第215話 出発前

「ユウマさん、何やらまたやらかしているようですが、結婚式では王家にも公開する約束をしてるそうですから、今回は追及しませんが、これからも逐一サラさんを通じて報告だけはしてくださいよ」


 いつもながらスーザンはこういう時、締めてくれるから頼りになる。


 そうれにしても今回は錬金術三人衆が大人しいな? いつもならローズ辺りが一番騒ぎそうなんだが、これまで会議中一言も発していない。


 ん~~~ 何か不吉な予感が……。


 それから数日、一応長期休暇を取る形なので、連絡事項などが無いか各施設を見て回ったり、孤児やサイラス達に今後の予定について話しておいた。


「それじゃいつものように、俺の家まで身体強化で走って行きますよ」


 出発の号令を掛けた瞬間、魔境の森の方から


「ちょっとまったー」


 いやいや、昔のTV番組じゃないんだからそのセリフはどうかと思っていたら、森から旅支度をした女性が三人登場した。


 嫌な予感的中。大人しいから何かあるとは思っていたけど、まさかこのような強引な方法に出るとは思ってもみなかった。


「はぁ~~~ そう来ましたか」


「ユウマさん、分かっていたんですか? 彼女たちが付いてくるという事に」


 気が付いていたというより、こういうのは何と言ったら良いんでしょうね。予知でもないですけど、それに近いような感?とでもいうのでしょうか? こいつら何かやるぞという予感はしていました。


「ちゃんと休暇の為の段取りはしてるんでしょうね。まぁそこそこ経験も長いですから、その辺の抜かりはないと思いますが」


「は~~い、そこはばっちりですよ。2か月ぐらいはいなくても大丈夫にしてきました」


 流石に2か月も掛けるつもりはないから、そこまでの準備が出来ているならまぁ良いでしょう。 本当にこの三人は何時まで経ってもお転婆です……。


 そろそろこの三人も結婚を考える時期じゃないのかな? この世界の結婚は全体的に早いからな。20歳までには殆どの人が結婚する世界だ、今のこの三人の年齢だと行き遅れと言っても過言ではない。


 行き遅れの多い拠点メンバーでも、少しは社内恋愛で結婚した人もいるみたいだけど、今まで結婚式をした人はいなかったな。遠慮してるのか、お金の問題だろうか?


 拠点メンバーの給料は安くないから出来そうなんだけどな……。


 この世界の女性の地位が上がって、キャリアウーマン的になってくる人が増えて、婚期が遅れだしたのかもしれないな。他にも以前のように、衛生環境が悪くもないし、医学的にも進歩したから、子沢山にする必要もなくなったのも原因の一つだろう。


「取り敢えず、ここに来てしまった以上置いて行くわけにもいきませんから、一緒に行きますか。但し、1つだけ約束してください。絶対に我儘は言わないと、良いですね」


 これは言っておかないと向こうについて飛行船や自転車を見たらどうなるか、予想ができているから、初めに釘をさしておく。


 それでも無理だろうな……。


 出がけにひと悶着あったが、無事その日の夕方には俺の家に到着した。みんな個別にレベル上げもやっているみたいだから、身体強化でのスピードも以前よりは数段早くなっていたから、一日で到着できた。


「ユウマさん! 見慣れない建物がいくつもあるようですが、あれはなんですか?」


 げ! 本当に目ざといな。到着早々直ぐに見つけるかね。


「あれは~~」


「あれ? 建物の裏に何か見えますね。あ~~ あれは浮いているのですか? あれはいったい何です?」


 飛行船まで見られたか、格納できないから外に接岸させているから見つかるとは思っていたけど、早すぎるよ。一日走りっぱなしだったのに疲れていないのかねこの人は……。


「ローズひとまず落ち着け、俺が説明してやるから、三人は俺についてこい。ユウマはサラ様と自宅でゆっくりしてたらいいぞ。ロイスもどうせ倉庫に行きたいんだろうから俺達と一緒に行こう」


 お~~~ フランクが~~ 俺にはその時のフランクが神々しく見えたよ。だがフランクがタダでそんな事をするわけがないと、気持ちを引き締めて。


「フランクさん、嬉しい申し出ありがとうございます。でも乗ったらダメですからね。あくまで見せるだけです。良いですね」


 操縦方法を知っていてもフランクは重量軽減魔法は使えないから、実際に動かすことは出来ないけど、係留用のロープの長さまでは上昇できるからやりそうだったので、釘を刺しておいた。


 本当に俺の周りの人たちは釘を刺さないと暴走しそうな人たちばかりになってしまった……。


 それから、夕食の支度が済むまでの時間、彼らは戻ってこなかった。飛行船の説明の後にロイスが自転車の事まで暴露してしまったので、こちらは乗れるということで、交代でずっと乗り回していたそうだ。


 これはかなり不味いよな。フランクだからまだ錬金術にそこまで詳しくないから誤魔化しが出来ていたけど、錬金術師が今回は三人もいるから飛行船の構造から、スライム素材の新たな使い道に気づくことで、それが自転車にも応用できると分かってしまう。


 自転車は面倒だから今はまだ作りたくないんだよな。ただでさえ、物差しや定規、コンパスと製造に人が足らない状況なんだから、そこまでの余裕はないから、必然的に作るとなったら俺に回ってくる。それだけは避けないと……。


「それじゃ、夕食にしましょう。ですがその前に、これだけは言っておきます。この場で見たものは俺達の結婚式の時に公開しますが、売り物にはしません。これは絶対です!]


「え~~ 飛行船は分かりますが、自転車は作りましょうよ」


「そこまで言うなら良いですよ、それならローズさんが一人で作ってくださいね。良く考えれば分ることですが、どこに大量生産出来る職人がいるんです?」


「それは……」


「拠点の錬金術師は殆どが、ミランダさんのブランド化粧品を作っています。それにエマさんの付与魔石のアクセサリーも作っていますよね。だから拠点に作る人がいないんですよ」


「下請け……」


「出せます? どこに? 組み立てだけなら下請けに出すことも出来ますが、それだってどこに出すのかで揉めますよ」


 実際に孤児を集めたのもこの人手不足を補うというのが目的の一つだけど、スキルが無いんだから、今の現状出来ても補助的な仕事しかできない。物差しや定規の仕事なら、秘匿することも殆どないから問題ないけど、流石にスライム素材に関しての事はまだ孤児たちにはやらせられない。


 ローズの気持ちも分かるんだよね。他の2人はそれぞれに自分の道を切り開いているから、自分だけが取り残されているように感じているんだろう。だからこそ自転車に余計に食いついたんだろうが、それでは駄目なんだ。自分で道を見つけないと……。


「ローズさん、気持ちは分かるけどこれだけは譲れません」


 ここは何かヒントをあげれば良い場面何だろうが、敢えて何も言わないことにした。もう、ローズなら自分で考える力が付いているし、三人の中でもイメージ力も抜群に良いのだから、錬金術師としてだけではなく、魔法士にも成れる素質があることに自分で気づいて欲しい。


 まだサラの風魔法やフランクの錬金術の事を知らないから、その可能性に気づかないんだろうが、じかに目で見て体感すれば何かに気づいてくれるだろう。


 生活魔法は誰もが使えるが、属性魔法はそうではないという固定概念が染みついた人たちだから、その常識から抜け出せない。


 現状無属性の魔法や闇属性の魔法も使えているのに、ステータスに表示されないから無理だと思い込んでいる。


 魔法もスキルと同じで経験値と条件が揃えばステータスに表示される。下手すると経験値だけでも表示される可能性だってある。俺が特殊だからなのかもしれないけどね……。


「さぁ、この話はこれでお終い。先ずは食事にしましょう。折角の料理が冷めてしまいます」


 食事の後……。


「ユウマ! 今回の目的がビーツ王国での食材集めだとは聞いていないぞ」












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る