第107話 外科手術
「只今より世界初の外科手術を行います」
手術前、勿論、ひと悶着ありましたよ。
患者の病名やこれから行う事を説明した時にね。
「はぁ~何言ってるんだ、患者の腹を切る?」
「そんな病気聞いたことも無い」
それはもう全員からとんでもなく非難されましたね。でも初めの挨拶の時に言ったように、質問は受けるが反論はさせないともう一度くぎを刺しましたが、それでもいう事を聞かない様でしたので。
「嫌なら帰って頂いて結構です。患者を置いて帰ってください」
此処まで言われると薬師達も考えた。もしこのまま患者を置いて帰って患者が完治したら、それは国からの要請を無視し、患者を見捨てたと言う事に成る。
このまま終わりのない問答をしてるのは時間の無駄なので、手術室に入る時の準備や注意点だけ、黙々と伝えて俺は手術を開始することにした。
ユウマ達の行動に薬師達は考える余裕がなくなってしまった。目の前では着々と手術の準備が進み、このままではどっちつかずの状態になってしまう。
「おい! どうする?」
「どうすると言われても、俺だって分からんよ?」
薬師達が煮え切らない状態だったので、ニックがここで動いた。
「皆さん! まだ信用出来ませんか? 良く思い出してください。結核の薬のレシピは皆さんもご存知でしょ。あの薬に使われているものは元は雑草と毒茸ですよ」
ニックにそう言われて薬師達はハッとした。確かに本来薬にならない物が未知の病気の特効薬だったのだ。
毒が薬に成るなんていう事は誰も思いつかなかった。それを導き出した薬師の弟子。
「そうだな、俺たちは此処に何をしに来たんだ。医者という未知の職業に成るために来たんだよな」
ユウマはこの時思っていた。失敗したな……よく考えたら領主のビクターやニックを協力者に引き込む時には必ず、拠点の見学をさせたり、見たことも無い物を見せて、興味や関心を持たせてから次に進んでいたのに、今回は殆ど何もしていない。
全くしていない訳では無いがインパクトを与えたのが薬師達には関係のない物ばかりだったから、興味や関心が沸かなかったんだろう。
ニックの行動のおかげで何とか薬師達の心は少し開いたが、見学と言う所までは行かなかったので、今回はニックと俺の二人だけで手術をすることにした。
世界初の外科手術の開始の宣言の後
「ニックさんでは始めます」
「えぇよろしくお願いします」
この患者は胃癌から横行結腸、すい臓、脾臓などに転移していて本来生きてる事が不思議なくらいだった。
これもポーションという前世ではありえない物が存在してるからなんです。気づいた時に中級や上級のポーションを飲んだおかげで、完治までは行かなかったが症状が改善したのです。
ですがこれがまた逆の意味で良くなかったのも事実、一度症状が良くなったから、再度症状が出ても直ぐにポーションを飲まなかったから、今度は上級ポーションでも効果が出ない所まで病気が進行してしまった。
この患者に改良型上級ポーションを飲ませるのも一つの治療方法なんですが、確実性を考えるなら外科手術で開腹後、患部に直接かけた方が効果がより高くなる。
ポーションって正常でない場所を元に戻す働きですから、ガン以外にもおかしい所があればそこにも効力が持って行かれますから、飲むより直接かける方が効果が高くなる。
怪我の時は両方の方が良い、患部に掛けることと飲むことを併用した方が感染症などの心配も減る。
減るだけで絶対ではない、菌が少ないうちなら体の抵抗力で治るだけで、少しでも残れば感染症に成り現在の薬では治せなくなる。
開腹は素早くしないと輸血が出来る訳でもないので、躊躇しないで一気に行う。
「こりゃ酷いな、ニックさんこれ解ります?」
「この色が違う所の事ですか?」
「そうです、普通の癌ならここまで変色したりしません。見た目では判断できない事の方が多いでしょう」
本当に良く生きてたな、そんな事を考えていてもしょうがないので、ここでもう一つの俺流の外科手術を行う。
普通の外科手術ならこのまま腹の中にポーションを振りかけるか、一度ポーションで満たしてしまえば良いと思うのだが、今回はもっと効果を良くするために、色の変色してる部分を切除してからポーションを掛けることにする。
怪我をした時にポーションを使うとどうなるかを考えれば当然この方法も思いつく。
火傷だろうが皮膚をえぐられようが、完全に元通りに成るんですから、内臓を切り取っても同じ事が出来る訳ですよ。
ただ短時間でやらなければいけない事でもあります。
この方法を取るのにはもう一つ理由があります。ガンという病気がどのような物か薬師達に見せる必要があるからです。
患部を切り取ったら直ぐにポーションを掛けるの繰り返しで、あらかじめ俺が把握してる癌に侵されている部分は全て切除できたので、念のため腹腔内をポーションで満たして、10分ほど放置した後お手製の吸引機で粗方吸い取って、開腹器具を外して最後に切開場所にもポーションを掛けて手術終了。
開腹器具が無ければポーションを患部に掛けた段階で腹が閉まってしまうのでこれを考案しました。
手術の手順を何度もシミュレーションと実験をしてる時にこれに気づいて急きょ作ったのです。
申し訳ないけどこれも人知れず森でゴブリンを捕まえて実験した時に気づいたんです。それがもう物凄い臭いでしたよ、内臓の手術の実験ですから、別にゴブリンで無ければいけない事でも無かったのですが、一応人型ですから内臓の位置が人間に近いので、ゴブリンを選択しました。
オークも人型ですが、何分大きすぎて参考にし難かったので今回はパスしました。
今回ゴブリンを何匹も解剖実験したんですが、罪悪感の一かけらも起きませんでしたね。
俺もこの世界に完全に馴染んだんでしょうかね? ただこの時この世界の不思議にも気づいたんですよ。
この世界にはスタンピードは起きないじゃないですか、よくある異世界あるあるでは、ゴブリンやオークの上位種が生まれて大きな集落をつくるというのが定番ですが、この世界には上位種は存在しないんですよ。
ただレベルが違うだけ、強さは変わりますが知能は上がらないみたいです。
知能が上がらないから統率力なんて生まれませんから、必然的に集落を作らないんです。だからスタンピードも起きない。
もう一つのスタンピードの原因である強力な魔物の存在によって押し出されるというのがありますが、これも良く出来ていて、魔力が薄い所では当然魔物も力が出ない訳です。
ですから魔力の弱い方向には移動しないんですよ。逆に魔力の強い方に移動すれば当然そこに元からいる強者に駆逐されるので、スタンピードが起きない。
本当に良く出来ています。
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