第213話 そうなるよね

 帝国や王宮で騒ぎが起きている頃、ビクターが突然ラロックにやって来た。


 いつもなら先ぶれがあるから、俺も対処のしようがあるのだが、今回はそれもなくいきなりだったから、何処にも逃げようがなかった。それでもお義父さんの所には避難したけどね……。


 元隣国の公爵の屋敷だからね、そう簡単にはビクターでも訪問できない。姑息な手段だがこの際そんなことは言っていられない。ビクターの目的が俺だというのはもう明白だから。


 何故かというと、国境の騒ぎが終息したことは直ぐにビクター経由でここにも届いていた。それなのにビクターがやって来てるという事は、当然王宮が俺の仕業だと見当がついているという事なのです。


 そして国境の終息状況をフランクがビクターから聞けば俺に詰め寄らない訳がない。どう考えても俺が関係してることはフランクも直ぐに分かることだから。


 その結果、それはもうこってりとフランクに説教をされましたよ。それでも流石フランクらしいと言いますか、半分はなぜ連れて行かなかったのかでしたけど……。


 そこはちゃんと、もしもの時に巻き込みたくなかったからと言ったので許してはくれましたが、俺との関係はそんなものなのかと拗ねられましたけどね。


 俺としては家族同様だからこそ余計に巻き込みたくなかった。俺に近い関係の人ほど影響が大きいから……。


「ユウマ、今の所ビクター様は父さんが相手をしてるけど、父さんは何も知らないからいずれ俺の所に来るぞ。どうするんだ?」


 まぁ今後の事はもう覚悟は決めているから、今回も本当は素直に会っても良かったんだけど、習慣というか習性に近いように逃げちゃったというのが正直なところだった。


「そうですね、どのみち王族や貴族とは会う事になるんだけど、どうせなら一度で済ましたいんですよ。了解を取っていないから確実な日程の返事は出来ないけど、サラとの結婚式を早めようと思っています。その時に説明するということで納得して貰えないですかね?」


「そうかとうとう覚悟を決めたか?」


「失礼な、婚約した時点で覚悟というかその決心はしてるから……。ただ何時結婚するかは状況を考えていただけだからね」


「分かった、そういう事なら、俺からビクター様には伝えて納得して貰うよ。ただ時期は出来るだけ早くしろよ。出来れば年内だな」


「分かりましたよ。では年内という方向でこちらも準備します。王族も参加する結婚式だからそれなりに準備しないとね」


 どう考えても今回の戦争を回避する方法はこれしかなかったから、この状態になるのは覚悟していた。王族や貴族に拘らないというのは限界がいつか来るのは分かっていたことだから、しょうがない……。


 まして俺の身分を抜きに考えてもサラを結婚相手に選んだんだから当然こうなる。


 これから益々、俺の発信する情報で世界を相手にするのだから、俺が表に出なくてもこの国は当然のように矢面に立ってもらわないといけない。それなら最低限俺はこの国の代表と交流を持っておかないといけない。


 まぁ隣国の公爵家の娘との結婚だから、俺も一応王族の一員になるのだから、この国の貴族や他国に利用されるという事はもうそう簡単には出来ないから、そこは少し安心できる。


 しかし結婚式か……。前世を合わせても初めての経験だし、この世界の結婚式を知らないから如何したものか?


「サラ、貴族の結婚式ってどんな感じ?」


「そうですね……、普通は教会で結婚の誓いをして、その後パーティーというのが一般的ですが、このご時世教会で出来るかどうか?」


 そうなんだよな。現状教会とは神聖国とのいざこざ以降仲が悪い事はないけど、良くもないんだよな。この国の教会は改革途中だから、まだ不穏分子がいるからな。


 教会で式は出来なくても、せめて神像の前での儀式はやらないといけないだろうから、この際だから俺が作ってみるのも一つの手かな……。


 この世界の神様は直接手は出してこないから、アニメとかであるような神像がか輝くなんてことはないだろうし、問題ないかな?


 もし光でもしたら、神子とかに勘違いされるだろうし、平穏な暮らしなんて到底できなくなる。


 この世界神託とかを受ける聖女や聖者はいないし、子供の時にスキルを授けるような儀式も無いから、信仰心があまり育たないように思うんだけど、その割にこの世界に宗教は一つだけなんだよな。


 普通なら偽宗教というか、偽神様的なものが生まれても不思議じゃないのにそれもない。この面だけは歪にはならなかった不思議な世界?


 まぁあくまでこの大陸ではの話だけどね。他の大陸には別の宗教があるかもしれない? 全く現状どの大陸も交流がないから情報が全くないから分からない。


 鑑定で調べればある程度は分かるでしょうが、今の段階だと行こうとも思わないから、調べる気さえ起こらないのです。


 前世のネットでもそうだよな。興味のない事を調べる人なんていないし、調べようと思えばいくらでも出来るのに……。まして与えられる情報のみを信じてしまうそういう人の方が多かった。


 神像を俺が作ると今教会にある神像と少し違ってくるけど、これも後から問題になるのかな? 嫌な予感はするけどこればかりは嘘は付けないからな。実際に会った事があるのに、似てない物は作れない。


 この世界の教会の神像は俺があった神とは似ていないけど、名前が同じだから同一人物だろうと俺が思っているだけなんだが、この宗教自体が偽宗教という事はないだろうな……。


 この国の教会は分派されたから、神像を変えることも出来るけど、そこまでやったら宗教戦争が起きるかな? いやそうでもないか、神の名前は同じ何だからそこまでにはならない?


 良く考えるとこれって俺が争いの種を撒いてる? 産業、魔法、宗教、色んなことに火種を起こしてる?


 そう考えると神像は作るけどやっぱり公開はしないで、俺の家に設置しよう。そこでサラと二人だけの結婚の誓いをすればいい。納得は出来ないけどラロックの教会なら何とか式はさせてくれるだろうから、皆の前での式はそれで妥協しよう。


 貴族の結婚式だから本当は大きな教会でやるのが普通なんだろうが、俺の立場を考えればいくら王族も参加するとはいえあまり公には出来ない。


 俺という人物が他国や多くの貴族に周知されるのは避けたいからな。幸いなことにこの辺境に王族が来るのは珍しい事では無いから、極近しい関係者のみでの結婚式が挙げられる。


 式はこの世界風で良いとして、パーティーをどうするか? 場所はお義父さんの屋敷で良いよな。ダンスホールの作ってあるし、シャンデリアもあるから十分だろう。

 料理は立食に合うようなものを考えて、レシピを公開するか?


「レシピ! そうだこの際だからあれを手に入れよう!」


「またユウマさんが何か思いつきましたね。いつもの事ですからダメとは言いませんが、程々にしてくださいよ」


 こんな感じで俺が結婚式をどうするかの思考の渦にいつものように入った後、思いついたことを口に出して、何時ものようにサラに突っ込みを入れられた時、また次なる情報が飛び込んできた。


 その内容は帝国の皇太子が廃嫡されたという事だった。流石に今回の事は温和な皇帝でも許すことが出来なかったみたいだ。そりゃそうだよな、皇帝を完全に無視した行動だからね。反逆ではないけどそれに近い事をしたんだから……。


 軍の方も今回の首謀者の一人である軍務卿は更迭、新しい人が就任して軍務省の人事も刷新されたそうだ。


 次の皇太子はまだ決まっていないから、これから暫く帝国は外より内部で色々競争があって、他国への干渉などする余裕もないだろう。


 今回大きな騒ぎだったが、この騒ぎのおかげで、帝国という大国からの干渉や妨害が減るのは大いに喜ばしい。


 神聖国と帝国というこの国にとって一番やりあいたくない国が、両方とも内部抗争的なものが起きて、自滅してくれている。残るは共和国だがここは商売人の国だからしぶといんだよね。内部抗争はいつもの事だから全然ダメージになっていない。本当にめんどくさい国だ……。

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