ですから。


 サラに教えた時は先ずは風を感じる所から始めてその再現を目標にさせました。風を吹かせることが出来るようになってからは、少しズルですがウインドカッターに土を混ぜて発動して見せました。


 これは王宮魔法士たちが使っているつむじ風の魔法の応用。実はこの魔法ももっと応用すればウインドカッターのように使えるんですが、まだ誰もそれに気づいていません。


 前世でいうサンドブラシの応用です。サンドブラシはどちらかというと磨く時によく使われますが、それを細く強力にして飛ばすイメージが出来れば木の切断ぐらいは可能になると思います。本来科学的に言うとこの方法の方が本当の意味でのウインドカッターらしいです。


 一方風魔法のウインドカッターは、かまいたちのように真空の状態を作って、そこに一気に風が吹きぬけることで真空の刃で切ったようになることだと言われていますが、科学的には証明されていません。


 まぁ妖怪の妖術ですからね。魔法と同じで不思議現象という事で納得するのが悩まなくて良いのですが、俺流の考察だと魔素には属性がある事は仮説が出来ていますから、風属性の魔素が刃のようになると考えるというのもありなんです。


「ユウマさん、この辺りの木を切れば良いんですよね。広さ的にはどれぐらい必要ですか?」


「あまり大きくしても必要ありません。飛行船が着陸出来て、その横に宿泊できるような施設が二つほど建てられればいい広さですね」


「ユウマさん、さっきから私の魔力感知に小さい反応ですがちょくちょく反応があるんですが、いったいどんな魔物でしょう?」


 サラが木を伐採してるので、その見学をしながら周辺の警戒をしていたローズが魔物の反応を捉えたようだ。


「反応は小さいですし、もう少し山を下りた所に集中していますね。これは今まで感じたことのない魔力です。いったいどんな魔物なんでしょうかね」


 気には成るけど兎に角今はその魔物の事より、伐採を早く終わらせて、アクイラをティムするのが先決。


 サラの魔法が上達したもあって小一時間で予定の広さを確保できた。切り株は後で処理するとして、今は飛行船を着陸させて皆を地上降ろすことを優先させた。


「やっと降りられたか。時間もない事だしさっさと餌を撒いてアクイラをティムしようぜ」


 本当に最近のフランクはお気楽な性格に成って来たよ。人に重労働をさせておいてこの言い草だからな……。


「あいつらゴブリンは食うかな?」


「どうだろうな? ゴブリンは臭いからな。でも魔境の森ではウルフの餌に成っているぐらいだから食うんじゃないか?」


 この標高の高い所にはゴブリンはいないから食べていない可能性が高いけど、一応使い道の少ないゴブリンの肉を細かくして切り株の上に置いてみた。


 俺達はその切り株から少し離れて、飛行船の陰に隠れて様子を見ていたんだが、どうやら餌には気づいたようで、餌のある切り株の上空を数羽が旋回し始めた。


 その旋回が目印になったのか、その後周辺からアクイラが集まって来て上空には10羽以上が旋回している。


「10羽は少し多いな。一度に降りてこられると対処が難しいな」


「取り敢えずはひとり一羽キープ出来れば良いから、目標を決めて確実にスリープを掛けるしかないな」


 それしかないか、二羽目に行く前に気づかれたら攻撃してくるか逃げるだろう。そう思いながらも本心は複数を狙っているんですけどね。魔法って使えば使う程上達するのは習熟度が証明していますから、俺のように頻繁にスリープを使っていたら発動も早いし、消費魔力も少ないのは当然だけど、それだけじゃないんですよ。


 ボール系の魔法でいうと分かりやすいですね。習熟度が増すと同時に複数のボールが作れて、もっと増すとその複数のボールを別々の方向に飛ばせるように成る。これと同じでスリープの魔法を複数の標的に別々に掛けることが出来るように成るのです。


 アニメだとかだと一つのボールでも複数でもファイヤーボールの魔法名だけど、俺はそれを変えてその数で魔法名を変えている。5個以上はメガファイヤーボール、10個以上ならギガファイヤーボール、そして複数の標的を個別に狙う時はダイレクトファイヤーボール、この魔法が使えるようになるには当然その前にメガやギガが使えることが条件。


 ただもっと簡単な方法もあります。範囲魔法ですね。これだと敵味方が入り乱れているところでは使えませんから使いどころが限られます。今回のような場合範囲魔法でスリープを使うと人の分まで魔法を掛けてしまうから、良くないので使えません。


 時間差を作らなければバレませんから問題ないと言えばそうなんですが、あまり強力な魔法はまだ教えたくないので、今回はダイレクトスリープを使います。


 ここでおかしい事に気づいたあなたは凄いです。誰に言ってるのと突っ込みが入りそうですが、そこは無視して説明すると、ギガまで使えるように成るのが条件なのに、何故スリープの魔法はダイレクトが使えるのと疑問に思うでしょ?


 それがこのダイレクトの魔法特性とでも言いうのかな? 複数を同時に操るという事は並列思考が出来るか、マーカーを付けられるという事なんですよ。


 この場合は後者の方、マーカーが付けられるが正解です。マーカーが付けられるというのが魔法に成っているので、どの魔法でも使える。そういうことです。それでもこの魔法を習得するにはどの魔法でも良いからギガまで修得する必要があるという事。


 本当に魔法も奥が深いです。一撃が強力な爆発系ならエクスプロージョン、地獄の業火の様ならインフェルノ、これは俺が作った魔法に付けた名前だけど、この世界の魔法士の魔法名って? 聞いたことないような……。


 あぁ、確かストームという魔法名は聞いたことあるな、その他は……、記憶にない……。


「それじゃ、皆さん目標が被らないように決まりましたら、スリープを掛けましょう! 3・2・1で行きますよ」


「3・2・1!」


 その瞬間、無警戒にゴブリンの肉を啄んでいた10羽のアクイラが一斉に眠りに落ちた。


「あれ? おかしいな? こちらは7人しかいないのに10羽全部が眠ったぞ? どういうことだ?」


 気づいても口に出すなよフランク。そこはスルーして欲しい所なんだから。口に出してしまったのならしょうがない、適当に誤魔化すか。


「多分それは密集してる所に一斉に魔法を複数放ったから、相乗効果で効果範囲が広がったんじゃないですかね。偶然ですよ多分……」


「それ良かったな。そういう事なら俺が2羽ティムしても良いよな?」


 おい! なぜそこでお前がそういう事言うかな? せめてこういう時は平等にじゃんけんとかくじで決めるのが普通だろう。ん? この世界にじゃんけんあったっけ?


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