第217話 海だ!
エスペランス王国と共和国の国境を越えてから、山脈伝いに共和国の上空を飛行していたら、案の定鉱山らしい場所を発見した。しかし、規模としては小さく、付近に村らしいところもなく、鉱山関係者の住まいがあるだけで、村としては機能していないようだった。
畑もないのだから、食料は補給に頼っているという事。これでは行商が行くような村にもなっていないということで、恐らくだが誰か個人の所有物という事なんだろう。
共和国に貴族制度はないので、領地制度も形式的にあるようなもので、どちらかというと町の権力者という感じ。この世界の共和制は前世とは違って、微妙なんだよね。
正直に言えば微妙というより中途半端。選挙のようなものはなくその町で一番商売が上手く行ってる人が、自然と町の代表になっているだけ。
役人は全て中央から派遣されているけど、結局は地元の権力者の部下のように成る。
物凄く歪な共和制……。 せめてまともな選挙があればもう少しましになるんだろうけどな。
それから山脈を調査しながら南に向かって飛行してたら、予測通り何か所か渓谷や標高の低い山も見つけたので、将来的に何かの役に立ちそう。
それに、エスペランス王国にはない標高の山だからか、初めて見る魔物も結構いた。それだけではなく面白い発見も出来た。標高が高いという事は前世では気圧が低いという事なんだが、この世界では魔素が濃いという事が分かり、飛行系の魔物のレベルが2~3という魔境の入り口位のレベルだった。
飛行系と言っても大きさは大鷲より少し大きい程度で、そこまで脅威を感じるものではない。それにこれも魔境と同じで滅多に麓には降りてこない。魔素が薄いからという魔境と同じ条件のようだ。
「フランクさん、ちょっと寄り道して良いかな?」
「お前、もしかしなくてもあれをティムしようと思っているだろう」
流石に俺の事が良く分かっているフランクだ鋭い指摘が飛んできた。
「その通りだけど、これも実験の一つですよ。魔素の濃い所に生息してる魔物が長期間魔素の薄い所にいたらどうなるか観察したいんですよ」
魔素の濃い所の魔物の観察なら、別にラロックでも出来るんだが、俺が試したいのは飛行系だと自分で定期的に上空に行けば濃い魔素に触れられるから、その状態だと変化が起きないかもという予想があるからだ。
もしそうならそこで疑問が生まれるんだよ。変化しないなら頻繁に山の麓に降りてきていてもおかしくないのに、それが無いのには理由があるという事。それが分かればスタンピードがこの世界にない理由の一端がまた解明されるかもしれない。
こういう事って原因が分かっていれば、その原因が壊れた時に違う事が起きると予測できる。前世でいう地球温暖化のような物かな?
これから魔法が進歩すれば、多くの人が魔法を使うように成る。その結果どうなるかは分からないが、もし地上付近の魔素が薄くなったことで、人や魔物の生活に影響が出るかも知れない。だったら今のうちから調べておいて損はない。
本音は見た目がカッコイイというのが一番の理由なんだけど、それは絶対に口にしない。もっともらしい理由だけフランクに言って、許可を貰う……。
「それなら、俺もその研究に協力してやるよ。だから俺もティムする」
いやいや、それはどうしてもおかしいでしょ。それは普通にバレバレですよ。カッコイイから欲しいと顔に書いてあります。商人としてそれはいかがなものでしょうね。ポーカーフェイスが商人の武器だと思うのですが?
「何です? その皆さんの顔は……。いくらなんでも全員分は無理ですよ」
「酷いです。それは不公平、差別です。ユウマさんはそういう人だったんですか」
自分たちの欲望のために人を差別主義者のようにいって、悪者にしないでくれよ。物理的に全員分は飛行船に載せられないし、飛行させて付いてこらせるのも数が多すぎてこれから行く街で怖がられる。
「分かりましたよ。そういうことなら今は諦めます。帰る時にまたここを通ってその時にティムしましょう」
くそ! これじゃ数が増えすぎて俺だけカッコイイ魔物をティムしてるという事にならないじゃないか……。それにそうなると他にも欲しがりそうな人が結構いるな……。
しょうがない帰りに少し多めにティムするか。
それから2日後漸く山脈の切れ目が見えてきた。それは即ち、海に到達するという事です。この世界に来て初めてこの目で海を見ることが出来た。前世では子供の頃にはよく見ていたが大人になってからはそんな余裕が全くなかったから、本当に久しぶりの海だ。
「ユウマさん! あれが海なんですか?」
「お~~ 生まれて初めて海を見たぞ。兄さんからは聞いていたがこれ程とは思わなかった」
「あの水がしょっぱいんですよね」
皆それぞれに感動をそれぞれの言葉で表現している。中には言葉にすること出来ない程感動してる人さえいた。エスペランス王国に生まれれば先ず普通は海を見ることなく人生を終える。本や口づてに聞くことはあっても、自分で見る事なんて余程の事が無いと無かったことだ。
馬車の改良で、比較的近いビーツ王国に商売に行く人が最近見ることが出来るようになっただけで、本当に極僅かだ。貴族や役人なら少しいるだろうが、それでもこれまでは外交と言えるようなことも殆どなかったから、そちらの方もそんなに多くない。
そうだ折角ここまで来たんだから、ちょっと鑑定EXでズルをしてみますか。
お~ 思惑通り、この先にもう少し行けば無人島らしき島がありますね。行ってみないと分かりませんが、現状のこの世界の造船技術ではあの島に渡れる人はいないでしょうから、今度こそちょっと寄り道をしていきましょう。
「ユウマさん、海に出ましたけど、そろそろ方向を変えなくていいのですか?」
「ちょっと面白い事をしようと思っています。まだ皆には内緒ですが、この先に島があるようなので、そこに寄って行こうかと思います」
「え! 島ですか? そんな物見えませんが」
「サラ、身体強化の要領で、目に魔力を集中してみてください。そしたらこの先に小さな点のようなものが見えますよ」
視力強化しても点にしか見えないんだから、相当遠く何だろうが、俺には鑑定EXでそれが島だと確信で来ているから、サラにそう促した。
海の生物も魔物だから、どんなものがいるのか分からないが、近海にはいなくても遠洋だと大型や強い魔物がいることは確かだろう。
俺の予想では地球と同じように気圧は深海程高く、高度が上がれば低くなるのは同じでも、魔素に関しては両方とも濃いと思っている。
そうじゃないと、魔境と同じようにスタンピートが起きない理由が説明できない。
近海程、浅いから魔素が薄いので、強く大型の魔物が生息できないと考えれば理由が説明できる。
それに海にも魔境のような魔力スポットのようなものが存在すると考えれば、遠洋程魔物のレベルが高いと予測できる。
どう考えても気候的に俺達の大陸の魔境が中心という事は考えられないから、この星には魔力スポットがいくつか存在すると考えるべきだ。
そこに近づくにつれて、魔素が濃くなるから海の深さに関係なく、魔物も強くなると考えた方が良い。
「ユウマさん、方向転換しなくていいんですか?」
今飛行船を操縦してる。ロイスが心配になったのか漸く聞いてきた。
「大丈夫ですよ。そのまま真っ直ぐ飛行してください。もう少ししたら、右前方に島が見えてきますから。そしたらその方向に進路を変えてください」
「え~~~ またユウマさんがとんでもないことしそうです。旦那様大丈夫でしょうか?」
「ロイス、あきらめろ。あいつが良いって言ってるんだから何か考えがあるんだろう。それに今回は俺達に決める権利はない。俺達はおまけだ」
良く分かっていらっしゃる。今回の目的は食材探し、それも俺個人の為の物なんだから、誰にも俺の行動に文句は言えない。
飛行系魔物のティムに関しては食材でもないし、偶然の物だから、皆の意見を聞いたけど今度は違う。表向きはね……。
勿論、遠洋の魚の魔物も調べたいと思ってるのも事実ですが、レベルが高い程美味しいという法則が此処でも成立すれば、結婚式の良い食材になる。
まぁそれでも一番の理由は好奇心ですけどね。無人島がどんなものか知りたいというのが一番です……。
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