第274話 マックス
「うめ~~、何だこれ? 米とはこんなに美味しいものだったのか~~」
「美味しいです。このもちもちとした食感。味がないようでほのかに甘い。焼き魚に合わせるとこれまた塩味との相性がいい」
「結婚式で食べた刺身も美味しかったですが、この違う魚の刺身も美味しいですね」
「この厚く焼いた玉子も美味しい。ユウマさん後で作り方教えてくださいね」
「この味噌汁はご飯と合うね。味噌汁は飲んだことあったけど、あの時ユウマさんがいまいちのようなことを言っていたのが良く分かります。味噌汁にはご飯ですね。パンじゃない」
思い思いがそれぞれの感想を述べてる中で、ただ一人沈黙というか、声が出せない程感動してそうに見える人物がいた。マックスだ。
このマックスという人物はどういう人なんだろう? 宮廷魔導士を辞めてまで亡命してくるなんて、どういう
俺がそんなことを考えてると、至ることろから「お替り!」という言葉次々と飛んできて、それ以上マックスの事を考える余裕がなくなった。それにしてもこいつら良く食うな。余るぐらい余裕をもって多めに作ったのに、味噌汁なんてもう殆ど残っていない。
味噌と醤油を公開してから、和食のようなおかずは教えているけどどうしても酒のつまみのように成っていたから、食べる機会が少なかったのも分かるし、味噌汁とパンは食べれないことはないれけど、相性が良いとは言えなかったからな……。
米の事をこれぐらいで驚いていてはまだまだなんだよ。日本酒、味醂、米を粉にして団子にせんべい……。小麦粉の代わりにだってなる。
お替り合戦も終わり皆がお腹をパンパンにした頃はもう夜も更けていて、移動の疲れと満腹感でみんな早めの就寝になった。
「ロベルトさん! ちょっと良いですか?」
皆がそれぞれ寝る為にテーブルから離れるタイミングで、俺はロベルトに声を掛けた。みんな一瞬行動を止めたが、そこは皆慣れた者何かあると察してくれてそのままその場を離れてくれた。
「何でしょう宗主様?」
「ん、ちょっとロベルトさんに聞きたいことがあってね。ゆっくり聞きたいからまぁ座ってよ。美味しいお酒もご馳走するからさ」
酒を飲ませれば口も軽くなるだろうし、本音が聞けると思って三年物のウイスキーをロベルトに振舞った。グランにバレてもいい訳の効きそうな三年物で我慢して貰ったけどね。
「ロベルトさん、ここが独立してからビーツ王国はどんな感じですか? 何か言って来ましたか?」
「いえ、今の所は何も言ってきていません。逆にこちらがそれを気にして隣の領の調査をしたくらいです。そしたら偶然宗主様が言っておられた、医者という人が来られていると聞いたので、直接会って何かあったら頼れと宗主様に言われたとお話ししました」
「その時俺の名前は出しましたよね?」
「はい、宗主様ではお分かりにならないようでしたので、お名前を出したら納得して頂けたようで、何時でも病気や怪我で困ったら、連絡するようにと言われました。それでも今のところは宗主様から頂いたポーションで事足りていますし、食事がまともに取れるように成ったので病気の者もいません」
以前の生活環境からしたら、雲泥の差だからね。病気に成る人も少ないだろう。それに手洗いうがいの習慣も教えたから、命に係わる病気以外は大丈夫でしょう。
「今回来ているメンバーには医者もいますから、明日にでも体調が悪い人や怪我が原因で手足が不自由な人がいたら来るように伝えてください。ここにいる間に出来るだけ治療しますから」
ここまでは良いとして、問題はマックスだ。さてどんな人物だろう?
「ところでマックスという人はどんな人ですか?」
「そうですね……。一言で言えば変わり者でしょうか? 兎に角元宮廷魔導士と言われても信じられないくらい、魔法ではなく肉体を動かす方が好きなような方ですね」
ビーツ王国の宮廷魔導士がどういう人達かは知らないが、少なくともエスペランス王国の魔導士たちは頭脳集団だったな。
「そんな宮廷魔導士がどうして亡命を?」
「なんでも先ほどお話しした医者の方と仲が宜しかったようで、こちらがお医者様と接触した後にマックス様にここの宗主はエスペランスと関係がある人で、自分の師匠だと話されたそうです」
あちゃ~、それは拙いぞ。俺とエスペランスとの関係は内緒だからな、知られるのは非常に拙い。
「あぁでもご心配には及びませんよ。お医者様は国から通達が来ていたようでマックスさんに口止めはしていたようですから」
カルロス、グッジョブ! それでもマックスに話すという事は余程仲が良いか、信用できる人物と判断したんだろうな。しかし、魔導士と医者とは妙な関係だな?
「ロベルトさんはその二人が出会った経緯とかは知っているのですか?」
「はい、私も気に成ったのでどのようにして知り合ったのか聞いてみました。そしたらマックスさんの奥様の病気を治したのが切っ掛けだと言われました。その後恩を感じていたのでちょくちょく奥様の手料理を持って行ったり、食事に招待しているうちに仲良くなり、自分の師匠は医術だけじゃなく魔法も凄いと聞いてエスペランスのラロックという場所に興味を持ったらしいです。そこで留学を申し出たけど身分の低さを理由にされて行けなかったと」
なるほどね。身分か……。各国から来ていた普通科や魔法科の生徒は皆貴族ばかりだった。宮廷魔導士の時も恐らく身分で虐げられていたんだろうな。エスペランスでさえ役人の中でも貴族と平民の格差はあったからな。今では逆転するぐらい平民の方が優秀で重用されている。
まぁ貴族が魔法の方に興味を持ちすぎて仕事を疎かにしたというのも理由の一つだが……。
「という事はここに来たのは俺に会うためという事ですか?」
「そうですね。ここにいればいつか宗主様に会えると思ってこられたみたいです」
「では、一緒に来られた人たちは?」
「それはマックスさんの家族や同僚とその家族ですね」
同じような立場の人達で示し合わせたという事だろうな。ここまで聞いた感じでは怪しい所はなさそうだな。後は本人と話せば見極められるだろう。
しかし、こうなると目的は魔法の事だろうから、ちと面倒だな。現状教えられるのは学校で教えていることぐらいだ。賢者候補や見習いレベルの魔法は教えられないしな。このままこのユートピアにずっと住むなら問題ないから、見習いの見習いという感じにしても良いのだけど、それにはレベルも上げないといけない。
どうするかな……?
しかし、魔導士のメンバーというのは好都合でもある。冒険者の属性持ちだけでも結構色々とやれたからな。ここに来た魔導士の属性がどんなものかで使い道はある。魔導士なら魔力は普通の人よりはあるから、錬金術を学ばせるのも都合が良いな。
「色々聞かせてくれてありがとう。後はまた明日、皆で話し合いましょう。これからのユートピアについて。あぁその酒は差し上げますから後は自由にしてください。自分で飲むもよし、副代表たちと飲むのも良しです」
ちょっと意地悪な方法だが、ロベルトという人の人間性を見るのに丁度良いから、このような言い方をして酒を渡した。忠誠心はあるがそれと人間性は別物だ。統治に向いているかはそういう所に出るからね。ガキ大将では駄目だし、おべんちゃらを使うような人でもダメ。分け与えらる人こそ統治に向いている。
翌朝、皆でおにぎりを作って朝食にした。滅多に料理なんてしない人が多かったので、わいわいがやがや、しながらも楽しい朝食に成った。
「今日は、皆さんにやって貰いたいことがあります。一つはこの村の見学です。そしてもう一つはその見学の結果どうすればこの村が発展できるかをそれぞれで考えてください。専門の分野に限定しても良いし、総合的にでも良いですよ。兎に角どうすればこの村が発展できるかを考えてください」
「それって俺達を試すという事か?」
へぇ~~ フランクはそこに気づいたか。そうこれはテストでもある。意見を後で求める為でもあるが、本当の目的はどれだけ成長したかを見る為です。色んな知識と技術を手に入れている今の自分ならこの村をどう出来るかを考えて欲しいのです。
この先賢者として色んな場面に遭遇するだろうし、助言を求められることも有るだろうから、それに対して最適な返答が出来るようにするためのテストです。
自分で考える。自分で行動する。独り立ちのテストですね……。
「まぁそれもありますが、自分ならどうするを基本に考えてください」
夕方またここに集合です。マックスさんとロベルトさんは俺と一緒です。
では解散!
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