第275話 帆船

「マックスさん、色々俺に聞きたいこともあると思いますが、今日は申し訳ないですが俺についてきてください」


「それは構いません。宗主様については色々ロベルトさんに聞いていますので、何でも勉強に成ると思っていますから」


 ロベルトよ、君はいったい何を話したんだい? 何だか相当美化というか誇張してるように感じるんだが……。俺はスーパーマンじゃないぞ。


「先ずはというか俺は是非見に行かないといけない所があるんですよ。ロベルトさん例の船の進捗状況はどうですか?」


「あれですね。あれは結構進んでいますよ。職人たちが面白がって殆ど休まずに作っていますから」


 休まずには困るけど、面白いというのは俺にも分かる。飛行船を作る時なんて没頭するぐらい集中して楽しかった。模型を作る段階から皆子供のようにはしゃいでいたからな……。


 今は沿岸を航行できる中型船を作っているがこれに成功し、船員の訓練が済めば遠洋航海も可能な大型船を造る予定だ。これで遠洋航海も出来るように成ったら別大陸へ。夢が膨らむな……。


 まぁその前に俺が飛行船で行くけどね。それに魔動エンジンも研究して、次世代の船も研究して行かないとね。当分は帆船で十分だから、それを有効活用できるように魔法を利用しようと思う。


 そんな事を思っていると、この田舎の村にはそぐわない、大きな建物が見えてきた。そのまま中に入ると……。


「おう~~! これは凄い! 物凄く大きな船ですね」


「いえいえ、これはまだ中ぐらいの船ですよ。いずれはこの倍の船を作るつもりですから」


「この倍ですか! だからこの建物が大きいのですね」


 良く分かったな。そこに直ぐ思考が行くという事はこのマックスという男かなり優秀だ。


「もう殆ど出来ていますね。これなら近いうちに試験航行も可能ですね」


 問題はやはりあれだろうな。目途は立っているんだがまだ実験が出来ていない。ここ最近他の事が忙しすぎて全然何も出来ていないんだよね。実験やりて~~


「あれ? あなたもここにいらしたんですね」


「サラは女性陣で集まって村を回っているんですね。それでどうです、何か思う所はありましたか?」


「まだ、そこまでこれというものは無いですね。ラロックの拠点を基本にするぐらいですか」


 拠点は小さな村には適している施設ばかりだからな。後は人材が揃うかどうかだ。あ! 丁度良かったここには優秀な錬金術師がいるじゃないか。是非やって貰おう、とてもいい勉強になる筈だ。


「視察の途中で悪いんだけどミランダさん、エマさん、ローズさんの三人にはやって貰いたいことがあるんだけど良いかな」


「この三人という事は錬金術関連ですね。それなら私達全員でも良いですか?」


「別に構いませんよ。でもかなり難しいし大変ですよ。大丈夫ですか?」


「難しいと言われれば余計に燃えますね。錬金術師魂が疼きます」


 錬金術師魂ってサラ貴方は違うでしょ。あれ? もしかして……。


「もしかしてサラ、君は錬金術が……」


「はい、発現しましたよ」


 かなり前から錬金術を発現させようとやっていたのは知っているが、いつの間に? 身内だから余計に鑑定などしないから全然気づかなかった。


 ん? 他の三人も何か言いたそうな顔をしているな。まさかだよね?


 なんということでしょう。スーザン、マーサ、ミレーヌの三人も錬金術が発現している。この三人は良く考えると発現していてもおかしくないのです。スーザンは賢者候補に成って相当経つし、医師の勉強もしていたから錬金術というかポーションは作っていたからな。マーサも魔法と錬金術に力を入れていたから当然だ。ただおかしくはないのだが商人のミレーヌまで発現していたとは驚きだ。


 自分の得意分野以外の知識を入れろとは指導していたし、賢者候補と組む時も見習いは違う分野の候補と組むようにはさせていた。ダブルスキルやトリプルスキルに成れるようにね。その効果がはっきりと出たという事ですね。こうも自分の想定が上手く行くと驚くより嬉しい方が大きいな……。


「それじゃ、ミランダさんがリーダーとなって今から言う物を皆さんで作ってみてください。作る物は船用の防水塗料です」


「防水塗料とは言葉の通りだと水を防ぐ塗料という事ですか?」


「そうです。船の場合長期間水に浸かっていますので、水が木材に浸透して腐りやすくなるんです。小型船ならまた作れば良いですが、中型や大型の船はそう簡単には作り直せません。ですから出来るだけ長持ちするように防水塗料が必要なんです」


「ユウマさんが大変で難しいと言っているという事はもう目途は立っているんですよね?」


 流石に鋭いなミランダは、俺の言葉の意味をちゃんと理解している。そう俺は材料まではもう目星がついている。ホームセンター時代の知識で直ぐに思いついたからね。


「材料まではもう決めているんですが、実験する時間が無かったので手を付けていないんです」


「材料は何です?」


松脂まつやにとスライムです。これが基本で後は実験次第ですね」


 前世のホームセンターにあった防水塗料の成分に松脂とシリコンの配合された物があったんです。松脂は柿渋同様防水効果はありますが、それだけでは船などには向きません。耐久性がないのです。それを補うのがシリコン。


 スライムは本当に万能素材で、硬さなど色々と変えられるものですし、素材的にもシリコンとも似ているから、可能性は大だと思っています。ただこの二種類だけで作れるわけではない。スライムの硬さを変化させるのに使う物もあるので塗料に最適なものが何か探す必要はある。


 この防水塗料が完成すれば、国中の木造の建物の耐久度が一気に上がる。塗料を調整できれば木工製品にすら使えるかもしれない。


「松脂ってあの松から出ている樹脂の事ですよね」


「そうですよ。その採取から始めなくてはいけませんし、スライムも捕獲しなくてはいけませんから結構大変です。だって最終的にはこの船に塗るんですから相当な量が必要ですからね」


 船一隻分と言えばとんでもない量です。だから難しくて大変なんです。


「あの~~、先ほどからスライムがどうのと言われていますが、スライムってあのスライムですよね? スライムがそんなに役に立つんですか?」


「そうか、この辺りまではまだその情報すら届いていないんですね。ロベルトさんスライムは万能素材と言われるぐらい色んな物に使えます。そういえばここはまだ黒パンでしたね」


「え! もしかして宗主様方に助けて頂いた時に食べさせていただいた、あの柔らかいパンにもスライムが使われているんですか?」


 スライムパウダーさえ伝わっていないとは……。まぁミル村もそうだったが、村に商店がある訳じゃないから商業ギルドとほとんど関係しないから、特許何て知りもしないだろうし、行商が持ってこない限り手にも入らない。国が動かないとスライム養殖なんてしないだろうから元々無理だな。


 特にこの国は縦長の国だから南部の外れじゃ情報も伝わらないよな。それにあの悲惨な状況じゃそれどころじゃなかったろうしな。南部と北部が仲が悪いというのもかなり影響しているか……。


 こう考えると特許を出してもそう簡単には広まらないんだな。今までは出せば広がると思っていたが、考えを改めないといけないな……。


 情報の伝達が遅いのと手段が少ないのも原因なんだろう。転移陣が見つかったからこれを秘匿すれば伝書クルンバ辺りは公表しても良いかな?


 嫌々、また自分が関わろうとしている。国に丸投げすると決めただろう。本当にこういう所は早く直さないと何時まで経っても引きこもれない。出かける引きこもりだから意味はおかしいけどな……?


「そうだエマさんにはもう一つ考えて欲しいことがあるんですよ。海にも大型の魔物がいますから、それから船を守る結界を考えて欲しいんです」


「それって結構難しいですよね。動力の風は通さなきゃいけないし、海水も通さないと船は進みませんから、条件が多いし範囲も大きい。燃えますね! 是非やらせてください」


 結界スキのエマならやると思ったが、何故かサラの目もギラついているのはちょっと怖い。この二人真珠の付与の件から妙に仲が良いんだよな。サラよ頼むからあの国宝級の奇跡の真珠の事は話すなよ。あんなのエマに話したらとんでもないことに成る。


 島に住み着くなんて言い出しかねないからな……。


 その思いは自ら後に壊すんだけどね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る