第177話 休暇? 逃亡?

「なんだ! この料理は今まで生きてきた中で一番おいしいぞ」


「まぁ~ なんて美味しい料理なの」


 義両親がそんな感想を言った時、屋敷のあちこちから歓声が響いてきた。


 いつもなら当主が食事をしてる時は従者の誰も食事はしないが、今日は特別に場所は別々だが、同時に食事をしていたのでこのようになった。


「お気に召したようで何よりです」


「お父様、ユウマさんがこんなに料理が得意なので私の立場無いんですよ」


「しょうがないだろう、お前は貴族の娘なのだから料理なんてしたことがないのだから」


 低い爵位の息女なら料理をすることもあるだろうが、公爵の娘では先ずやらないよな。


「サラ、そんな事気にしなくても良いんだよ、元々俺は料理を作るのが好きだからやってるだけだから。どうしてもやりたいなら、今度一緒に作ってみればいいよ」


「そうですね。今度料理を教えてください」


 料理もそうだが、乳製品が手に入るようになったから、何とか早いうちに玉子を手に入れて、お菓子作りを教えてやりたいな。玉子が無くてもクッキーぐらい作れるから今度作ってみるか?


 そんな事を考えたその時! 背中に悪寒が……。


「今回作った料理のレシピは料理長に渡しておきましたので、これからは何時でも食べられますよ。調味料も余分に渡しておきましたから、研究もしてくれるでしょう」


「それはすまんな。報告では料理のレシピも特許登録される事に成ったそうだが、無料で渡して大丈夫なのかい?」


「大丈夫ですよ。レシピを使って商売をするわけではないですし、此処で振舞うだけなら、私にとっては身内が料理するのと同じですから」


 料理のレシピは前世でいうと音楽の著作権と同じようなもの。個人が歌うのは問題ないが、その歌で利益を得るなら著作権料が発生するのと同じ。


「話は変わりますが、お義父さんに一つお願いがあるんですが宜しいですか?」


「ユウマ君からお願いとは珍しいな。わしに出来る事なら何でも言いなさい」


「それでは遠慮なく。今回森に行く時にエリーさんを同伴させたいのですが宜しいですか?」


 エリーさんを同伴させるのにはいくつか理由がある。ひとつはサラとの時間を作ってやりたいこと。それとも関係するがもうひとつの大きな理由が、パワーレベリングして魔力量を増やして寿命を延ばす事。


 エリーさんはレベルが低いから魔力量も少ない。その上で、もうそこそこ年を取っているので、寿命はそんなに長くないだろう。それではサラが悲しむから、サラを第二の母と長く一緒にいさせてあげたいので、エリーさんのレベルを少しでも上げればHPもMPも増えるから寿命も延ばせるはず。


 どれくらい延びるかは不明だが、後10~20年は最低でも生きられるはずだ。利用するようで悪いが、これも研究の一つでもある。


 レベルが1~2の人でも60歳ぐらいまでは生きている人がいるが、70歳となると殆どいない。これがレベルが3~5になると変わってくる、70歳以上まで生きている人がそれなりにいる。あくまでそれなりにではあるけど……。


 今までの医療体制では70歳まで生きれば大往生と言われるレベル。前世の90~100歳という感覚だね。


 これまでのこの世界の平均寿命は恐らく40~50歳ぐらいだと思う。子供の生存率も低いから、60歳ぐらいまで生きる人がそれなりにいても平均寿命は下がる。


「それは構わんが魔境の森の奥なんだよね、ユウマ君の家は。エリーが行けるのかい?」


「大丈夫ですよ。私が背負って行きますから。サラも初めての時は背負っていきましたよ」


「次はわしも行きたいぞ。魔境の奥地の魔物と戦ってみたいからな。身体強化もマスターしたから次は絶対だぞ」


 お義父さんはお義母さんの目を盗んでは魔境の森で魔物を討伐している。一緒に来ている騎士たちも主人に似ているのか脳筋ばかりなので、騎士たちも護衛の仕事だと言っては魔境の森に行っている。


 そのお陰で屋敷の肉は買ったことがない。屋敷の人数はそれなりにいるにも拘らずだ。


 研修組はもう国に帰っているが、サラの話ではお兄さんからの手紙にラロックに研修に行かせろという騎士が多くて困っているということだった。


 これは魔境に入りたいのではなく、此処の料理と酒と温泉が目当てらしい。魔境の森はグーテル王国にも隣接してるからね。


 魔境の森と接していない国はマール共和国とビーツ王国、フリージア王国の三か国、接していてもいなくてもこれまでは何も問題なかったが、これからは森の開拓が出来るようになるので、関係性が違ってくる。


 開拓まで出来るのは今のところこの国だけだが、将来的には変わってくるでしょう。


 それから数日後、グランやフランク達との打ち合わせも十分やったので、後は任せてサラとエリーさんの三人で森の家に帰る。


「エリーさんびっくりするかもしれませんが安全ですので、安心して俺の背中で風景でも楽しんでいてください」


「ユウマさん、流石に風景が楽しめるスピードではないですよ」


 そんなことはないはずだ。いくら速いと言っても新幹線でも景色は見れるんだから。確かに乗り物では無いから、体感速度は違うと思うが……。


「それなら予定を少し変えて途中で一泊する感じで行きますか?」


「そうですね。偶には野営も良いものです」


「お嬢様? 何か不穏な事ばかり聞こえますが?」


「大丈夫よ婆や、ユウマさんは強いですし、私もそれなりに戦えますから」


「え! お嬢様が……」


 エリーにとっては子供のころのサラと、病気になって衰弱していくサラしか見たことが無いから不思議思うのは当然だろう。


「では行きますよ。確りつかまっていてください」


 今のサラのレベルなら夕方までには俺の家に着くスピードで身体強化を使えるが、今回は一泊する予定で行くので、サラのレベル上げも兼ねて魔物を討伐しながら向かう事にした。


「お嬢サ・マ・が……」


 サラが魔物を討伐する度に、エリーさんは放心状態になりながらぶつぶつと呟いていた。


 流石に野営をした翌日にはそこまでは無かったが、森の奥に行くにつれて魔物も強くなるので家に着くまで心配し続けた。


「エリーさん着きましたよ。此処は結界で守られていますから安心してください」


「婆や、私もそれなりに戦えるでしょ」


「それなりにですか……。お嬢様! わたくしにはどう見ても当家の騎士より強いように見えましたが」


 そう見えて当然なんだよね。暇を見てはサラを連れて短時間でも魔境の森でレベリングをしていたし、俺から剣術と体術の指導も受けている。


 俺の家までの経路の魔物ぐらいならサラが不覚を取ることはない。サラの現在のレベルは18、もうフランクとそう変わらない。


 この世界の冒険者のベテランが10~15ぐらいだけど魔境の森の奥に入れるレベルではない。それと変わらないのに、フランクやロイス、スーザン、ローズが魔境の森の深部で魔物と戦えるのはひとえに身体強化のたまもの。


 この世界に今までなかった魔法、身体強化はそれだけ世界を変えるものでもある。


 まぁ今現在、魔境の森の深部と言ってる所でさえ、鑑定EXで調べたら魔境の森の入り口から少し入った程度だったんだけどね。


 これが分かった時の俺は放心状態になった。俺のレベルでも本当の深部にいると言われているドラゴンには絶対に勝てないとその時痛感した。


 どれだけ強いんだろう? レベルが100を超えたぐらいじゃ到底無理だな。俺のレベルも最近殆ど上がっていない。忙しすぎて自分のレベル上げが出来ていない。


 俺のレベルを上げるにはいくら経験値100倍があっても、最低、魔境の森の仮の深部ぐらいじゃなければ上がらない。


 身体強化が広まれば、魔境の森に入る冒険者も増えるだろうし、魔境の森を開拓しようという国も出てくるだろう。


 開拓までは正直、あと100~200年ぐらい先だろうけどね。人口がまだ少ないから土地はまだまだ余裕がある。


 ラロックが例外なだけ……











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