第214話 食材探し

 年内の結婚式が決まってしまった以上、一番にしなくてはいけないのは、サラの両親への報告。その前にさらとの打ち合わせが先だけど……。


「サラ、フランクさんがビクター様を納得させるのに結婚式を早める事に成ってしまったけど良かった?」


「全然問題ないですよ。貴族にとって婚約とは結婚と同義のようなものですから」


 成る程そうだったね。貴族の婚約をもし破棄するようなことになれば、その時点で女性側は傷物になったという事らしいからな。物凄く理不尽だと思うがこれが貴族社会なんだよな。


「それで結婚式なんだけど何時頃が良いのかな? 何か決まりとかある?」


 この世界にあるかどうかは分からないが、前世のようにジューンブライド6月の花嫁なんていう迷信もあったし、逆に日本では仏滅は避けてたりしてたからな。勿論迷信だから、そんなの気にしない人たちも多かったけど。


 それでも葬式の友引を避ける人が多いのは変わらなかったな……。


「別に決まりごとはありませんが、年末年始にする人はいませんね」


 そりゃそうだそんな忙しい時に結婚式をする人はいないよな。この世界ではたった一つのイベントだもんな。


 このラロックではないけど、他の地域では収穫祭のようなものはやられているのかな? 以前のラロックは正直農業が盛んでは無かったし、収穫される物も少なかったから、そんなことをする気にもならなかっただろう。


 でも今なら……、収穫祭や学園祭みたいなものもやれるな。畜産も発達して来たし、領都も含めれば蒸留酒だって作っている。それに伴って、エール用の大麦の生産も増えているし、ワイン用のブドウも生産されている。


 産業祭というのもありだな。このラロックなら何でも生産してるから……。いかんいかん、ラロックでやるのはダメだ。やるならこれからは王都でやって貰おう。


 中心地は王都にしないとこれからもずっとラロックが狙われる。生産拠点も殆どの商品が全国的に広まっているんだから、わざわざここでやらなくても王都で十分に出来る。その方が競争意識も生まれるから、国の発展のためにはその方が良い。


「で! ユウマさん今度は何を考えていたんです」


 やべ~~ また思考の渦に……。何とか誤魔化さないと……。


「えっとですね、結婚式に出す料理に必要な食材をどうしようかと考えていました」


 決して嘘ではない。元々考えていたことだから、嘘はついていないが誤魔化したのは事実だ。


「それで、どんな食材何ですか?」


「それはね玉子。結婚式には絶対に必要なんですよ。だけどビーツ王国の南部まで行かないと手に入らないんです」


「ということはまた飛行船ですか? そうですよね」


 流石俺の嫁候補、飛行船で帝国の国境までも行ったし、魔境の調査もしたことがあるから、当然そう思うよね。


「はい、そうです。飛行船で手に入れることは可能だと思うんですが、物凄くそれには超えなくてはいけないハードルがあるんです」


 ハードルなんて言う言葉サラにしか通用しないけど普通に使ってしまった。サラには夢で見たと言って、ちょくちょく本を追加して、前世の世界の事を書き留めたものを渡している。


 今では漫画やアニメ、ゲームなんて言う言葉すら知っている。今密かにラノベのような小説も書いているから完結したら読ませようと思っている。


 この小説を読んだら、俺が転移者だと気付くかもしれないが……。


「超えなくてはいけないハードルとはフランクさんですね」


 その通り! 今度また休暇を取ると言えば絶対に付いてくるというはず。どう誤魔化しても、一時しのぎにしかならない。だから超えるという表現はあっていないんだけどね、超えられないのは分かっているから。


 ただ、言い出すタイミングなんだよ。フランクだけならまだ良いが、飛行船の事を知っているロイスもいるから、タイミングと場所を間違えるとロイスだけでは済まなくなるかもしれない。


 飛行船の事は知らなくても、ビクターや王家が感づくぐらいなんだから、グランのような百戦錬磨の人が気が付かない訳がない。


 短時間で国境まで行ける手段を俺が持っていることは、多分賢者候補やグランは薄々感じ取っているだろうから、休暇自体も迂闊に言えない。


 正直もう全てにおいて限界に来ていることは確かなんだよな。ラロックや領都ぐらいだけならいくらでも誤魔化しようはあるけど、国規模から世界規模になって来てしまったから、秘密の共有というか知識の共有がある程度出来ないと、これからはやって行けない。最低でも国との共有は絶対不可避。


 実際今回一歩間違えれば戦争になっていたからね。もうそういう時期に来ているんだから、俺も諦めるしかないかな……。


 取りあえずは今回の休暇まで、魔境の俺の家でするという事にして、フランクとロイスまでの同行は許して、後は王家同様結婚式でという事で納得して貰うか?


「またずいぶんと長く考えていましたが、ユウマさん結論は出たんですか?」


「もう、秘密にしておけないことが多すぎるし、これからは他国も相手にしないといけませんから、人数の制限はしますがある程度の人には情報を公開しようと思います」


「わたしが読んでいる本の内容は別ですよね」


「それなんですが結婚式までに部分的に公開できるような本を作ろうと思います。あくまで研究成果としての公開です。夢の内容という事は言いません」


「そうですね、婆やでも夢の本の内容は知りませんが色々と納得してくれましたからね」


 正直、孤児と魔法武器の事がなければ、現状でも俺は引きこもれる状態だから、仕事的には問題ないが、それでも俺が何の理由もなく長期居なくなると言えば皆が心配というより、疑いの目を向ける。


「ビーツ王国の南部まで行って帰って来るのに何日掛かるかなんですよね。あまり長期だと色んな意味で厳しいと思うんです」


「それでもユウマさんは目的の物を手に入れたからと言って、それだけでは済まないでしょう?」


 流石サラ俺の事を良く分かっていらっしゃる。折角南国のような所に行くのに玉子だけで帰るのはもったいない。


「物探しもそうですが、行く時の経路も人に見つからないように行かないといけないので、実際どのくらい掛かるか見当がつかないんですよ。だから期間が読めない」


「そういうことなら、この際ですから行く前に結婚式の時に公開することがあると正直に前振りして置けば良いんじゃないですか?」


 隠そうとするから興味を惹かれるのだから、公開することを約束して置けば、多少は気分的に余裕が出来るか? お互いに……。


 そこまで決めれば後はどこまでの関係者に公開するかだ。賢者候補、見習い、グラン一家、ぐらいかな? 流石に拠点メンバーやサイラス達はまだ無理だな。


 俺としてはお父さん達サラの両親とエリーには知っていて欲しいとは思っている。サラが俺の嫁になる以上、秘密にするのにも限界があるし、協力して貰う上でも元隣国の公爵の力は必要だ。まして家族だからね……。


 サラとの話し合いが終わって、緊急の会議を招集して打ち合わせ通り、結婚式で公開することがあるという事を皆に説明し、その前にちょっと長めの休暇を取るという事を宣言した。


「ユウマ君が何かしたことは分かっているけど、敢えて今は聞かないことにするよ。前もってこのような話し合いを持ってくれたことだからね。これでは結婚式が益々楽しみになってきて眠れない日が続きそうだよ」


 今回は除け者にしないと前もって宣言したからグランの機嫌がすこぶる良い。この人はフランクの親、好奇心の塊のような人だから、無視すると本当に大変なことになりそうだからこれで良かったと思う。


「ユウマ君、わしらも話を聞いてよい物なのか? 義理の親だとしても気を使う必要はないのだぞ」


「お義父さん気を使っているのではなく、この先お父さん達には知っていてもらわないと困ることになりそうなのですよ。俺としては逆に申し訳ないぐらいです。巻き込んでしまうようで」


「そういうことならいくらでも巻き込みなさい。サラの婿に巻き込まれるなら本望じゃ」


 多分、見習い達が帰国した後には義兄の力も必要になるだろうから、お義父さん達には協力して貰う事が増えるから、ある程度は秘密を知っていてもらわないと、動きにくいと思う。


 利用してるのは俺の方だから本当に申し訳ない……。

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