第58話 襲撃者の末路
早馬は夕方に成る前(15時頃)には領都に着いていた。馬車の移動なら1日半掛かるが、引いている物もない馬だけなら休憩を入れても早い。
早馬からもたらされた襲撃の報告は、領都の警備兵とグラン商会の両方に伝えられた。
襲撃者は馬車を置いて逃げているから領都に来るには時間が掛かる、恐らく明日以降じゃないと到着しないだろうと予測できた。
本来、ラロックと領都の移動に徒歩は殆どいない。いるとしても冒険者が移動しながら狩りをするぐらいだ。
早馬の報告では移動中街道ではそう言った冒険者の集団は見ていないそうだ。
もしいたとしても森の中を移動してると言う事。
襲撃者も勿論人の目を避けて森の移動にはなるだろうが。
報告にはもう一つあった。グランと襲撃者を目撃したミランダが領都に向かっていると。
グランの到着より襲撃者の到着が早いかもしれないが、グラン達が早ければラロックと同じように門で検問をすればいい、逆に襲撃者の方が早ければ、領都に入る人物の身分証を控えて後から探せばいい。
「何でこうもうまくいかない! あれはいったいなんだ!」
そう、この悪態をついているのは襲撃者のリーダー、スベンである。
スベンは従業員拉致でも情報を聞きだせなかったので、これ以上自分が表だって行動すると拙いと思い行動を控えると共に周辺を探らせて次の手を模索していた。
その結果、どうもラロックに何か拠点の様な物が出来上がっていると言う事が解った。
それに辺境伯とグランが何やら動いていること、他にも王都で何やら未知の薬で病が完治してるという噂も入って来ていた。
そうなるとこのまま悠長にしてる事も出来なくなり、今回の襲撃を計画した。
あからさまに周辺を詳しく調べる事は出来なかったので、大体の調査だけで計画に踏み切った。
所詮、商人のすることだという油断は確かにあった。調べた限りでは護衛もいないし、作りも木材による囲いだけ、しいて言えば空堀があったぐらいだ。
その程度ならどうにでもなると考えたのが運の尽き、実際に襲撃してみれば、未知の物に侵入を防がれ、人は居ないと思っていたのに人がいて、顔まで見られてしまったのだ。
今回スベンが襲撃に参加していたのには訳がある。普通ならこういう事は人に任せるのが今までのスベンのやり方だったが、拠点に何があるか解らないのと、もし薬の事が解るようなものが有っても、専門家では無い者には理解できないだろうと言う事で参加したのだ。
それが蓋を開けてみれば顔まで見られると言うおまけ付きでの大失敗、悪態が出て当然である。
グラン達が領都に到着した時、スベン達はまだ到着していなかった。
スベンは医者、殆ど町から出る事もないし出る時は当然馬車である。そんな人間に街道の移動より大変な森の中の移動が楽なはずがない。当然休み休みなので、到着が予測よりも遅くなった。
グラン達は襲撃者が到着してるかは解らなかったが、今日明日は門で待機することにしていた。
拠点の襲撃だから当然犯人はラロックか領都の関係者だとグランは思っていた。 そうでなければ考えられないのだ。
辺境に盗賊などまずいないし、拠点の情報を知っている可能性があるのは今の段階だとこの二つぐらいなのだ。
最悪、領都に入らずそのまま逃走する可能性はあったが、犯人が馬車を放置している以上、逃走するにも準備が必要だとグランは思ったから門で待機した。
グラン達に遅れる事1日、スベン達がようやく到着した。もう夕方に成りそうな時間だった。
「グランさんあの集団のあの人が犯人の一人です」
ミランダは覚えている顔を見つけグランに報告した。
「何だと! あいつで間違いないのか?」
グランが困惑するのも無理が無い、ミランダが指摘した人物はここ最近までグラン商会に付きまとっていた、医者のスベンだった。
従業員拉致の黒幕はスベンだろうとは思っていたが、まさか本人が襲撃などという事までするとは思えなかったのだ。
グランは近くにいた警備兵にスベンの集団の事を伝えた。
直ぐに警部兵はスベンの集団を包囲、拘束に掛かった。
「な! 何をする私は医者のスベンだぞ」
スベンが言えたのはそこまで、グランとミランダの姿を見たとたん黙ってしまった。
拘束された全員をグランが鑑定、全員の称号に犯罪者の称号を確認、警部兵に告げる。
スベンはこれまで自分では手を汚していなかったから、今回も参加していなければ逃げる事は出来たかもしれない。称号には本人が直接やった行為しか認識されないから、しかし今回は直接参加してしまったから、称号に出てしまっていた。
これが犯罪者の抜け道の一つ。
その後スベン達が捕まったことで、エマやローズに顔を見られていなくて一時的に難を逃れていたラロックの冒険者も芋ずる式に拘束された。
スベン拘束後、スベンの自宅兼病院を調べた結果今までの色々な悪事が白日の物になった。
冒険者を使って、ギルドの職員を脅し冒険者が採って来ていた薬草を横流しさせてたり、他の薬師の患者を奪ってる事も解った。
しかし問題はそれだけでは済まなかった。今回の襲撃やその他の悪事に全て冒険者が絡んでいたからだ。それも二つの村と町で……
何故? それが問題かというと、冒険者は身分証を持っているからだ。
冒険者崩れの盗賊もいるから身分証を持っている者もいるのは居る。でも多くは冒険者活動をしなくなるので失効してしまう。
それが今回は現役の冒険者、日頃は普通に冒険者として活動しているから身分証も失効しない。
ギルドにも鑑定を持っている人がいるがそれ程多くは居ない。商売人でもジーンのように持っていない人いるぐらいだ。
それに人の鑑定はこの世界では基本あまり好まれない、だから好き好んで人の鑑定を行う人も少ないし、スキルは習熟度で出来る事が変わってくる。
グランやフランクのように称号まで見れる人も少ないのだ。
商業ギルドも冒険者ギルドも世界的組織ではあるけど、税金を徴収してる組織でもあるから、領主や国と全く関係ないとは言えない。だからこそ治安を悪くする犯罪者に現役冒険者が絡んでいたことは無視できない事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます