第178話 エリーの困惑
「お!お嬢様! 此処はいったいどうなっているんです?」
そりゃそうだよね。こんな森の深くに規模は小さいがお父さんの屋敷と同等の魔道具はあるし、いやそれ以上の魔道具がある。
仕組みは違うが俺の家にはもう普通に冷蔵庫が存在してるからね。機能的にはこちらの方が劣っているのはご愛敬ですが……。
今度発売される冷蔵庫の方がパッキンなどもスライム素材だから密閉度が優秀で保冷力が良い。
俺が作った時の冷蔵庫のパッキンは研究が未熟なゴムを使っているから、密閉度が良くないし、それに劣化もする。
「婆やこれぐらいで驚いていては身がもちませんよ」
今回エリーさんを此処に連れてくる目的をサラに話した時に、エリーさんに見せる範囲をどうするか相談した。
フランク達でもこの拠点に来る時は別棟の家に寝泊まりしている。俺の家には今はサラ以外入らせないようにしているから、エリーさんをどこに泊めるかを相談したのだ。
その時のサラの答えは、全部見せるだった。俺も初めからそのつもりだったから、考えが同じで良かったのだが、何故サラがそう思ったのか聞いてみたら……。
エリーさんには隠し事を二度としたくないからだそうだ。サラが自分の病気に気づいて、それが不治の病だと分かった時、エリーさんには知らせないように両親にお願いした事が原因らしい。
その結果、助からない病気だという事をエリーさんが知ってしまった時に、物凄く悲しい顔をされたからだそうだ。その顔が今でも忘れられないから、二度とエリーにだけは隠し事をしないと誓っていると教えてくれた。
両親には隠し事が出来るのに、何故エリーさんには出来ないんだろう? いくら悲しい顔をされたからと言ってそうなるものだろうか?
俺には理解できなかったが、考えが同じならそれで良いという事で、それ以上考えることはしなかった。
この事は後に貴族の子育てについて、俺が知った時に漸くサラの気持ちを理解した。
これがあってるかは確信がないが、前世の言葉で、生みの親より育ての親の方が愛が強いという事。サラはこの子供側の愛のようだ。
家について2日ほどゆっくりしてから、エリーさんのレベリングに入った。今回はサラのレベリングも兼ねているけど、エリーさんの安全も確保しながらなので、俺が魔物をスリープで眠らせたり、拘束してのパワーレベリングにした。
低レベルのエリーさんのような人の時は、いつもなら拠点から少し奥に入ったところでレベリングをするのだが、サラのレベリングも兼ねているから、前回フランクがレベリングした深部のオークの集落やオーガの集落でのレベリングだったから、エリーさんが途中で気絶してしまった。
そんな事があったので、レベリングは二日に一度のペースに変更して、俺はレベリングをしない日に例の研究をして過ごした。
その生活が10日ほど経った時……。
「お嬢様、わたくし何だか体の調子がおかしいのですが?」
「どうおかしいの?」
「それがどうおかしいのかは説明できないのですが、分かっているのは此処に来る前より顔のしわが減ったように思うのです」
「え! 顔のしわが減ってる?」
サラは、エリーさんにそう言われたので、じっくりとエリーさんの顔を観察した。
「そう? 私には分からないけど、婆やはそう感じてるのね」
「はい、長年見てきている自分の顔ですから、昨日まであったしわが無くなれば分かります」
確かに他人からすれば、しわが何本か減ったぐらいでは分からないだろうが、本人は毎日見てるのだから気づく。特に女性ならそういう事には敏感だろうからね。
「それに、ここ数年持病のようになっていた腰痛がここ最近ないのです」
「ちょっと待っていて、これは何かありそうだからユウマさんを呼んでくるわ」
サラに呼ばれて、事情を聴いた俺はこれも寿命と関係があるのかと考察してみた。
魔力量が増えれば寿命が延びるのは粗確定してるけど、年齢的に近いグランやローレンもレベル上げをしたけど、エリーさんのようなことは言っていなかった。
違いは何だろうか? グランとローレンのレベルは10に届いていない。エリーさんも現状レベル8だからそう差がない。
違う所と言えば……。気絶するほどの急激なレベルアップ? それだけだろうか?
そうか! もう一つ違うのはレベリングの場所。高魔力地帯でのレベリングが影響してるのかも?
同じ場所でレベリングしたフランクはまだ若いから分からなかったが、レベルアップの効果で体の切れが良くなっているだけだと俺も思っていたが、もしかしたら、肉体的に若返っていたのかも?
前世の俺も二十代後半と三十代前半では見目的には変わらなかったが、肉体的にはかなり違った。
そうすると高魔力帯の魔力には違いがあるという事になる。それは以前から分かっていたこと。今までは植物や魔物にだけ影響があると思っていたが、人の体にまで影響するとは思わなかった。
確かに魔力量で寿命が延びる事は証明されているのだから、内部の魔力だけではなく外部の魔力が影響してもおかしくはない。
外部の魔力でも濃さによって違いがあるという仮説が成り立てば、今回の事も納得できる。
ん? そう言えば人の体に魔力を作る器官なんて無かったよな? 手術で何度も内臓を見てるけど、知らない臓器なんてなかった。もしあれば俺は鑑定で調べているはず。
そうすると人の魔力はどこから生まれているんだ?
今回の事を参考に考えると、人の魔力は無くなれば外部から補充されていると考えると辻褄が合う。
あ! そうか! 空気の中に魔力は存在するんだから、呼吸の時に吸収してるのか。
その吸収力がレベルによって違うから、魔力量が増えてもちゃんと吸収出来ているんだな。
その吸収する魔力が濃いから、細胞が活性化されて若返る。魔力量が多い事もこの細胞の活性化に関係するから、寿命が延びる。
やべ~~ これはまた凄い事に気づいてしまったようだ。
「サラ、これは凄い事に気づいてしまったようだ。魔力量が寿命と関係してることは以前教えたよね」
「はい、だからユウマさんと長くいる為に私は魔力量を増やしているんです」
サラの嬉しい言葉は飲み込んで、今回発見した魔力の事についてサラとエリーに説明した。エリーは初めて聞く話だから、いまいち分かっていなかったが、サラは理解したようで、エリーに積極的に高魔力帯でのレベル上げを進めていた。
しかし、これが世間に知れたらどうなる? 絶対拙い事になるよね。
「ん? おぉ~~~~ もしかしてもしかしてか!」
「お嬢様、ユウマさんがおかしくなりましたよ」
「婆やいつもの事だから心配ないわ」
なんというサラの辛らつな言葉、それはそれで何故か安心感がるからスルーして、今回の俺の思い付きをまたサラに説明した。
今回の思い付きは化粧品に魔力ないし高魔力を入れることが出来れば、細胞の活性化が起きて肌が若返るのではというもの。
「どう思います?」
「確かに今回の魔力の効果の発見からすると考えられることですね。実際、改良ポーションにも魔石は使われていますから、原理としては同じですね」
「サラも錬金術のスキルはまだみたいですが手伝ってくれますか? 今研究中の物もありますから、手伝ってくれると助かります」
「勿論、お手伝いします」
「それで一つエリーさんにもお願いがあるんですが、もし良ければ出来た化粧品を試してもらって、感想を聞かせて欲しいんですが」
これが成功すれば、取りあえずエリーさんのしわが減ったことについての言い訳は出来る。それに魔力による寿命と若返りの関係を当分の間は誤魔化せる。
しかしこの化粧品が完成したら、世の中の女性はどうなるんだろうか?
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