第228話 潜入ビーツ王国

 結局、昨日の夜も大宴会となり、俺は今日も二日酔いでポーションの世話に成ってしまった。


「おはよう! あれ?サラとエマさんは?」


「あそこ!」


 何やってるんだあの二人は? 昨日あれほどパルオイスを獲りまっくていたのに、まだ足りないの?


 あ~ そうだちょと試してみるか。これが上手く行ったら面白いことが出来る。


「サラ~~ ちょっとこっちに来て」


「はぁ~~い 何でしょう?」


「今獲ったパルオイスから真珠を取ったとに、直ぐに傷を閉じないで、これを入れてから閉じてみてくれる」


「え? それって海岸で集めた魔石ですよね。それを入れたらどうなるんです?」


 これは前世の養殖真珠の作り方を真似してみようと思ったんだけど、真珠には魔力が必要なので、その核に魔石を使ったらどうなるかを試したいんだ。


 多分天然の真珠が出来るまでには相当な年月が掛かるはずだけど、もし魔石を核に出来れば、短期間で作れるかもしれない。


 そしてその一部の魔石にはもう一工夫してある。魔石の属性変換だ。一つの属性に変換された魔石に対してどういう真珠が出来るのか非常に興味がある。


 養殖のようではあるが、天然養殖とでも言えば良いのかな? 核を入れる以外は後は自然任せ、さてどんな結果が出るか?


「これを入れたら真珠が早く出来ないかと思うのと、どんな真珠が出来るかを調べたいんだ」


「それ物凄く面白そうですね。それなら私が合成した魔石も入れてみていいですか?」


「サラが合成した魔石って大きくない? 普通入れる核って小さいんだよ。やりたいなら別に試すぐらいは良いと思うけど……」


 本当に大丈夫だろうか? 魔石の魔力でパルオイスが進化したりしないよね? ゴブリンがホブゴブリンに成る様に、ジャンボパルオイスとかに成ったりして……。


 これは定期的にここに来て観察する必要がありそうだな。まぁ休暇がてら来るのには丁度いい島だから問題ないけど。


 それから、昼頃までそれぞれのやることをやって、午後一でビーツ王国に出発する事になった。


 俺は海から見ても見えるように、この島には人が住んでますよアピールの為、トーフハウスを二棟ほど増築して置いた。


 錬成陣が使えるメンバーはひたすら海水から塩を錬成して、ラロックの町ぐらいなら一年ぐらいは余裕で賄える塩を確保した。


「それじゃ、そろそろ出発しますよ。出来るだけゆっくり行って、ビーツ王国には夜上陸します」


「ユウマ一つだけ忠告しておくが、ビーツ王国の南部には普通外国人はいないからな。これだけは俺でもどういう反応が返ってくるか分からんから注意しろ。特に女性陣は要注意だ」


 ジーンからの事前情報ではビーツ王国の南部と北部はあまり仲が良くないらしいという事と、南部の人は容姿も北部の人に比べて浅黒く、保守的な人が多いという事のようだ。


 アメリカの開拓時代の南北の仲のようだな。北部は外国とも交易を盛んにしてるけど、南部は国内だけの商売で、特に農業が中心だからそれを根拠に虚勢を張っている。正直果物と砂糖が主力商品だから、季節で収入が物凄く変動する。


 まぁそれでも俺には秘策があるんだけどね。一つは例のクーラーを少し持ってきているので、これを餌に権力者を黙らせようと思っている。他にもこの国では食べられていない米が此処には自然に生息してるらしいから、それの栽培に手を貸して食料自給率を上げてやろうと計画している。


 俗にいう二毛作を推奨しようと思っている。春に米、秋から冬にかけて麦、そうすれば一年中主食になり得るものが栽培できる。


 それに食味は落ちるが白米に玄米を少し混ぜるだけでも脚気などの病気予防にもなる。果物ならアボカドかパイナップルがあればそれも栽培させる。


「取り敢えず、上陸したら、一番にエスペランス王国から派遣されている医師を訪問して情報収集から始めましょう」


 ビーツ王国の南部とフリージア王国には医師が派遣されているのは聞いているので、俺達が行けば歓迎してくれるだろう。だって俺は師匠だよ。


「入国は密入国だけど、町に入る時は堂々と正面から入るつもりだから、フランクさんが心配することは起きないと思いますよ。医者の師匠として訪問すれば無下にはされないでしょう」


 もしそれでもこちらに危害を加えようとするなら、この国から医師を撤退させるだけです。それぐらいの権力はあるからね。というか国を脅して認めさせるんだけど……。


「ロイスさん、このまま山脈の左側を目指して進んでください。恐らく山脈の最南端付近には人は誰も住んでいないでしょうから、そこまで行ったら降下を始めます」


「そろそろ降下を始めますよ」


「ん? ちょっと待ってください。あそこの山から川が流れていますね。申し分かりませんが降下しながらで良いですから、あの渓谷を目指してください」


 どうして俺が渓谷に向かって欲しいと言ったのか? それは俺の考えてることが可能かどうかを確認したかったからです。


 渓谷に成っているという事は一番山脈の中で薄いという事。この表現が適切かどうかは分かりませんが、川の源流の山の奥に山がある可能性が低いと思うからです。


 勿論、絶対ではないですが、最低でも川が流れているという事はそこまでは道を作りやすいという事です。


 確かに危険も付きまといますが、急遽作るならこの道が一番早く作れる。


「ちょっとここで停止してください。川が流れてきてる山の向こうには山が見えませんね」


「それがどうした?」


「山の後ろに山が見えないという事は前方に見える山より低い山しかないという事です。目の前の山って高く見えます?」


「いや、この辺りの山に比べたら一番低いんじゃないか」


「その一番低い山より、向こうに山があっても、もっと低いという事でしょ。という事は向こう側の国フリージア王国側からも低いという事です」


 実際に掘って繋いでみないと分からないが、この山までの経路を安全に作れれば、十分交易路として使える。


「もう大丈夫です。ここまでの情報が分かれば良いので、後は帰国する前にもう一度ここに来ましょう」


 戻りながら渓谷の両岸を見て行ったが、上手く削れば問題ない道が出来そうだ。絶対安全という道は無理だろうが、道幅を広く取ることは出来そうだから、馬車もすれ違えるだろう。


「それじゃ川の上ですから、麓の森に入る前に着陸出来そうな場所を見つけて降りましょう」


 その時、俺の目には山の頂上付近に小さな影が見えていた。あれは島に向かう前にティムしようと思った多分大鷲系の魔物だろう。これは俄然ここに戻ってくる理由が増えましたね。


「よっこいしょ!」


 何時ものように最後の着陸は俺の飛び降りから始まります。


「ユウマよ、いつもあの掛け声だけど爺さん臭いな。もう少しどうにかならんのかその掛け声」


 ほっといてくれ! どうせ俺は爺さんだよ。前世と合わせればもう40を超えて50に手が届きそうなんだよ。いや違うは、もう45を超えている……。


「落ちついていて、その中でも気合が入る掛け声なんだからこれで良いんです」


 フランクに言われて良く考えると、俺は45越えでサラはまだ20代前半、転移の影響で精神的に若くはなっているけど、俺の人格としては45年生きてることになるんだよな。一度死んでるけど……。これ前世なら犯罪だといじられるケースだよな。


「ここまで人はそう来ないと思いますが、用心のためにここに格納庫を作りますから少し下がっていてください」


 ほんの30分程で、土魔法でいとも簡単に大きな空洞を作って、そこに飛行船を格納して、最後にまた土魔法で壁を作って出口を隠したら、フランクに呆れられた。


「お前の魔法は非常識だな……」


「いや~ ラロックに建てたもの見たら分かるでしょ。土魔法の習熟度が上がらない方がおかしいくらい色々作っていますからね」


 飛行船を隠したら、森を抜けて一番近い街を目指します。多分そこには医者はいないでしょうが、情報を集める為には多少のリスクは承知で行きましょう。


「最南端の町か村でしょうから、医者がいるとは思えませんから、トラブルにならないという保証はありませんから、慎重に行きましょう。心構えは我慢、我慢です」


 いやこれって、フラグを建てる言葉の様な……。







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