第179話 世の中に出していいものか?

「サラ、そこの魔石をすり潰してください。それが終わったら、この2本の化粧水に入れて良くかきまぜた後そこに置いておいてください」


 先ずは魔石の魔力が少しづつ抜けることを利用した、化粧水への浸透を試してみる。


 次は魔石を入れた化粧水を錬成陣で溶かしてみる。改良ポーションと同じ方法。


 そして最後が、何も入れていない化粧水に魔力を付与してみる。イメージ的には魔力を溶かすイメージ。


 結果的に2番目と3番目は直ぐに答えが出た。鑑定EXを使えばどういった物が出来たかは直ぐに判別出来る。


 どちらも皮膚の細胞を活性化して老化を少し防ぐと表示された。今回使った魔石はレベルの低いホーンラビットの魔石だから、次は高レベルの魔石を使ってみる。それが終われば、高魔力帯の魔物の魔石を使ってみる。


 魔石の確認をする前に同様に付与の方も時間を長くしてみたが、結果は変化なし。付与の方は長時間しても魔力を付与できる量が決まっているようだ。


 これも化粧水の製造過程で混ぜるものを変えれば変化するかもしれないが、現状は基本の化粧水での結果だけで良い。


 付与魔法は現状使える人が限られているから、この方法より錬成陣の方が一般的な方で広めやすい。


「エリーさんこの化粧水を右手に使ってみてください。次に作る化粧水は左手にお願いします」


「分かりました。手で良いんですか?」


「テストですから手でお願いします。もし何か影響が出たら困りますから」


「サラ、次はこの二種類の魔石を大変でしょうがすり潰してください。その間に俺は化粧水を作りますから、それと今度は多めに作るので、サラも錬成陣で試してみてください」


 最近は拠点でも化粧品は殆ど製造していませんが、研究はされているので化粧水を作るための材料は常に用意されているから、俺のインベントリにも十分にある。


 折角サラも錬金術のスキルを発現しようと頑張っているのだから、やらせてみるのも経験だし、スキルを持っていない人がやったらどうなるのかも研究になる。



 全ての試作が終わったので、鑑定してみたら物凄い結果になった。


 結果として高魔力帯の魔石の化粧水は正直、世の中に出していいレベルではない。鑑定EXは一度鑑定したものなら、この世の中に初めて登場した物でも、それを基本にどのくらい効果がアップしてるのかが表示される。


 高魔力帯の魔石の化粧水は低レベルの魔石の化粧水の20倍で、少し若返ると出た。


 老化を防ぐどころか若返るは絶対に世の中に出してはいけない。この少しがどの程度なのかはテストしてみないと正確には分からないが、顔でテストする訳にはいかない。


 もう一つの高レベルの魔石の化粧水の鑑定結果は、1.5倍と出た。これはホーンラビットの魔石だから1.5倍で済んだけど、ゴブリンやオークではどうなるか分からない。


 勿論、低レベルのゴブリンやオークの魔石でも検証してみないといけない。


「エリーさん、この化粧水を左手にお願いします。右手にした方はどうです? 副作用のようなものはないですか?」


「副作用のようなものはないです。感想としてはわたくしが日頃使っている化粧水と比べて少し肌の張りが良くなったように思います」


 化粧水だから使い続けなければ効果は持続しないだろうから、まだ結果は出ていないが1.5倍になってもこの程度なら問題ないか?


「サラ、サラが作った化粧水も鑑定してみましょう」


「お願いします」


 結果は高レベルの魔石の化粧水が初めに俺が作った低レベルの魔石の化粧水と同等、高魔力帯の魔石の化粧水が8倍と出た。


 錬金術のスキルを持っていなくてもこの効果、絶対に売りには出せない。


 まぁ高魔力帯の魔石なんて普通の人は手に入れることは出来ないから、販売されることはないのだが。


 今までフランク達のレベリングをした時の魔物や魔石は俺のインベントリに入れたままだから、市場に出ていないので本当に良かった。


 魔石が普通に色んな物に使われていたら、何も考えずに売りに出していただろうけど、この世界では魔石の利用価値が無くて不幸中の幸いだ。


 この後も魔石の利用という事で、ハンドクリームや乳液などの他の化粧品でも試してみたが効果的には化粧水と同じような結果だった。


 そこで改良ポーションでも高魔力帯の魔石を使って作ってみたのだが、鑑定には特級ポーション、欠損も治ると表示された。


 これもどのくらいの欠損まで治せるのかはテストしてみないと分からない。


 こんな調子だと、高魔力帯で見つける薬草と高魔力帯の魔石を使ったポーションならエリクサーのようなものも作れるかも?


 流石に蘇生までは出来ないだろうが……。


 鑑定EXの検索を使えばエリクサーも多分調べられるだろうが、敢えて俺はしなかった。何でも分かるというのは恐怖でもある。


 人は研究という努力をして初めて達成感が生まれるのだから、その研究を省いてしまうと、人として何かを失うのではと思う。


「サラ……」


「ユウマさん、言いたいことは分かります。大丈夫ですよ」


 今回の研究で分かったことは、サラから見ても世の中に出してはいけないものだと理解しているし、俺の言いたいことを俺の表情から察してくれたんだろう。


「婆や、今日見たことや聞いたことは私と婆やの二人だけの秘密ね」


「それは嬉しい事ですね。わたくしとお嬢様の二人だけの秘密、墓までもっていけるなんて、わたくしは幸せ者です」


 別に墓までもっていく必要はないんだけど、それぐらいの気構えなら問題ないでしょう。


「それはそうとユウマさん、私が参加する前にやっていた研究はなんですの?」


「あぁ、それはですね。魔法を魔石に付与できるのはサラも知っているでしょ」


「はい勿論、以前の魔道具がそうでしたからね」


「今研究してるのは、スキルを魔石に付与できないかという事です」


 まだ魔法とスキルの関係についてサラには教えていなかったので、この際だから魔法もスキルだと教えた。


 属性魔法が後天的に発現するなら、魔法もスキルと同じだという事と、スキルの使用時にも少ないが魔力を消費してることを教えた。


「それって、木工スキルや鍛冶スキルでもという事ですか?」


「そうです。魔力を使わないような薬師スキルでもです。スキルが発動するという事は魔力を消費しています。ですが、スキルの種類によって使われる魔力量が違うので分かりにくいのです」


「ユウマさん、わたくしは裁縫スキルを持っていますが、一日作業してもMPは殆ど減っていませんよ。HPは減りますが」


「エリーさん、それは元々裁縫スキルが使うMPが少ないのと、人は呼吸と共に魔力を吸収するのでMPも自然回復しますから、一日作業しても殆ど減っていないように見えるだけです」


 以前から魔力の回復に注目していれば、もっと早くこの結論に到達していただろうが、魔力の消費だけしか考えていなかったから、ここまで断言できなかった。


「その証明になるのが、サラが風魔法を練習している事です。現状ステータスに表示されていないのに、風を吹かせることまでは出来るようになっているでしょ」


「え!お嬢様、風魔法が使えるんですか?」


「えぇ、風を吹かせるだけですけどね。婆やこれはまだお父様たちには内緒よ」


 どんどん内緒話が増えていく。ここから帰る時にはエリーさんは秘密の塊になっているんじゃないだろうか? 巻き込んでごめんなさい……。


「それで魔石にスキルの付与は出来そうですの?」


 う……、サラに聞かれたけど、答えようがない。低レベルの魔石には俺の付与に向いてそうな、どのスキルも付与できなかったが、高魔力帯の魔石には鑑定とアイテムボックスが付与できた。


 これで分かるように、スキルの付与は自分が持っている物じゃないと出来ない。それは当然で、自分の持っていないスキルが付与できるなら、その人はそのスキルが使えるという事、そんなことあり得ない。


 付与できたのが鑑定であって鑑定EXではないから良かったのだが、この世界で高水準の鑑定が使えるグランよりも高水準の鑑定である。


 俺は今まで鑑定EXだからステータスの数値まで見れると思っていたが、それは間違いで、鑑定が高水準になれば見れる物だった。


 鑑定EXのチート部分は検索の部分で、数値は違っていた。この世界に無かった結核の薬などを鑑定できたのは、一種の検索機能だから俺にしか使えないが、数値は普通の鑑定で見れる物だった。


 この世界のどこにも数値まで見える鑑定を使える人はいないと思う。今までもいなかったから、ステータスに数値があることを誰も知らないのだ。


 これも神様の失敗だよな。ステータスに数値が出ていればこんな事には成らなかったはず……。












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