第56話 骨子が出来るまで
王は謁見後、王妃の後押しもあり早速特許の法律について宰相と相談しようと宰相を呼び出した。
「カルロス、忙しい所呼び出して済まぬな、ちと相談があるのだ」
王は宰相のカルロスに呼び出した理由を説明した。
カルロスは当然献上品がどういう物かは事前に知っていた。宰相とは王の補佐でもあるのだから知らない道理がない。
「成程、確かにあれらの品は素晴らしい物でした。だから保護したいというのも頷けます」
この時点でカルロスはもう法律を作ると言う事には疑問が無かった。当然である。王のやりたいことを補佐するのが宰相だ。勿論、問題がありそうなことなら苦言を呈しても止めるが、今回の事は苦言を呈する必要もないし、国の発展には有益だとカルロスは思っていたから。
「では、明日までに法律に詳しいものを選抜しておきましょう」
此処まではごく普通の流れだ、だがこの後の王の言葉で急変する
「それとな献上品には無かったのだが、カルロスも良く知っていると思うが、王都ではやっていた未知の病の特効薬も出所はゾイドの所だそうだ」
「何と誠ですか? それはゾイド殿に是非お礼をしなくては」
宰相がこう言った理由は実は宰相の息子が結核だったのだ。宰相の息子もシャーロット同様、医者が匙を投げていた。
そんな折、王都で未知の病に効く薬が出回っているという噂を使用人が聞いて来た。
ニックは庶民の薬師だ。だから薬も庶民に先に広まり、貴族の耳の届くのが遅かったのだ。
宰相の息子は良くお忍びで街中に出ていたので、運悪くそこで感染したのだろう。
実際、結核は庶民の病気だった。食生活があまり良くない人や抵抗力の低い人が掛かる病気が結核、風邪なんか引いていて免疫力が下がっていても感染する。
この世界にそんな知識は誰にもないが……
噂を聞いた宰相は藁をも掴むつもりで薬の手配をした。
宰相家のお抱え薬師にニックの所へ行かせ、症状などを伝えさせて間違いないと言う確信を貰って薬を息子に飲ませた。
飲ませた翌日にはシャーロット同様、一発完治!、ニックから出来れば息子の近くにいた人も薬を飲むように言われていたので、屋敷の全員に飲ませた。
だから宰相は結核の薬の出所がゾイドの所だと聞いて感謝した。
しかし王との会話の中に、ゾイドに薬をもたらした人物の店の従業員が、薬が原因で拉致されたと言う話が出たとたん、カルロスの動きが変わった。
「それはいけませんね、一刻も早く法律を作って薬を保護しなくては」
カルロスは特許の法律を作る意味は当然もう理解していた。新しいものを作る、それが利益に成る、利益になればまた新しいものを作る意欲が出る。その循環が国の発展に繋がり国も潤うと。
だが急ぐ必要もないと同時に感じていた。しかし息子の恩人でもある薬の出所の関係者が理不尽に拉致されたと聞けば黙っていられない。
「では直ぐに取り掛かります」
そう言うと王からの返事も待たず、部屋を出て行った。
カルロスは王宮の役人の法律に詳しい者は当然知っていたので、役人が詰めている部屋に行き、5人の役人に声を掛けた。
宰相のいつもとは違った言動に役人も初めは困惑していたが、カルロスから事の経緯を説明され、宰相からの命令もあり急ぎ法律が検討された。
5人は宰相の並々ならぬ形相に、いつもなら何週間も掛けて作る法律を骨子とはいえ翌日の午前中には作り上げていた。
これが骨子が翌日には出来ていた理由。
会議というか報告会が終わったと同時に、女性陣に問い詰められたビクターは化粧品の販売は法律が施行されてからだと伝えた。
しかし女性陣は黙っていない。献上品があるならこちらにも廻せと言う、此処に来てローレライの策略が裏目に出た。
本来お茶会の時に渡しても良かったのだ。だけどローレライは敢えてそうしなかった。女心を強烈に刺激しようと思ったから、しかし思わぬところから情報が洩れてこの状態に。
被害はビクターにだけ及んだ。
ビクターの悲劇はそれだけでは無かった。女性陣には何とか販売前でも化粧品を融通すると言う事で納得してもらえたのだが、今度は男性陣からも陶器やガラスの食器は何時から販売されるのかとか、出来れば特別にまわしてほしいとまで言われた。
これには5人の役人も含まれている。頑張ったんだからそれぐらいいいだろうと言うものでもある。
金は払うと言ってるが、ビクターにとってはどう見ても賄賂を寄越せと言ってるようにしか見えなかった。
結論、皆さんにお配りしましよ、当然役人には多くはありませんが、全員に陶器とガラスの食器を……
元々貴族の根回しに必要だと、ある程度の量は持ってきていたので、根回しどころか法律が出来てしまったので、根回しの必要が無なくなったので問題なく配れた。
それでも後々ケチが付いても嫌なので、有力貴族にはそれなりに持って行った。
化粧品もローレライが中心に成ってご婦人方に広めた。
骨子が出来、詳細を詰めている頃、領都とラロックのグラン商会の店の周りをうろついていた冒険者風の男達は変わらず何もしてこなかったが、何かを探っていると言うか機会を待ってるかのようだった。
その間もユウマは取引の為に村を何度か訪れていた、だから当然ユウマも領都の事件は聞いていたし、憤慨もしていた。
だからと言ってこういう時に安易にユウマが動けば、これからも何かとユウマが動かなくてはいけなくなる。だから敢えてユウマは何もしなかった。
そんな時二度目の事件は起きた。
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