第332話 役人試験
サラにお城を見せて漸く一つの課題を終えることが出来たが、まだまだ建国の為の課題は多い。その一つが今日行われる役人登用試験だ。
登用試験の内容は以前から決めている、この国をどうしたいか? と自分には何が出来るか? 勿論、この課題の片方だけ答えても良い。特技が無いからと落とすようなことはしない。
俺が一番重要視しているのは国の為に尽くせる人かどうかだけ。前世の地方公務員の面接試験のようなもですね。この世界で基礎学力何て求めても無理な話ですから、郷土愛がどのくらいかが重要なのです。
だってこの国は人口2万人ですよ。前世なら町クラスです。ですから、郷土の事を良く知っている人材が欲しい。此処の良い所、悪い所も知っている人の方が、継続すべき事、変更すべきところが良く分かる。
「ロベルト、役人登用試験には何人ぐらい集まったの?」
「陛下、全部で100人程です」
ロベルト達は建国祭の通達を終えて、もう戻って来ている。今俺の手伝いが出来るのはこの三人しかいないから急いでお戻ってきたようだ。
「100人! 結構集まったね。やる気のある人がそんなにいるという事はこの国にとって大変良い事だ」
「役人より兵士が少ないのも問題です。もし宜しければ、試験に落ちてもやる気があるようなら兵士に勧誘しても宜しいでしょうか?」
おぅ~~、それは良い案だ。この国の規模なら本来50人兵士がいれば十分だが、この国は規模の割に鉱物資源や色々なものが多くあるので、治安の維持なども考えれば、100人いても良いぐらいだ。でも役人の募集だから兵士に向いている若い人ばかりではないだろうからその辺がどうなるか?
「勿論!、後50人ぐらいは欲しいからね。ただ年齢も様々だろうから、無理には誘わないように」
「はい、その辺は心得ております」
「それじゃ、試験を始めようか。一人づつ面接をしてたら時間が掛かり過ぎるから、一度に5人づつやろうか」
「はい、ではそのように」
「陛下の前に進んで、一人づつ自己紹介をするように」
「はい」「おう」「はいな」「は~~い」……。
面接試験が始まって、最初のグループから物凄く個性的な人ばかりのようだ。返事からして個性が出ている。女性2人に男性3人の受験者、さてどんな答えをしてくれるか楽しみだな。
「自己紹介ありがとう。私がこの国の王に成った、ユウマ・コンドール・ユートピアだ。それでは試験を始める」
始めの予定では読み書きが出来る人には筆記試験として小論文を書いてもらい。出来ない人には口頭でと思っていたが、結局どちらも問題は同じなので、面接により口頭での回答に統一した。
「問題はこの国をどうしたいか? どうすれば良くなるか? その中にこれが問題だからこうしたいという事も含めて答えてくれ。考える時間は10分。時間が来たら指名するので答えを言うように」
「では、はじめ!」
いったいどんな答えが返ってくるだろう。基礎学力がないんだから、高度な回答は期待していないが、その中でも光る人材はいるだろうか?
「終了!」
「よし!、では右の人から順番に答えて」
始めに指名すると言ったのはブラフ。そうしないと中には人の答えから適当に自分の答えを作る人もいるからね。まぁこれでも後から答える人は前の人の答えを参考に出来るから有利だけどね。しかし、それをマイナスには捉えない。急遽人の答えを参考に出来る能力があるならそれも立派な能力だから。
「は~い、私はちゃんとした道が必要だと思います。それと陛下が使っているような馬車も。そうすれば物が運びやすくなるし、人も簡単に移動できます」
「次」
「はい、この国には商売人が必要です。今までは物を買って売る商売人しかいませんでしたが、これからは作って売る商売人が必要です」
「次」
「おう、この国はもっと漁業に力を入れるべきだ。農業だけでは食い物が偏る」
「次」
「はいな……」
「次」
「はい、……」
何だ? この優秀さは? 言葉遣いや言い方は個性的だったり、大雑把な言い方だが、言ってることは全て的を得ている。後半の二人は答えが似ていたが、それでも自分の意見も入れていたから、考えたことが似ていただけだろう。
その後も同じように試験を行ったが、意外や意外、思ったより優秀な人ばかりでびっくりした。勿論、こうしたい、こうしてくれと言うよなことばかりで、具体的にどうすると答えた人は少なかったが、この国の悪い所はちゃんと理解しているし、それを改善したらこの国はどうなるという事も理解している。
これは困ったな……。この時点で不合格と言える人が10人位しかいない。その10人も郷土愛はあるから無下にはしたくない。ここは長い間抑圧されて来ていた人の集まりなのに、どうしてこんなに自分の意見を持っているんだろう?
抑圧されれば、普通は自分の意思なんて持たなくなるし、従うのが当たり前になって、物事を自分で考えなくなる。それなのに……。
「ロベルト、どういうこと? みんな優秀で選びきれないよ」
「あの程度なら、ゴロゴロいると思いますが、陛下にはそう見えませんでしたか」
ちょっと待て、ゴロゴロいる? これって抑圧されてきたのがやっぱり原因なのかな? ラロックの住民にこんな人たちは居なかったぞ。村をどうしようとか考えている人なんて一人もいなかった。毎日が平凡に暮らせれば良いと言う人達ばかりだった。
「良し決めた! 全員合格にする」
「へ、陛下それはあまりに無謀です! 今のこの国に100人も役人は必要ありません。ご再考を!」
「いいや、これ程の人材をこのまま捨てるにはおしい。だが全員を今すぐ役人にする訳ではない。先ずは読み書き計算が出来るものが優先だ。それ以外の人は先ずは学校に入って貰う。それが終わった段階で役人として採用する」
「それでも恐らく70人前後はいます。そんなに必要ないのでは?」
「それが必要に成るんだよ。1年後にはな」
1年後にユートピアには約12万人の異種族が移住してくるから、国としては役人はもっといてもいいぐらいだ。移住先がこのユートピア本国でなくてもね。
「1年後に何があるんです?」
「君達にはまだ言っていなかったが、世界中の異種族がエスペランスと我が国に移住してくる。その数約12万」
「じゅ、12万……、そんなに多くの人をこの国では引き受けられません」
「それは当然だ。ミル村の土地を合せてもそんなに土地がないからな。だがそれについては心配しなくても良い。飛び地にはなるがあてはある」
今の所候補は三つ。パラダイス島、ミル村側の土地の一部と森、最後が魔境の俺の家付近。最終手段として他大陸というのもあるが、これは人が住んでいない事が確認出来たらの話。
「陛下にあてがあるなら我々は問題ないです。それにしても12万、凄い数ですね」
「そうだな。ただ皆に分かって貰わないといけないのは、この国が世界でも初の異種族が共存する国に成るという事だ。それも当分は人族が一番少ないという稀な国。だからこそ役人や兵士は必要なんだ。移住組からも役人や兵士は出してもらうから、人族も100人位いないと釣り合いが取れない」
異種族混成国家だから、今まで以上に国の舵取りは難しいだろうが、当分は俺を中心にすれば何とかなる。どちらも俺を慕っているからね。
「それとそれに関連して、先発組として200人位異種族が移住してくるから、その受け入れ準備も必要になる。その移住組の意見も法律作成には反映してくれ」
今まで自治権はあったが、それでも人族の国の法律には従って来ていたから、特別大きな問題は無いとは思うが、折角異種族混成国家出来るんだから、法律にも異種族の考えを入れるべきだ。そうしてこそ、皆が平等に法に守られ、罰せられる。
「その200人は何処に住まわせるんですか?」
「それは種族特性があるから、三か所に分ける予定だ。エルフはミル村側の森、ドワーフは山脈、獣人はエデン側の森」
「成る程、それは良い考えですね」
200人位ならこんなに簡単なんだが、12万人は本当によく考えないと大変なことに成る……。
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