第276話 ユートピアのこれから

「いや~~、凄いですね。私は宮廷魔導士でしたが正直自分なんてまだまだの存在だったんだな~と痛感しています。こう言っては何ですが女性があれ程高度なことをすらすらと話すなんて考えられません」


 女性蔑視の考えが強い世界だったから、そう考えるのが普通だよな。まだ彼女たちの素性を知らないからこの程度だが、それを知ったらマックスはどんな反応をするんだろう?


 帆船の工房を後にして次はガルスの飼育場に向かったが、そこには男性陣が集まっていた。何やら真剣に議論をしているように見えるがいったいどんな議論をしているのやら……。玉子料理についてだったりしたら、拳骨をお見舞いしてやる。出来ないけどね皆俺より年上だから。


「フランクさん、何をそんなに議論してるんですか?」


「あぁユウマか、いやなこのガルスは数が増えていないらしいんだ。それは何故なのか、皆で考えていたんだ」


「そりゃ玉子を回収してるんですから増えないでしょ」


「それは分かっているんだ。でもな、全部を取り切れている訳でもないのに増えないんだよ」


 あぁ~~、そういう事か。サラとエリーは知っているけど卵には有精卵と無精卵があることをフランク達は知らないんだ。ここのガルスたちは居住範囲が限られているから無精卵しか生んでいない、だから増えない。他にも雄が少ないというのもある。


 こういったらなんだがガルスもエミュも雌雄はあるけど絶対的に雄が少ない。ハーレム状態なんだよね。本当に不思議なんだが群れの構成は必ずそうなっている。恐らく有精卵から生まれる雌雄の比率も絶対的に雌が多いという事だ。


「フランクさんそれには理由が二つあるんです」


「なんだそれは?」


「フランクさん先ずはガルスを沢山鑑定して来てください。それで一つ目の理由は分かりますよ」


 フランクも俺もそうだが鑑定を持っているのに使わないことが多い。鑑定の習熟度が低いうちは面白がって色々するのだが、ある程度まで行くと興味が薄れるというか、自分で調べたいと思わないとやらないんだよな。フランクは特に今、人物鑑定に力を入れているから余計に人物以外をしない……。


「な! なんだこれ、雄が殆どいないじゃないか!」


「分かりましたか? ガルスやミル村のエミュは雌雄はいても雄が極端に少ないんです。それが一つ目です。もう一つは何でしょうね?」


「う~~ん、雄が少ない……。あ! それなら卵も雄が少ないという事か?」


「そう思われるなら鑑定したら分かりますよね」


「あれ? この無精卵というのは何だ? 雌雄が出てこないぞ」


 そこまでフランクが確認できたので、魔物の生態について説明した。雌雄の事を中心に……。


 すると今度はニックが絡んで来た


「その話は本当ですか? 魔物に雌雄が無い物がいて両性具有的に雄でもあり雌でもあるというのは?」


「凄いでしょ。俺もこれに気づいた時は驚きました。本当ならもっと早く気づくべきでしたけどね。オックスの生態を見ればおかしいことに気づいたはずなんです」


「そうか! オックスに雌雄は無いですね。全部ミルクを出しますから」


「ニックさん、では海の魔物はどうでしょう?」


 これは俺も想像なんだがもしかすると海の魔物にも雌雄が無い物が居るかも知れない。そうするとそれが食用に出来る魔物なら魔魚の養殖も容易に出来る可能性があるという事。


「それってもしかして魔魚の養殖を考えられているんですか?」


「正解、まだ全く分かりませんが、もしオックスのような魔魚がいるなら、養殖が簡単でしょ。繁殖させる必要がないんですから」


「ユウマそれならミル村に言った時に教えてくれても良かったんじゃないか。ミル村ではこれからオックス、エミュ、ガルスと牧畜と養鶏業? をするんだぞ」


 エミュが養鶏業に入るかは微妙だけどフランクの言ってることは分かるが、そこが今回の問題でもある。


「フランクさん、それでは何故ガルスやその卵を鑑定しなかったんですか? エミュもそうです。もしやっていたらもっと前に色んなことに気づけていたはずです。そしたら今回このユートピアをどうするかにも気づけたはずです」


 持っている知識、持っているスキルを最大限に使わないなら持っているだけのもので価値がない。今までは俺が考えてそれを皆が実行する。これがパターンだったけど、これからは自分で考えて自分で動く、そうなって貰わないといけない。だから今回この村の事を自分達で考えて貰った。


 始めから何か見つけるとは期待はしていなかったんです。でもこれをやることで次につなげて欲しい。ミランダやエマが成長したように……。


「ユウマさん、それは私達も同じですよね。私は鍛冶師ですから鍛冶師なりに考えれば、ここは山が近いから鉱物がないか調べる。錬金術師のノリスさんならポーションの材料の薬草があるか、それは薬師のガーギルさんも同じ。気候が違うんですから植物も違う可能性がある」


「そうです。良く気がつきましたねゴランさん。元役人のロベルトさんなら国としての骨格を作るにはどうするか、ビーツ王国との外交をどうするか? 魔法士のローマンさんならティムの魔法をどうするか? 誰にどうやって教えるか? 皆さんも分かっているようにそれには魔力量がいるからそれをどうするか?」


 自分の持っているスキルだけじゃなく知識も全てが使えると認識して欲しい。


「今気づきましたけどロベルトさんは同名なんですね。役人のロベルトさんと此処の代表のロベルトさん。ロベルトという名前はそういう職に就く人の名前なんですかねアハハ……」


「そうなると俺とロイスは商人だから、商人として此処をどうするか考えれば良いのか?」


「それも一つですね。特産品を作るとか、出来た物をどう運び、何処に売るか? それには何が必要か? 考えることはいくらでもありますよ。そして何より大事なのが一人では出来ないという事です」


「フランクさん、これは村の中だけ見ていてはいけません。外も見てみないと何があるか分かりませんよ」


「その通りだな。資源や材料に成る物が何処にどれくらいあるかが分かればやりようはある。商売に成らなくても自給自足が出来れば他国に頼らなくて済むからな」


「旦那様これはゆっくり村の見物なんてしてる暇ありませんよ。急いで外に行ってこの辺り全体の調査をするべきです」


 最後にロイスが止めを刺して、男性陣のこれからの行動が決まり慌てて皆で外に繰り出して行った。


「凄い! 何なんですか宗主様のお仲間は……。物凄い知識と行動力ですね。宗主様がちょっと切っ掛けをあげるだけであれだけの意見が出て行動に移せる。私が見てきたビーツ王国の役人にも領主にもあんな人たちはいませんでした」


「一つ見落としていますよ。彼らの元の職業を思い出してみてください」


「あ! 今聞いた職業で貴族の可能性があるのは役人のロベルトさんと魔法士のローマンさんだけ、後は全て庶民の職業。貴族であることは可能性であって、もしかしたら全員庶民かも……?」


「そうですよ。知識があれば貴族も庶民もないんです。逆に先ほどあった女性陣のうち三人は貴族です。それだけじゃなく一人は王女です」


「「はぁ~~」」


 流石に王女という事には驚くよな。この世界の人からしたら王女とかの王族は雲の上の人。それが普通に錬金術のスキルを取得して研究をするなんて考えられない。魔法ならまだ分かる部分もあるが職業スキル何て絶対にありえない事。


「あの~、もしかしてですが今までの話から、物凄いことに気づいたんですが、皆さんもしかしてスキルを複数持っていますか?」


「はい、持っていますね。最低二つ、多い人は三つです。これからも増える可能性はありますね」


「もしかして私達もそう成れるという事でしょうか?」


「はい、成れますよ。簡単ではないですけどね」


「やぁ~、やはりそうなんですね。エスペランスに行けばスキルが一年で発現するというのは本当だったんだ。魔法もいくつも使えるように成るというのも本当ですか?」


「いくつもという意味が分かりませんが、俺の仲間は全員何らかの魔法は使えますね。何も使えない人はいません」


 俺がそこまで言うと、マックスは震えながら涙を流し、泣きだした……。






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