第272話 念願の米

 ロベルトから一つ不安なことは聞いたが、一番の目的であった米は豊作だと報告を受けて、俄然直ぐにでも食べたくなった。刈り取り自体が始まったばかりなのにそんな無茶なことを考えていたら、一人の男がこちらに近づいて来た。それに気づいたロベルトが、


「これはマックス殿、良い所に来られた。こちらが宗主様じゃ是非ご挨拶を」


「お初にお目に掛かります。わたくし元ビーツ王国の宮廷魔導士をしておりました、マックスと申します。以後お見知りおきを」


 何だって! 宮廷魔導士! そんな人がどうして亡命なんてして来たんだよ。それにロベルトの話だと一人ではないらしいし、どういう事なんだ? これは後でロベルトに聞くしかないな。今はそんな事してる暇ないし、ここでするような話でもない。


「ロベルトさん、取りあえず豊作ということを聞けて安心しました。この後の工程も大丈夫ですよね?」


「はい、お任せください。この後は天日干しで10日から二週間ですよね」


 ちゃんと覚えているな。これなら安心だ。だがこの広さの水田が豊作となるともの凄い量の米に成るから保管場所が必要になるな。何処に用意しようか? ロベルトはその辺準備してるのかな?


「ロベルトさん、米の保管場所はどうする予定ですか?」


「それでしたらご安心ください。今年は麦も豊作でしたので、米に備えて倉庫を増築しました。倉庫も宗主様からご教授頂いた通り高床式にしてあります」


 おう~~、本当に優秀な男だ。教えたこと以上の事まで出来ている。これはこれからも任せて大丈夫そうだ。後はこの仮の国ユートピアを本当の国にする為にも国民すべてに教育を施す必要があるな。そうすればこの国はエスペランス並みに成長する。しがらみがない分それ以上に成るかもしれない。


 さて、そんな事は後だ。今は米だ、米。


「ロベルトさん、一つ頼みがあるんだが、収穫したコメの一部を直ぐに分けてくれないか?」


「それは構いませんが、直ぐには食べられないのでしょ?」


 それは普通に天日干しした方が美味しいに決まっているんだが、俺はもう我慢できないんだよ。だから魔法で乾燥させてでも食べたいの! つべこべ言わずに持ってこいと言いたいのを我慢して、丁寧に研究の為と嘘をついて持ってくるように伝えた。


「俺達は一度村に戻りますから、申し訳ないけど今持って来て下さい」


「はい、お任せください。それで量はどのくらいお持ちしましょうか?」


「そうですね。あそこにある馬車一台分もあれば嬉しいですね」


 そう言うとロベルトは一目散に刈り取りをしているところに戻って指示を出していた。


「マックス殿、申し訳ないがこの後我々は少し用事があるので、明日出来ればもう一度お会いできませんか? 色々伺いたいこともありますから」


「はい喜んで! わたくしも是非宗主様にお聞きしたいことがありますから」


 居酒屋の店員のような返事だったが、了解を貰えたので、明日機会を設けることにして、ロベルトが米を馬車に積んできたのでその場を後にした。


「あなたこんなに貰ってきてどうするんです? 乾燥させないと食べれない物なんでしょ?」


「大丈夫だよサラ。今日の夕飯は皆にこのコメの美味しさをしっかり味わってもらうから」


 米は魔法で乾燥させるから大丈夫だとは説明しなかったが、俺が大丈夫と言ったからそれ以上はサラは突っ込んでこなかった。サラが俺に聞いて来た時まだ近くにマックスがいたから魔法で乾燥させることを言えなかったのだ。


 今日会ったばかりのマックスの前で新魔法の話なんて出来ない。マックスという人物がどういう人かもまだ分かっていないからね。最悪を想定すればビーツ王国のスパイという可能性も無い訳ではない。


 ビーツ王国の国王にはかなりキツイ脅しを掛けているから下手なことはしないと思うが、こればっかりは分からんからね。側近の一人を除いてろくな奴がいなかったようだから、警戒だけはしておかないといけない。


「取り敢えず村に戻って、今後の事を打ち合わせしよう。聞くのを忘れたけど預けたガルスもどうなっているか気に成るしね」


 米が手に入ったんだ。これは当然TKGもやりたいじゃないですか。それにこの際だからこの国にも玉子料理を広めたい。その為にはやることが山ほどある。


「兎に角今日は何も聞けそうにないから俺達はユウマの言うように村に引き上げよう」


「ユウマさん、ここって一応国という事に成っているんですよね? そうなると宗主であるユウマさんが国王という事に成るんですか?」


 帰りは馬車も一緒だから人から見える位置ではインベントリにしまうことも出来ないし、馬がいるから放置する訳にもいかず、のんびり帰っていたら、スーザンがいきなりそんなことを聞いてきた。


「それは家の父も気にしていましたよ。ユウマさんが国王という事ならグーテル王国としても友好関係を正式に結びたいと」


 スーザンは元は国から派遣された貴族だし、見習いのマーサはグーテル王国の王女だからどちらも国王から色々頼まれているんだろうな。


「その辺についても俺なりに考えはありますから、帰ってからゆっくり話しましょう」


 俺としては自由に行動するともう決めているから、俺が国王というのは絶対にないのだが、形式上は代表ぐらいには成らないといけないかとは思っている。


 ユートピアは対外的にというかビーツ王国に対しては別大陸から来たという設定に成っているから、国王というのはおかしくなってしまう。ただ事情を知っているここの住民とエスぺランス国王とグーテル王国の国王は認識的に俺が代表=国王という事に成ってしまうんだよな


 え~~い、小難しいことは後回しだ。兎に角今は米だよ。米を食べるなら米に合うおかずも必要だよな。TKGは最後の締めとして、玉子焼き、生姜焼きは外せないな俺の好物だからね。後は港町だから魚の塩焼き、勿論煮つけも良いな。


 米が採れるように成ったらおかずの幅が一気に広がる。パンでも大丈夫なものはあるし、単独で酒のあても良いけど、やはり日本人は日本食と言えば米とみそ汁、おかずの三点セットが揃って初めて完成という気がする。


 時間がもったいないから、馬車の中で米の乾燥をやって脱穀迄やってしまおう。揺れる馬車の中で準備して来た脱穀機を使うなんて無謀だけど我慢できないんだからしょうがない。


 俺のインベントリにはこの脱穀機や唐箕とうみが結構な数入っている。米の栽培を始めてからラロックに戻って一番にこの二つを木工職人に設計図を渡して量産して貰っていた。俺の鑑定EXの検索は前世の物でも出来るから、設計図は簡単に手に入った。籾摺り機は流石に方式に種類もあるし、ゴムやウレタンの代わりにスライムを利用したから硬さ調整が必要なのでこれだけは俺がそれぞれ一台づつ自作した。

 ゴムロール式と衝撃式、初めは臼で突くか戦時中のように一升瓶の中で突く方法も考えたが、大量にやるならやはり機械式にした方が良いと思って、苦労したが形だけは作れた。問題はテストが出来ていないことだ。米が無いんだから当然なんだがこればかりはぶっつけ本番だ。


 そんな無謀なことまでしている俺の行動と見たこともない機械が出てくるから、仲間の皆は驚きと呆れの入り混じった何とも言えない顔をしていた。


 今は分からんだろうが、米は偉大なのだ。勿論麦も凄いが、それに匹敵するものだという事を教えてやる。もち米じゃないけどうるち米でも餅は作れるし、せんべいも作れる。団子を作ってみたらし団子も良いな。冒険者の携帯食に餅も使える。


 極めつけは何と言っても日本酒だ。米をバカにしてると飲ませてやらんぞ、魚介類がラロックでも食べられるように成ってるから、魚介類に合う日本酒は絶対評判に成る。今から日本酒を飲ませた時のグランの顔が目に浮かぶ。


 元々小さな領だから、ラロックから領都までの移動のように二日も掛かるようなことはない。それでも普通の馬車だから村に着いた時はもう夕方近くなっていた。


 この分だと明日のロベルトやマックスとの会議は無理かもな? あいつら戻ってこれないだろう……。


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