第192話 孤児
ミランダの成長ぶりには驚かされたけど、俺も刺激を受けたから、魔石についてもっと研究しないといけない。
魔石と同時に魔方陣も研究したいんだよな。羊皮紙に書いた魔方陣なら、魔力量さえあれば誰でも使えるのか? 多分これは確定と言って良いほど使えるで合っていると思う。
それが出来るなら、もう一つ今回の休暇で研究したスキルのカギ同様に、属性魔法のカギになるかもしれないのが、魔方陣魔法。
魔方陣で魔法を放つ練習を繰り返したら、正確な魔法が何度も繰り返されるから、属性魔法を発現するのではないかと予測できる。
勿論、サラのように何も使わずに、練習を重ねた上での話だが……。
サラは現状風を吹かせるところまでは出来ているから、そろそろやってみる価値はあるかもしれない。
「サイラスさん、ご苦労様。冒険科の方はどうですか?」
「冒険科は順調だよ。名前は冒険科だが冒険者を育成してるわけじゃないからね。レベル上げが目的の生徒のお守みたいなものだから」
「ところでサイラスさん、一つ聞きたいんですが、王都には孤児がいますか? ダンジョンがあるから、冒険者の両親が亡くなった子供とか、片親に成って捨てられたとか理由は色々でしょうが」
フランクから教会が改善されれば、教会に孤児院を作るという事らしいけど、出来るにはまだ時間が掛かりそうだから、俺の計画の為に身寄りのない子を何人か引き取ろうと思っている。
来る気があるなら、制限は設けないから、何人でも良いんだけどね。孤児の募集がなぜ王都かというと、王都意外だと近所の人や村や町で面倒を見ることが多くて、完全な孤児は殆どいない。
普通の森で仕事をしてる冒険者だと、余程の事が無い限り死ぬことは少ない。怪我で引退する人はいるけど。
王都はやはり人間関係が希薄というか、他人の子供、特に冒険者の子供の面倒なんかみない。だから孤児がいる。他にも中世のような時代だから、娼婦なんて普通にいるから、この言い方は好きではないが、その女性が運悪く生んだような子供が孤児になることがある。
これまでそういう所には目を向けていなかったが、ラロックのような辺境だと殆どいないが、領都にはいる。それでもそんなに多くないから孤児なんて滅多にいないが、もし母親が病気で死んだ時などは、店が面倒をみている。
女の子なら将来娼婦にすることも出来るし、男の子なら下働きさせたり、将来の用心棒にしたりするから、捨てられることはない。
この世界の人が善人ばかりでもないし、貧富の差が無い訳でもない。
田舎に行くほど貧富の差はなくなるが、王都のような場所だとかなり差がある。それに各領都や王都などの大きな町になれば、大小はあってもスラムは存在する。
領都だと王都に近い領ほど、スラムが大きくなる。盗賊なんかも王都に近い場所にしか殆どいない。地方で商人を襲っても殆ど儲けにならないからだ。
こういうのも孤児を生み出す原因になっているから、王都や王都に近いほど孤児がいる。
「王都にはそれなりにいるな。殆どが、スラムで集団で生活してるか、大人に食いものにされているな。冒険者に成れる年齢まで生き延びられれば、抜け出す奴もいるが、そうでない奴は悪党になるか、娼婦になるか、大人になる前に死んでいく」
俺は転移してからこのラロックと領都以外を知らないから、孤児とか娼婦やスラムの事を気にしていなかった。それに文明を進める事ばかりしていたからね。
最近漸く心に余裕が出来たのと、サラやお義父さんの関係者など多くの人と繋がることで、ここ以外の世界の事が分かってきた。
この先、孤児院や学校が出来れば環境も変わってくるだろうが、この世界では前世の交通事故より、高い確率で孤児が生まれるから、その対応もしていきたい。
以前、医者に成るのを諦めて村に帰ると言っていた、薬師スキルを発現した生徒の話を思い出す。薬師すらいない村があるほど、貧富の差がある。
「そうなんですね。それじゃまたお願いしても良いですか? 王都で冒険者を引退しそうな人や引退した人もまた集めてくれませんか? それと同時に王都と王都周辺の領の孤児を此処に来ることを希望するなら連れてきてください」
「希望者が多いとかなり大変だぞ。それに冒険者も何をするのか分からないんじゃ、来てくれるか分からんぞ」
「必要経費は俺が出しますから、馬車や食料なども心配いりません。それに冒険者にも仕事をお願いしたいので、給料は払います」
冒険者には俺が作った試作武器のテストをしてもらいたいのと、その武器で魔境の森の攻略をしてもらって、年齢とレベル、寿命などの実験台になって貰いたい。
魔境の深部に行っている、エリーでは参考にならない。レベルが急激に上がっているから、一般人とは言い切れない。
ダンジョン冒険者もレベルが高いから、一般人ではないが、ラロックの冒険者との比較は出来る。
物凄く言い方は悪いが、サンプルは多いほど、正確な統計が取れる。
「冒険者の仕事は何だ? それに孤児はどうするんだ?」
「冒険者には俺の仕事の手伝いと、今サイラスさんたちがやっている冒険科の仕事を引き継いでもらいたいんです。そしてサイラスさんには俺の研究に付き合ってもらいたいんですよ。それと孤児については、ちょっとこれから仕事が増えるので、大人の手伝いをしながら勉強をさせて、将来的には手に職をつけさせようと思っています」
正直もう新規事業で募集をかけても人が集まらない。ゾイド周辺では仕事が無い人なんかいないのだ。
それにラロックと領都では小学校が始まっているから、子供の働き手もいない。
孤児は親がいないから、この世界では誰もが使える、生活魔法でさえある程度の年齢まで生き残って、初めて人から習う子供多い。
こうなるともう負の連鎖で、孤児の子供は余程の事がない限り、貧民のまま。そのまた子供もという感じになる。
今までは大人や成人間際の人を対象にしてきたが、これからは子供に目を向けて行かなければいけない。
スラムの大人は国や領が面倒を見ればいい。大人の仕事はこの国ならいくらでもある。それでも働かないなら、自業自得だ。
しかし、子供は違う。この先孤児院が出来ても、正直どこまで生活が豊かになるか分からない。多分、国は金だけ出して少しの教育だけしかしないだろう。それではただ生きていけるだけで豊かにはならない。将来の夢がないのだ……。
読み書き計算なんて出来て当たり前の世の中になるのに、それだけでは孤児は初めから一歩出遅れてしまう。
生きるすべを教える。新弟子制度にも入れない可能性が高い孤児にも、その道を開いてやりたい。
ラロックになら、どんな職業の勉強もできる。酪農がやりたいなら、勉強の合間に手伝いをして学べばいい。手伝いをすれば給金も貰える。
これは農業でもそうだし、どんな職業でもだ。グラン商会の新規事業にも人ではいるから、仕事はいくらでもある。
魔方陣には魔物の血が必要だから、血の採取のついでに解体を覚えればスキルが発現するかもしれない。
この世界の孤児院は勉強だけでは駄目だという事を、分からせる意味もある。
スキルや魔法がある世界なんだ。儀式でスキルや魔法を授かる世界じゃない。
スキルや魔法も学ぶ世界、授かった魔法でも学ばないと使えない。
こんな世界だから、孤児には厳しすぎる。親がいたってままならない世界なんだからね。偶々この国は変わって来たから、親がいれば何とかなる世界になって来てるけど、他の国ではそうはいかない。
全てにおいてこの国は世界の手本にならないといけない。
「言いたいことは大体分かったし、ユウマがやるんだ悪い事では無いだろう。俺も協力しようじゃないか。しかし、何時連れてきたらいいんだ?」
「こちらも準備と根回しがいりますので、2か月後を目安にお願いします」
「それなら、3か月後にしよう。実際集めてみないと人数すら分からんから、2か月で集めて、3か月後に連れてくる。それなら準備もしやすいだろう」
「分かりました。それなら申し訳ないですが、1か月後に一度連絡をください。それで予想も出来ますから」
「そうだな。どちらにしても、一度には連れてこれないだろうから、場合によっては先行して送ることもあるから、考えておいてくれ」
流石だ。サイラスはダンジョンでもパーティーのリーダーだったらしいし、ゲームでいうレイド的な戦闘もしたことがあると言っていたからな。
孤児たちが住む場所を早急に作らないとな……。
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