第331話 サプライズ失敗?
法律作りが始まると同時に、建国祭に向けてロベルト達はまた、エデンを後にして、各町や村を訪問しに向かった。
もう無理かな……。建国祭まで城を隠すのは無理なようだし、この際お披露目してしまうか。サラにサプライズ出来れば良いんだから、建国祭まで待つ必要ないか。これからも当分忙しいんだから、早めに片づけられることはやっておこう。サプライズを失敗するより良い。
「サラ、今日少し時間取れる?」
「大丈夫ですよ。どうかしました?」
「いや、久しぶりに二人で散歩でもどうかなと思って」
「散歩ですか? あなたがそんな事言うなんて雪でも降りそうですね」
流石にそれは酷いんじゃない。ここはラロックじゃないんだから、絶対に雪は降らない場所だからね。最近のサラは俺に対する言葉が辛らつ過ぎる。妊婦だからなのか?
まぁそれは気にしてもしょうがない。俺が心を広く持って上手く躱せば良い事だ。
「雪は降らないけど、雨は降るかもね」
「そんな天気じゃないですよ」
おいおい、君が雪が降ると言ったんじゃないか。雪が降るなら雨ぐらい降るだろう。いかんいかん、冷静に、冷静に……。
「君の言う通り天気も良いんだから、少し散歩しようよ」
「分かりました。そこまで言うのなら付き合いますよ。本当に
今度は雹かい……。
エデンから歩いてゆっくりと城のある方に歩いていると、サラが段々ブツブツ言い出した。やれ何処まで行くんだとか。これが散歩の距離かとかね。妊婦ってこんなに気が短くなるの? 忙し過ぎてシャーロットに相談にも行けていないから、その辺が全く分からない。
それでも、ついてくるんだから、口だけなのは分かる。今は妊婦だからで諦めて、言いたいことを言わせてあげよう。ストレスを溜めるよりは良いだろうからね。
「此処からは目を閉じて歩いてくれる。俺が手を引くからさ」
「何ですの? 妊婦に目を閉じろなんて」
「言いたいことは分かるけど、俺を信用して、ね!」
サラのブツブツは更に酷くなったが、それでも俺の言う通り目を閉じて俺に手を引かれて少しづつ歩いた。
「もう良いよ。目を開けて見てごらん。俺からのプレゼント」
「……」
サラは俺に言われるがままに目を開けた。その瞬間! 口をあんぐりと開けたまま声を出すこともなく、ただ立っていた。目だけは瞬きを繰り返していた……。
人は驚き過ぎると声も出さず、その先の行動に移せないという事があるが、正にサラが今その状態。
「サラ、此処が俺達の新居だよ。どう気に入ってくれた?」
「……」
これでも返事がない。どれだけ驚いているんだか、そろそろ作った俺としては反応して欲しいんだけど。反応がないと喜んでくれているのかも分からないし、サプライズが成功した実感も湧かない。
しょうがないからサラの目の前に手をかざして振ってみた。俗に良くある『お~~い、聞こえてるか』のあれね。
そこまでして漸くサラは『ハッとしたのか』俺の方を向いて、
「あなたは私を殺す気ですか? 妊婦をこんなに驚かせて良いと思っているんですか」
「そ! そんなつもりはないよ。ただサラに喜んで貰いたくてサプライズしただけだよ」
「妊婦にそんなサプライズはいらないんです。普通にプレゼントしてくれれば、普通に喜ぶんです。あまりの驚きで心臓が今もドキドキしています」
「ごめんよ。決してそんなつもりじゃなかったし、そんな事になるなんて思っていなかったんだ」
俺はこの時、妊婦には普通が一番、サプライズは絶対に駄目だという事を学んだ……。
「今回はあなたが知らなかったという事で一応許しますが、今後もあるんですから、気を付けて下さい」
「はい、勿論です。以後気を付けます」
思わずサラの言葉に敬語で返事をしてしまう程に、最後の言葉は身に染みた。知らないでは済まされないこともあるんだ。良かれと思ってしたことが文字通りサラや子供の命取りになりかねなかったんだからね。妊婦というのは何が良くて何が悪いのか全く分からない。
今になって思い出した言葉がある。よく人が驚いた時に肝を冷やすという言葉を使うが、驚きが内臓に影響を与えるという比喩のようなもの。それなら妊婦が驚いたらどうなる? 子宮に何か影響を与えるかも知れないし、心臓だって影響があるかもしれない。なんで今頃……。もっと早く思い出せよ。
「許してくれるなら次は頑張る。もっと勉強するから安心して」
「勉強するのも大事ですが、一番は何もしないです。どうせ男は重い荷物を持つような力仕事以外では妊婦の役には立てません」
言われてみれば、今までがそうだった。力仕事以外ではサラに喜ばれたことがないし、他の事では何かと嫌味や文句を言われただけだった。お産や妊娠期間中は男が役に立てることは少ない。だからこそ何もしない方が妊婦にはありがたいのかもしれない。
結論、助けがいる時は言うから、それ以外は構うな。自由気ままに自分のペースで動くから放置しろ。そういう事みたいだな……。
「サラ、それじゃ今から中を案内するけど驚かないでね。多分サラが今までに見た事も無い物があるから。それは嫌だと言うなら止めても良いけどどうする?」
「そういう物があると知らされていれば、驚きもそんなではないでしょうから、良いですよ。ここまで凄い物を見せられたら、好奇心の方が勝ってしまいますからね」
俗に言う怖いもの見たさという事なんだろうな。しかし、俺は今回の事で悟っている。そう言いながらも少しでも驚けば嫌味や文句を言われることを。妊婦とはそういう物、普通の状態ではないと……。
「先ずはこの門ね。この門はここに魔力を流せば自動で開くから一人でも問題なく動かせる」
「こんな大きな門を一人で開けられるなら楽ですね」
ただこの門には致命的な欠陥があるのだが、サラには言わない。だって魔力を流せば誰でも簡単に入れるなんて警備上問題がある事なんて言ったら何を言われるか……。勿論、その対策も考えてはいるが、まだ完成していない。それまでは警備の人数を増やして対応するから、一人で動かせる意味が無くなってしまう。言えるわけないよね、これでは……。そして今のサラなら『飾り、無駄な努力』なんて普通に言いそうだ。
外壁の門を抜けるとそこにはシンメトリーの庭園が広がっており、城までの道すがらを華やかにしている。城の門の前にはロータリーが作られていて、中央に噴水がある。お義父さんの屋敷の物より巨大だけどね。
城自体は前世の〇〇〇〇ランドのシンデレラ城を思い浮かべれば分る作りなんだが、この城の特徴は、城の後ろ側にある。この城の建っている場所は山の麓なので、背面の防備は殆ど必要がない。天然の崖が背面の防壁に成っているからね。そしてその崖の前には俺が使う工房が全て揃っているし、崖をくり抜いて巨大ドックも作ってある。
そして今回初めて作った温室と温室風室内プールもある。ユートピアは温暖な気候だから、温室なんて本来必要ないのだが、この温室は魔力濃度を上げれるように成っているから、魔力(魔素)の濃度と植物の関係が調べられる。
「これで大体の説明は終わったけどどうかな? この城?」
「どうかな? と聞かれれば凄いと言う他ありません。ですがあなたの趣味全開だとも思います」
「確かにそういう所が多い事は認めるけど、あのプールや魔法の練習場はサラの為に作ったんだよ」
プールを作る時にサラの水着姿を想像したのは確かだけど、それだけじゃ決してない。プールは全身運動に成るし、妊婦にもいいし、産後の体系を戻すのにも良いと思ったから作りました。勿論、もう水着の開発もしている。人から見れば何処にそんな時間があったんだと言われそうだけど、人間目標があると少々の無理は出来るのです。
「私のは二つだけですか? その割にあなたが使う物は多そうですが……」
「いやいや、俺専用じゃないからね。当然サラも使って良いんだから……」
「まぁいいでしょう。私も妊娠中は暇ですから色々使わせて貰います」
妊娠中に作業をする? それは良いのか? 害に成るようなものは無いのか? いかんいかん、また余計なことを言いそうになってしまった。サラがやると言っているんだから大丈夫だという事だ。
余計なことは言ってはいけない。サプライズは無駄に驚かせ過ぎて嫌味を言われたが、ギリギリで機嫌を損ねなかったのでセーフということにしないと、今回のサプライズ自体が意味を無くしてしまう。
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あとがき
4月4日更新の「毎日が戦いです^^ ストックが3話に成ってから……。」の
近況ノートにこのエピソードに登場する城のイメージ画像を投稿しております。
宜しければご覧ください。
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