第31話 何しに来たの?

 石鹸やシャンプーの話で昨日の夜は凄かった。此処までくると何故こんなものが作れると言う疑問さえ起きないのだ。ただ商売になるや作り方に興味が行ってしまう。


 兎に角明日は燻製を作るから、忙しくなるので全ては、燻製が出来た後に話そうとなんとか、その場は収めた。


 翌日、朝食を済ませると、早速燻製づくりを始める。下味をつけた肉などを燻製小屋に運び、一つづつ吊るしていく、今回は作り方を教えるだけだから量が少ない。


 作業は直ぐに終わり、いよいよ煙で燻す作業に入る。


「煙で燻すのだから、あまり一気に燃えてはいけないからそこに注意してもらいたい」


 注意事項を言ってるのだが、二人はどこか上の空、聞いてはいるのだろうが大丈夫だろうか?


 そこからは手が空くので自由時間にした。俺は取引の為の商品を作らなければいけないので、狩りに出てくると伝え二人には自由に過ごすように言った。


 2時間ほど狩りをして、かなりの量の魔物を確保できた。取引分を作るのに必要な量はそのうちの一部済むので、解体はインベントリで済まして帰る。


 帰宅しても家の外に二人の姿はない、それならと解体した魔物を出して、下味をつける事にした。下味をつけるのにそこそこ時間は掛かったのだが、それでも二人の姿は見当たらない。


 洞窟までの道にも結界の魔道具は置いているから、危険なく行けるのだがそれにしても何処にいるのやら?


 作業がひと段落したので、燻製小屋を少し覗いた後、休憩しようとクリーンを掛けて家に入っても、二人がいない?


 まさか結界の外には出てないと思うけど心配になり、客間や厨房を探したがいない。こういう時なんで俺は気配感知を使わないんだろう、ほんと嫌になる。


 しょうがないので


「お~い 二人とも何処にいるんだ?」


 大きめの声で声を掛けてみた。


「ここにいるよ」


 返事が返って来た、声がしたのはなんと風呂からだ。


 何してるんだよこんな時間に風呂で、行ってみるとそこには、一人は風呂のレンガとタイルもどきをこれでもかと言うほど念入りに調べながら、首を傾げてる。


 もう一人は、風呂場にある石鹸、シャンプー、リンスを自分の前に並べて


「う~ん う~ん」


 首を傾げながらうなってる。


 あんたら何やってるの? 燻製小屋は気にならないの? 何しに来たのここに?


 確かに今見てる物は二人にはインパクトがあり過ぎたのは解るけど、先ずは燻製でしょ。


 しょうがないので、燻製はもう少ししたら火を消して、明日の朝まで放置するだけだから、火を消すタイミングだけ教えて、二人が何を考えてるのか聞いてみる事にした。


 本当に大丈夫かね、燻製の作り方覚えて帰れるのか? 心配になるよ。


「何をそんなに考えてるの? ふたりとも」


「何ってこのレンガがどれだけ凄い事なのか解ってるの」


「何ってこのシャンプーやリンスがこの世の女性にとってどういうものか理解してるのか」


 二人一緒に凄い勢いで返事してきた。


「ちょっと待って、二人一緒に言われても答えようがないから、先ずはロイスさんからね」


「ロイスさんはどうしたいの?」


「勿論、このレンガを広めたい。いや広めないのは罪だ」


 嫌々俺を犯罪者にしないでよ。


「広めるのは別に良いですよ」


「え!広めて良いんですか? これはユウマさんが作った物ですよ」


「良いですよ。だってお金を儲けたくて作ったんじゃないですから」


「本当に良いんですか? もの凄く儲かるかもしれませんよ」


「じゃ、儲かったら少し分けてくれたらいいよ」


 笑いながらロイスに答えたら、また考え込んでしまった。


「次はグランさんね」


 待ってましたかのように


「このシャンプー達を売り出す気はないのか?」


 達って……人じゃないぞ。


「別に売っても良いですけど、これ作るの大変ですよ」


「錬金術師も必要だし、地下で見たガラスの器具も必要ですよ。それに大量に作るなら錬金術師も複数人、下手したらもっと必要になる。当然器具もね」


「錬金術師か、確かにあやつらはポーションだけでも食っていけてるからな」


「何にしても、売ることには問題ないから好きにしたら良いです」


「そうか、それなら売れたら私も儲けを分けよう」


「それはどうも」


 ここに異世界初めてのなんちゃって特許が生まれた瞬間だった・・・・


「そうだ丁度いいや、そのポーションなんだけど、こういうのを作ったんですけど」


 インベントリから先日作った改良初級ポーションを二種類取り出してグランに見せた。


「な! な! なんだそれは」


 物凄い大きな声でグランが叫んだので、考え込んでいたロイスもこちらに顔を向けた


「な! な! なんですか! そのポーションの色は?」


 ロイスも考え込んでいたのを忘れたかのように叫びながら、こちらに走って来た。


 そしたらまたグランが


「な! な! なんじゃと2割増しと5割増し」


 鑑定をしたのだろう、効果を見てまた叫んだ。


「なんですって、2割増しと5割増しですって、本当なのですかご隠居様」


 ロイスは鑑定を持っていないので、グランに確認を入れた。


「本当じゃ、私の鑑定にはそう出ている」


「ユウマ君、またとんでもないものを作ったね」


「そうなんですよ、だからどうしようか悩んでいました」


 レンガやシャンプーは全く新しいものだから、売りだしたり広めるのは問題はあるにしても、それほどでもない。


 しかしポーションはそうはいかない。既得権益が絡んでくる。


 製造をしてる錬金術師、ポーションを良く使う冒険者ギルド、ポーションの販売をしてる店舗、最後に一番問題の光魔法の教会


「これは初級ポーションだけど、中級、上級はないのかね」


「俺はまだ初級までしか作れないんです。ただ中級も上級も同じ割増しは出来ると思いますよ」


 そういうとグランは


「また、とんでもないものを作ったね」


 二度目のお言葉……


 二人はこの後も本来の目的である。燻製の事はそっちのけで、あーでもない、こーでもないと話し続けた。


 この二人は本当に何しに来たんだろう? まぁ原因を作ったのも俺だからそう思うだけで、それ以上は何も言えない。





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