第25話 5度目の取り引き

 領都から帰って直ぐの取引は、フランクがいなかったのでロイスとケインがやってきて無事完了。


 やっぱり前回の量でも足りないらしく催促が後を絶たないみたいだが、今はフランクがいないからで何とか凌いでるそうだ。


 フランクが帰って来てからの事を想像すると、可愛そうになったよ。


 そして今日前回の取引から7日目に5回目の取引をする。


 この間に、このままでは、あまりにもフランクが可愛そうなので、面倒ではあるが俺の作業効率も上がってるので、燻製小屋をもう一つ作って一度に燻製出来る量を増やした。


 これで、最初に納品した量の8倍を少し手間が増える程度で作れるようになった。

 しかし、これ以上は本当に勘弁してもらわないと、俺の時間が無くなる。


 俺は他にもやりたいことが沢山あるのだ。魔法の研究もしたいし、スキルの研究もしたい。


 その他にも探索範囲を森の中央側に広げて、まだ見ない植物や魔物、それを倒す事でのレベル上げ、この新しい世界をもっともっと俺は楽しみたい。


「さて行きますか」


 この時はまさか、この先に百戦錬磨の商売人グランがフランクと共に待っているとは思いもよらず、いつものように出かけたのだった。


 何時もの時間ぐらいに、いつもの場所に到着して暫くすると、何と馬車が3台に増えている。


「俺 商品の量増やすなんて言ってないよな?」


 今回は俺が勝手に増やしただけだし、今回は少し割増しで渡そうと思ってる程度で今回の増産は、これからの自分の時間に余裕を持てるようにしたいのが最大の理由だから。


 勿論フランクがあまりにも可愛そうなのもあるけど。


 馬車の姿がはっきり見えた時に気づいた


「あれ? 三台目は荷馬車じゃないどういうこと?」


 いつもと違う、取引には似つかわしくない乗用馬車に疑問と不安、警戒心を抱きながら待っていると、いつものように御者台のロイスが手を振りながらやって来た。


 馬車がついて、乗用馬車から降りてきた人物を見て驚いた。


 その人物がフランクの父グランだったからだ。まして領都で隠居生活をしてるグランが、この辺境での商売の取引の場所に現れたのだから余計に驚いた。


 あり得ない人の登場に呆気にとられている俺に向かってフランクが申し訳なさそうに


「すまん どうしても父さんが君に直接話したいことがあるというので連れてきた」


 その言葉にやっと俺の思考が追いついた。


「そうですか、それなら話は後にして、先ずは取引から終わらせよう」


 最近フランクに対して敬語だったり、ため口だったりとどうも不安定だ、これも精神と体のバランスがまだ馴染んでいないのかな?


 フランクに今回は少しだが割増しで持ってきたことを伝えると、あからさまに喜んだ。


 その言葉に明らかに反応した人がもう一人いた。グランだ。


 ロイスと俺が数の確認をしてる間、フランクとグランが何か話しながら、時折こちらに視線を向けるのが何だか凄く居心地が悪い。


 数の確認が終わり、ロイスが積み込みを始めたので、グランの話を聞くことにした。


 話を始める前に、フランクが近づいてきて宝石の原石の話はしてない事と、父親も鑑定を持っている事を伝えてきた。


 鑑定のことは俺も鑑定で見ていたから知ってたけど、どうもグランは鑑定阻害の魔道具を身に着けているようで、俺が気づいていないと思って教えてくれたようだ。


 俺にその魔道具は通じないのだよ、教えないけど。


 だけど教えてくれてよかった。魔道具に関係なく俺は鑑定できるけど、逆に持ってるのに俺が鑑定出来たことがバレルのも拙い。


 何か対策を考えないと俺の秘密がバレル可能性がある。


 後日その問題は直ぐに解決できました。俺が魔力感知を覚えたことであっさり解決。


 魔道具から本人とは少し違う微弱な魔力が出ていたので、鑑定阻害の魔道具かは解らないけど魔道具を持ってるのは解るので、そういう相手には注意して対処する事にした。


「ユウマ君 突然来て済まないフランクとの約束を破ってしまって 私が無理に頼んだんだ どうか息子をせめないでくれ」


 グランの謝罪から話は始まった。


「別にいいですよ。グランさん一家にはこの商品も渡してますから、出所が俺だって事知られていますからね」


「それでお話というのは何でしょう?」


「それなんだが、食べさせて貰ったこの商品は本当に美味しいな。是非私の店でも取り扱いたいと思ってね」


 それを聞いて困った顔をした俺に


「事情は聞いている。一人で作っているから多くは作れないことも、目立ちたくないと言うこともね」


「はぁ」


 それが解ってるなら今日ここへ来た理由はなんだと思いながら、中途半端な相槌をうつ。


「一人では限界があるのは当然だ。そこで提案なんだが作り方を伝授して生産を人に任せてみないか?」


 まあそうなるわな、俺も考えなかった訳じゃない。


 特にここ最近の出来事、シャーロットの病気の事、図書館で得たこの世界の情報、ポーションの研究成果など、この世界の歪さを実感することが多くあったから、俺の知識で何かしたいという思いが沸いていたからね。


 ただ、やっぱり目立ちたくないと言う大前提を壊したくないから踏ん切りがつかなかった。


 それにこの燻製品の生産を人に任せる事に躊躇するには理由がある。それが解ったのがこの前、領都に行く途中でフランクの仕留めたホーンラビットを食べた事だ。


 レベル1とレベル3では明らかに味が違う、ボアとオークも多分魔境の中の物と外ではレベルが違って、味も違う事が予想されるので、作り方を伝授しても今のこの商品と同じ物は出来ないからだ。


 任せるのは考えていたことだから、いい機会だしリスクはどうにかすればいいと思い懸念してる事を伝えることにした。


「教えるのは別にいいです。フランクさんも大変そうだから、ただ問題もあるんです」


 そういうとフランクが一瞬驚いた後、明らかに安堵したような顔になった。


 すまん、今までしんどかったよな。 心の中でそっと手を合わせた。


「その問題とは何です?」


 グランにそう聞かれたので、素材の魔物のレベルの違いによる味の劣化について説明した。


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