第108話 医学部授業開始

 手術は無事に終わり、ニックとハーブティーを飲みながらホッとしていると、そこに手術前とは全く違った表情の薬師達がやって来た。


「ユウマ先生、是非私に手術の仕方をご教授願いたい」


「私にも是非」


 おいおい! 先生? ちょっと待ってくれよ、確かに俺が教える立場だけど、先生は勘弁してもらいたいな、学校でも先生呼びはさせていないんだよ。


「はいはい、解りましたから、でもその先生は止めてもらえませんか」


「ユウマさん、私もこれからは先生と呼ぶことにしますよ」


 ちょっとまて~~ ニックまでそれは無いだろう、この人悪のりしてるよね絶対。


 俺何かニックにしたっけ? 特別ニックにこのような扱いを受けることはしていないよね?


「ユウマ先生、これからはこの呼ばれ方に慣れた方が良いと思いますよ、医学部の教師ですから」


 確かに此処にいる薬師達はベテランと言っても良いくらいの人達だから、逆に俺みたいな若造に教えを乞う事への抵抗感を無くす為にも先生呼びした方が気が楽なのかも?


 でもな~ 呼ばれるたびに背中がかゆいんだよね。


 前世で38年生きてきたけど先生なんて呼ばれたことも無いし、呼ばれるような事した記憶も無いからな。


 唯一呼ばれたのが役職名の主任だったから、尊敬の念何て全く無い物だった。


 あ~~ もう! 先生呼びはこの際諦めることにしよう、こんな事でいつまでも問答していてもしょうがないからね。


「では、今から一回目の授業を開始します」


 今回は手術の内容について教えたり、癌の実物を見せたりした後に質問を受ける形式で授業をした。


 その後、この先の授業の進め方について説明して第一回目の授業は無事に終了した。


 無事にか? そうかな? 何にか違う様な?


 この先の授業の進め方は、午前中は座学として細菌やウイルスの事や医学で必要な人体の構造、病気の種類、薬の知識等々多岐にわたって教えて行く。


 午後は患者の治療をしながら実習という形式。


 マジでこれ短期間で終わるかな? 俺みたいな素人が知ってる知識ですら、この世界の人には殆どが未知の領域なんだよね。


 知識を教えるには、良く考えると今学校で教えている事も必要になるんだよね。


 ニックはそれなりに俺との付き合いもあるから、他の薬師とは比べられないくらい知識があるから、1年もあれば医者を名乗れるようになると思うけど、この薬師達は短期間なんだよね?


 あれ? そう言えばこの薬師達の研修期間を聞いていたっけ?


 はい、全く確認していませんでした。


 薬師達も全く考えていなかったようです。まさか此処まで未知の事を学ぶとは思っていなかったようなので、本格的に医者を目指すなら、現状短期間というのはあり得ないとは思っていたみたいだ。


 急きょ、薬師達は王都や王宮に連絡を入れて、最低でも1年は研修期間が必要だと報告した。


 そこからがまた大変なことに成ってしまった。薬師達が初日にあった手術の事を報告したからだ。これが王宮や王都の薬師の間で広まり、賛否に分かれて大論争にまで発展しているらしい。


 まぁそうだよね、薬師達の初めの反応がそうだったのだから、ただ薬師達は目の前で手術を見てるから、考えが変わっただけ、手紙に書かれただけの事なんて普通は信用出来ない。


 王都の事はどうすることも出来ないので無視することにして、薬師達が無事、1年間の研修を受けれることに成ったから、まず初めに学校で今教えている事を中心に教えて行く。


 卒業生が医者を目指して研修に来るまでは、患者の治療が主に成るだろう。


 まず初めに現状この病院にいる患者の病名を全員に把握して貰う。


 その病名が本当に様々、何で此処まで酷くなったのか不明の物もある。


「脳梗塞」「咽頭炎」「甲状腺腫瘍」「狭心症」「心筋梗塞」「胃潰瘍」

「肝硬変」「胆のう結石」「感染性胃腸炎」……


 咽頭炎なんて何でと思うよね。初期症状の時にポーション飲めば一発で治る物なんですよ、それが声が出せない程まで酷くなっている。


 他にも骨が曲がったままの人などもそうです。骨折した時にちゃんとまっすぐに伸ばしてからポーションで治療すればよかった事なんですが、それをしなかった。


 これがこの世界の弊害なんですよ。薬師の所に行くのは病気の時です。そして喉の痛みで行くわけですから、痛み止めを処方されるわけです。ですが本来は炎症止めが必要なのに、対症療法しかしていない。


 もしくはさっき言ったように、咽頭炎はポーションで治った事なのに薬師はポーションを使わない。(初級では効かないけど)


 炎症というのは物理的刺激(火傷や凍傷など)、ウイルスなどの微生物の感染に対して起こす生体の防御反応の一つ、化学的な刺激(薬品接触など)


 ポーションを使うかどうかは基本自己判断、錬金術師は作るだけが仕事ですから関与しない。


 教会も自分達の魔法以外は使いませんし、法外なお金を請求するので、中々喉の痛みぐらいでは行かない。


 医薬分業ならぬ、医療分業に成っているから弊害が出ている。


 俺がこの世界の医者に求めているのは病気と怪我の両方に対応できること。


 しかしマジ大変そうだな、炎症は怪我と同じだけど、ウイルス性だと病気でもあるんだよね、この違いをどう教えるか?


 例えば「肝炎」と「ウイルス性肝炎」この世界ではこの違いは判別できない。


 魔力感知の応用で患部を見つけることは出来ても、肝炎の原因が何なのかは判別できない。


 炎症だからどちらもポーションで対応できるだろうが、肝炎なら中級、ウイルス性なら上級でも効くかどうか?


 そうなるとウイルスに効く薬とポーションの併用に成るか、手術で直接患部にポーションか癌同様、一部切除してのポーション……


 知識のある俺だからこのように色々考えられるけど、これを薬師に教えるのはかなり厳しいな。


 此処で嘆いてもしょうがないね。兎に角、俺の知ってる限りの知識を叩きこむしかない。


 鑑定EXを駆使して……








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