第273話 懐かしい味

 村に到着したら、皆を無視して黙々と一人で籾摺り迄終わらせた。残念ながら精米機までは間に合っていないのだ。


 精米機は意外に作るのが難しい。小型の物なら意外と簡単に作れるのだが、大量に精米する機械は圧力の調整とか色々あり過ぎて、米が無いと何もできない。圧力計なんてものは無いからね。


 簡単に作れる小型の物もテストしていないから上手く行く保証はない。だからここは魔法の出番です。大量に白米を用意するには今はこれが一番。俺のお得意、結界魔法で囲った中で風魔法を使って玄米をぶつけ合って研磨して白米にする。


 それを見ていた結界好きのエマが食いついて来たが、「今度教える」で何とか逃げて作業を続け結構な量の白米が出来上がった。エマに今度教えるとは言ったけど結界魔法が出来ても風魔法が出来ないんだから無理なんだけど今それを言うのは可哀そうだから言わない。もしかしたらエマにも風魔法の適性があれば直ぐに覚えるかも知れないからそれを期待しよう。


「サラひとつお願いがあるんだけど、ちょっと海沿いまで行って、誰か見つけて魚介類を調達して来てくれない? あれば大量に欲しいんだけど。食べられるものなら何でも良いよ」


「良いですよ。でも誰かいますかね?」


 そうなんだよな。この村の殆どの人が出払っているからいるかどうか? ただ普段漁をしてる人には稲の刈り取りは不向きだから残っている人がいる可能性はある。


「いなければ仕方がないので戻って来て良いですよ」


「では、兎に角行ってみます。マーサさんとスーザンさん手伝ってください」


「それじゃフランクさんとロイスさん達はガルスの飼育場所に行って玉子を探してきてください。この村に残っていたおばあさんの話だとあっちの方で飼っているそうですから」


 しかし失敗したな、ガルスを預ける時に玉子の料理法を殆ど教えなかったから、唯一特別難しいことがない、ゆで卵と目玉焼きの作り方しか教えてないからそればかり食べていたそうだ。まぁ栄養価は高いからそれでも住民の健康の為には成っただろうが……。


 皆がそれぞれ食材の調達に行っている間に俺は大量の米を研いでご飯を炊く準備をしよう。この日の為にこれもあらかじめ陶器職人に作って貰っていた。大量の土鍋が役に立つ。勿論、味噌汁用にも大型の鉄鍋を用意してある。


 問題はこれだけの土鍋と鉄鍋を使う為のかまどがないことだ。鉄鍋の方は囲炉裏風に三角錐に柱を立てれば吊るせるが、土鍋にはやはり竈が欲しい。


「面倒だけど土魔法で作ってみるか? この辺りなら作りっぱなしにしておいても問題ないだろう。炊き出しなんかにも使えるからな」


 それから横に三連の竈を5個ほど作り、薪を入れて火をつけて竈に火入れをした。これをやって置けば耐久力も上がるからな。耐火煉瓦があるからそれで作っても良いが流石に三連窯を5個も作る量は持っていなかった。


 ユートピアもラロックや拠点同様の改造が必要だからレンガや耐火煉瓦の作り方も教えないといけないな……。国として機能出来る位の設備は整えないといけないけどさてどうするか? 拠点のメンバーを連れてくれば一気に進むのは分かっているけど、果たしてそれをしても良い物か?


 それに拠点のメンバーを連れてくるには、俺の家の事も教えないといけないし、飛行船など国から秘匿するように言われている物まで公開することに成る。このユートピアの地域は工業系の職人が極端に少ない。元々漁業と農業が中心で農業も砂糖の材料に成るサトウキビが中心だったから、食料に成る小麦などの生産は自分達が食べる分だけだった。


 しかし、これからは海と山が近いんだからこれを活かした国作りをするべき。海洋資源もあれば山には鉱物も眠っているはず、それどころか農業は元から有利な温暖な地域。三拍子そろっているんだから、十分国としてやっていける。


 ここで生産したものを海を使って隣国のフリージア王国に輸出しても良い。


 こんな事を考えながら竈に準備できた土鍋を一つづつ置いて行き、「はじめちょろちょろ中ぱっぱ」の呪文通りご飯を炊いて行った。


 そうこうしてるとフランク達が先に戻って来て、沢山の玉子を持って来てくれた。


「凄い量ですね」


「ここ二日刈り取りの為に住民が出掛けているから玉子の回収が出来ていなかったみたいだ」


 まぁ常温でも玉子は一週間以上もつから問題ないし、浄化魔法を掛ければ何も問題ない。この魔法もニックが見たら食いついて来た。今回もエマ同様「今度教える」で逃げたが、浄化魔法も使い方を誤ると必要な菌迄殺してしまうから医療で使うなら消毒の代わりぐらいにしかならない。


 俺のインベントリに入っていた野菜などや昆布などで味噌汁を作る準備をしていたら、サラ達が戻って来た。大量の魚介類と共に……。


「サラご苦労様、そんなに多く持ってきたという事は残っていた人がいたんだね」


「いいえ、いませんでしたよ。だから勝手に小舟を借りて網があったので自分達で獲って来ました」


 おいおい、それはおかしいだろう? 君達三人は女性だよ。確かにサラは島で船にも乗っているし、漁まがいの事をした経験はあるけど、残りの二人は隣国の王女に貴族だよ。賢者候補と見習いだから普通ではないけど流石に漁師の真似事をさせてはいかんでしょ。それどころか元から出来ないでしょ?


「もしかしてだけど、マーサさんとスーザンさんも一緒にやったの?」


「はい、面白かったですよ。お魚ってあぁやって捕まえるんですね」


「ユウマさん、サラ様って魚を捕まえるの上手なんですね。感心しました。貝なんて特に上手でしたよ」


 貝を獲る道具何て貸してないから、恐らく漁師が使う物を見つけて使ったんだろうな? もう無茶苦茶だよ……。こんなのお義父さんや国王に知られたら俺はいったい何を言われるやら? 絶対これは黙っていよう、後で残りのメンバーにも口止めしておかないと……。


「ユウマ、この匂いがご飯と言うやつか?」


「そうですよ、この土鍋の方がご飯で、この鉄鍋の方が味噌汁というスープです。今から皆さんに持ってきた貰ったものでおかずを作ります」


 さて集まった食材から作れるものは多いけど、出来るだけシンプルにいきますか。


 魚は塩焼き、貝はバター醤油、厚焼き玉子(卵焼き)で良いだろう。出来れば大根おろしも欲しい所だが、大根の手持ちがない。魔境でしか取れないんだよな。ご飯や醤油、味噌が普及していなかったから、大根を積極的に広めていないんだよ。帰ったら和食に合う野菜も広めないとな。ジャガイモでさえ広まっていなかった世界だから、結構色々色々ある。


 大量に用意したから結構な時間が掛かってしまい、出来上がったのはもう夜と言える時間だった。そんな時馬のひづめの音がすると思ったら、ロベルトとマックスが村に帰って来た? これ何故疑問系かというと、ロベルトはこのユートピアの代表だから今もこの村に住んでいるとは限らないからだ。


 この村は元領の外れにある村、領全体を管理しようとするなら領都にいる方が良いから今は引っ越している可能性があるからだ。ただ俺達にとってはこの村がユートピアの拠点の様なものだし、もし領都で料理なんかしたらとんでもないことに成るから、村に帰って来た。特に今は村に人がいないからね。


「ロベルトさん帰りは明日以降に成ると思っていましたが早かったですね」


「嫌、宗主様が来られているのに私がお傍にいないというのは申し訳なくて、マックスさんと早馬を仕立てて戻ってきました」


「戻ってきたという事はロベルトさんは今もこちらに住んでいるんですか?」


「はい、宗主様からお預かりしたガルスもおりますし、例の船の進捗も管理しないといけませんから、領都の方は副代表の二人に任せています」


 それで良いのかロベルト? それは普通逆だろう代表が領都で副代表がこちらの管理だろう……。こいつら本当に当初から気合がどこか違った方向に向ているんだよね。


「まぁ分かりました。丁度ご飯も炊けましたし、米というものがどれだけ良い物か味わってもらいましょう」


 ご飯は大量に作っているから、食べる分だけ残して後はインベントリに入れた。これでいつでも熱々のご飯が食べられる。


 器は用意してあるから、給食のように皆に並んでもらってご飯とみそ汁を配って、料理は大皿に盛って、テーブルの中央に並べた。


「では、頂きましょう」


「「頂きます!」」


 俺との付き合いが長い人はこの頂きますという言葉の謂れも知っているから、自然と皆一緒に唱和する。


「……、 美味い!」


 6年ぶりの米の味……。感無量だ。これぞ日本人のソールフード……。


「ユウマ、何故泣いている? 泣くほど美味いのか?」


 これはフランク達には分からんよな。感動のあまり自然と出る涙は本人すら気づかないのだから……。

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