第109話 国際問題

 俺が病院関係で奔走している頃、王宮では砂糖の輸入問題が、かなり厳しい事に成っていた。


「王よ、ビーツ王国がどうしても納得しないのですが、どういたしましょう?」


 交渉役のカルロスが困り果てて王に泣きついた。


 このビーツ王国というのが砂糖の輸入をしてる国。


 ビーツ王国の要求はこれからも砂糖の輸入量を減らさない。それが出来ないなら、塩の輸出を減らすというもの。


 しかし、エスぺランス王国としてもローム糖の生産が増えれば必要のない物は輸入したくない。


 それに塩の問題も今すぐに困る事ではない、現状は岩塩がまだ採れているから、現状の塩の輸入量もさほど多くはない。


 ただ、この先岩塩が採れなくなった時の為に、ビーツ王国とは良好な関係でいたい事は確かなので舵取りが難しい。


 確かに最近はこちらからの輸出が増えているから、向こうとしても面白くないのは分かるが、今まではこちらから輸出するものは殆どなかったのだから、理不尽な要求でもある。


 そう、紙や鉛筆、スライムクッションなど、俺が作った物が輸出されている。勿論、ガラスや色鮮やかな陶器も。


 正直塩の問題さえなければ、輸入を全て止めても問題無いのだけど、こちらが譲歩してるのに、聞く耳を持たないようだ。


 俺がこの事を知っていれば、岩塩の採掘をどうにかすることを考えたかもしれないが、現状は知らないから何もできない。


「どうしたもんかのう? 塩の問題さえ何とか出来れば……」


「王よ、どうにか出来るかは解りませんが、このところ色々と作っているゾイド辺境伯の所に相談してみては? 元はと言えばあそこが元凶ですから」


 これはカルロスの意趣返しでもありますね、散々国が翻弄されていますから、一つぐらい悩めと言う事でしょう。


 結果としてこのおかげで、この国際問題が俺の耳に入る事に成るので、このカルロスの判断は間違っていない。


 このビーツ王国というのは縦に長い国で、前世で言うとチリのような国で南の方に行くと熱帯に近い気候なのでサトウキビの様な植物が豊富に栽培できるし、海岸沿いに長いので塩も豊富に採れる。


 一方、この国エスぺランス王国は内陸に位置していて、気候的には前世日本の西日本に近い、もっといえば豪雪地域がない日本という感じですかね。


 後日、この事が俺に伝わった時、俺は岩塩の採掘を一番に考えましたが、それをしなくても良い方法を思いつきました。前世の知識で……


 ホームセンター時代に当然肥料などの研修も受けていましたから、ビーツ王国の立地を考えると、当然塩害に苦労してるだろうと予測できたので、石膏による土壌改良を提案すれば、ビーツ王国の農業改革が出来ると。


 石膏は比較的どこでも採掘できますので、縦長のビーツ王国ならどこかで必ず採掘できるでしょうから、現物を送って探してもらう事を提案した。


 さらに海沿いのビーツ王国なら大量の貝殻がタダで手に入るでしょうから、それを塩の代わりに輸入すると言う事を提案しました。


 塩を作るより手間が掛からない貝殻の輸出ですから、ビーツ王国にとって損は無いはずですから、譲歩は出来るんじゃないかと?


 この貝殻は使い道が多くあります。当然肥料にも使えますし、たたきの材料にも使えます。


 根本的な解決にはならないでしょうが、これで交渉も出来るし、交渉が成立すれば、次の対策が取れるまでの時間稼ぎにはなるでしょう。


 俺からの提案はすぐさまビクターを通じて王宮にもたらされましたが、こんな解決方法があるのかと王やカルロスをはじめ王宮の役人も驚愕した。


 実際にこの提案通りにビーツ王国と交渉したら、あっさり交渉はまとまり、これまでの苦労はなんだったのだろうかと一同呆然となった。


 俺は他にも色々と考えてはいたけど、これが一番平和裏に解決できる方法だと提案したのです。


 他に考えていたことのひとつが、錆びない金属の輸出か製造方法の提供、これはもし戦争に成った時に敵に塩を送る事に成るので、交渉材料から排除した。


 いずれは色んなことが世界に広まるでしょうが、その発信地であるこの国が良い意味で強くなっていないうちは技術の流失は出来るだけ避けたいので、今回はこの方法をとった。


 ビーツ王国は儲けたと思ているだろうが、貝殻は非常にこの国とって役に立つ、スライム肥料はとても良いものだが、どうしても土が弱くなるので、ミネラルの補充が出来る貝殻は内陸のこの国とって必要な物。


 これでまたこの国の農業事情は良くなって、飢餓で苦しむ人は居なくなる。


「王よ、あそこはどうなっているんですかね? 少しは悩むかと思えば即座に回答してきて、問題をあっさり解決してしまいました」


「そうよの…… 本当にどうなっているのか? いっそのこと問題事は全部ゾイドの所にまるなげするか?」


 そんな会話が王宮で交わされていた時、ラロックの病院では本格的に医者の育成に動き出していた。


 学校の卒業生からは半分でも応募があれば良いと思っていたら、何とほぼ全員が応募してきた。


 数人は地元に薬師が居ないので直ぐに村に帰って開業したいと言う事で応募してこなかった。


 それでも薬師がこの先増えたら絶対に医者を目指すと宣言していった。


 初めての手術の後も症状によっては手術も行われた。今は患者の治療が優先だから、詳しい説明はあまりしないが、薬師達にとってはどんな治療法があるのかを知るだけでも、良い勉強に成っている。


 そんな中、骨が曲がっていた患者の足を切開してもう一度折ると言った時は流石に薬師達が驚愕していた。


 でも手術が終わった時にはこんな方法がと全員が感心し、俺を見る目がまた変わった。


 前世ならこの手術も大変なんでしょうが、この世界では比較的に簡単にできる。


 だってポーションがあるから、ボルトで止める必要も無いんです、変形してる部分を折って、おかしい部分を削り、後はポーションで接合するだけ。


 手術後は完全に治っていますから、足を使わなかった時におちた筋力を取り戻すだけ、遅れている世界ですが、知識さえあれば前世よりも凄く進む可能性が大いにあります。


 まぁそういう世界には、その世界なりの未知の物が生まれる可能性もありますが……












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