第277話 フランク大活躍

 マックスが泣き出したのには驚いたが、境遇を考えればそうなるのも無理はないかな。庶民という事で虐げられ、学びたいと思ってもそれも叶わなかった。それが勇気を出して亡命という道を選んだことで先が開けたことを実感したんだから、感情が抑えられなくてもしょうがない。


 それに釣られてロベルトまで泣き出したのにはこちらが戸惑ったけどね。まぁこの人も虐げられていた人だから無理もないんだが……。


 それから暫く二人が落ちつくまで待って、二人にもこの先ここをどうしたら良いか聞いてみた。俺達の視点とはまた違った意見が出るかも知れないからね。


 ただやはり二人は知識的に足りないから、展望的な事ですら意見が出てこない。どちらかというと現状に満足してしまっている。まぁマックスの方は学ぼうという意識は強いからそういう面では成長したいと思っているが、それを使って何をしたいかとか何が出来るという事まで行かない。


 魔法の可能性について学べば意識は変わるだろうが、今はまだ駄目なようだ。


 その後も村を回りながら色んな話をしたが、やはり二人ともラロックの事には興味があるようで、学校の事、病院の事、スキルの事などを目を輝かせながら聞いていた。ビーツ王国では未だに弟子制度が幅を利かせているので、スキル持ちが非常に少ない。エスペランス王国のように一度壊して作り直せば弟子制度も有効なものに成るのですが、エスペランスよりこのビーツ王国は貴族とギルドの癒着が酷いようで、情報があっても広まり難いし、広めようとしていない。


 例えば、改造馬車や改良ポーションは作るが高額にして以前のポーションや馬車を売ろうとする。エスペランスではこの逆なのです。改良ポーションが普通の値段で以前のポーションが安くなっている。大量に作られるまではエスペランスでも一時そうでしたが、学校の卒業生が増えるたびに安く成って行きました。


 スキル持ちが増えれば競争が起き、価格が安くなる。当然の結果ですがこれをさせていないのが多くの国の現状です。


「ユートピアに学校と病院を作れたらな……」


 思わず口から出た言葉ですが、横で聞いていた二人はそれに希望を見たようです。作りたいのは山々ですが簡単ではないんだよな。そんな事を考えていたら、村の外に行っていたフランク達が女性陣と共に帰って来た。


「ユウマ、大収穫だ!」


「お帰りなさい。えらく機嫌が良いですね」


「そりゃそうだ! ここは魔境に次ぐ、嫌、物によっては魔境以上に宝の宝庫だ」


 フランクの言う魔境以上というのは大げさだろうが、それなりに使えるものがあったという事だろうな。


「いったい何が宝なんですか?」


「見たら驚くぞ」


 そう言ったかと思ったら、フランクたちに貸しているマジックバッグからこれでもかという程、色んな物を出して来た。ぱっと見だけでも鉱物と植物が色々あるのは分かったが、その中でも一際目についたのが、どう見ても金の含まれている鉱石だった。


「ちょ、ちょっとそれは金ですか?」


「見れば分かるだろう。それに鑑定もしたから正真正銘の金だぞ!」


 何で金鉱脈なんて残ってるんだよ? たった半日で見つけられるような場所に金鉱脈があったら、普通国というか領主が見つけるだろう。それなのにどうして……?


「その金鉱脈は何処にあったんですか?」


「これか? これは……、どこだっけ? いろいろ回り過ぎて何処だか忘れた」


「旦那様、それを忘れたら意味ないですよ。鉱脈はガルスの生息地よりもっと南に行ったところです」


 そうすると、殆ど山脈の外れに近い所という事かな? 多分ロイスはわざとガルスの生息地と言ってると思うんだよね。トンネルの事はまだ秘密だから位置を説明するのに都合のいいガルスの生息地を使ったんだろう。だってトンネル付近なら俺が見落とすわけないからね。


「それは凄い発見ですね。ユートピアの財政が潤います」


「そうだろう、だけどなこれだけじゃないんだよ。他のも見てみろ!」


 そう言われればこちらも徹底的に調べようとちょっと意地に成ったので、鑑定EXをフル稼働して一つづつ確認して行った。


 何という事でしょう……。鑑定の結果は、


 鉱物 銀、銅、鉄、錫 石灰

 植物 コヒ(コーヒー) 利尿作用や強心などの効果

   カオ(カカオ)  疲労回復や滋養強壮に効果

   アマ(アマチャ) 非糖性の甘味剤

   スイ(スイカズラ)鎮痛、解熱、腫れ物

   ドク(ドクダミ) 利 尿、腫れ物、緩下剤、毛細血管強化、にきび

   グア(グアバ)  糖尿病

   ウコ(ウコン)  酸化防止、抗炎症、抗菌、健胃


 この他にも何十種類という薬草を見つけて来ていた。ポーションは改良されたが、薬草がこれだけ増えると通常の病気に使う薬が多く作れるようになるので、薬師にとっては宝の山です。それだけではなくポーションと薬草を掛け合わせるともっと面白い物が出来そうです。


 その他にも香辛料

 クミン、コリアンダー、フェネグリーク、カイエンペッパー、ブラックペッパー、カルダモン、ディル、クローブ……。そしてウコンとくれば何が出来るか? そう日本人の国民食カレー、その中でもここではカレーライスが作れるのです。


 コーヒーやカカオなんてこれはもう薬としてではなく、色んな使い道がある。フランクの鑑定ではここまで出ないでしょうが、俺の場合前世の名前でも分かるから形状が少し違っても同じものだと分かる。


 そして女性陣は山の麓でゴム、山の中腹で松脂を持ち帰っていた。


「ユウマどうだ凄いだろう。 サラ様たちが松脂を見つけられなかったから俺が見つけたんだぞ」


 確かにこれは凄い収穫です。米もそうでしたがカレーやコーヒー、チョコレートまで食べられるように成るなんて夢のようです。金の発見より俺はこちらの方が嬉しいぐらいだ。


「凄いですね! これはこのユートピアが物凄く発展できる材料に成ります」


「そうだろう、そうだろう。俺の鑑定が大活躍したからな」


 確かにこういう時鑑定持ちがいると凄く役に立つが、今までどうして誰も鑑定しなかったんだろう? 鑑定持ちは確かに多くはないが商人なら持っている人はいる。それなのに……。


「ロベルトさん、この村や近辺に鑑定のスキルを持った人はいなかったんですか?」


「いませんね、私の知っている限りではですが。それに南部には持っている人は少ないと思いますよ」


 何故だ? 何故南部にはいない? 学者系の人はいなくても商人はいるだろう? あ! そうか! このビーツ王国の南部は砂糖に特化していたから商人の見識が広がらなかったんだな。ただ物を見るだけでは鑑定のスキルは発現しない。見て、調べて、覚えるを繰り返さないと発現しない。


 多くの人が、この中の調べるの部分をしないから発現しないのに、俺の周りに二人もいる方が稀なのかもしれないな。グランとフランクは俺から見ても好奇心が旺盛で、商人に関係が無い物まで勉強してるからな。それにグラン商会が雑貨屋、何でも屋だったというのもあるだろう。兎に角何でも扱っていたからな……。


 しかし、これだけの物が見つかっても結局はそれを使える人がいなければ意味がない。まぁ輸出すれば商売にはなるでしょうが、自分の所で加工出来れば町自体に影響が多く出る。それには絶対に必要なものがある、そうスキルだ。だがこのユートピアにはそのスキル持ちが少ないのだ。


 砂糖を作れば絶対儲かるから、他の物は買えば良いという発想に成るので、他の物を作る人が殆どいない、売る人はいてもね。普通の町なら作って売るが常識ですが、ここ南部では仕入れて売るが常識だった。


 これは前世でもあった事です。発展途上国というのは多くが資源はあるけど自国で加工しない。資源があって加工してる国は先進国に成りやすいし、強い国に成る。日本のように資源が無くても加工に特化しても先進国に成るが、ただ作るだけではなく進歩させて初めてその位置につける。


 全世界に売れるものがあったのにあまりにそれに特化し過ぎたことで、逆に南部は儲けた金をはき出してしまったから、庶民は裕福に成れなかった。


 これ完全な悪循環だな。前世のプランテーション農業の構造に成っていたから領主だけが儲かるだけだったんだ。その上領主が搾取すればあの状態になるはな……。


 こうなると余計にこのユートピアに不足している物がハッキリ見えてくる。そう人材です。特にスキル持ちという人材が絶対不可欠。


 そうなると学校か……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る