第55話 謁見と相談
献上品が全てテーブルに並べられてから、ビクターは1つづつ説明していった。
陶器やガラスの時はそうでもなかったが、石鹸に説明が移った頃から、王妃の目が輝きだした。
最後にレンガの説明をする時に、今回ビクターは羊皮紙にレンガで作った建物や窯、城壁を絵に描いて持ってきていた。
実物を見るのが一番いいが、そうはいかないので苦肉の策である。
「陛下これらが今回お持ちした献上品です」
国王も王妃ももう目がらんらんとしてる。傍に控えている護衛の騎士も侍女も職務を忘れたんじゃないだろうかというくらいうっとりとしてる。
「凄いの~~ビクター」
「素晴らしいですわ、どうやって使いますの」
興奮した国王は、もうゾイドと呼ばずビクターと呼んでいる。
王妃はもう使いたくてしょうがないようだ。
これだけ気に入って貰えたのなら話もしやすい、そう思いビクターは特許について国王に説明し始めた。
二番煎じではあるがグランがビクターに説明したように、これから先いろんな物が作られて世の中に出てくること、それを作った者、発案したものが保護され、利益を得られるようにすること、それが更なる発展に繋がることなどを力説した。
勿論、結核の薬の一件も付け加えた。
「如何でしょう陛下、このような仕組みを国の法として作って更なる発展に結び付けてみては?」
国王はビクターと同じく迷っているみたいだ。しかし王妃は違った。
「貴方、何を躊躇してますの。こんな良い品がこれからもどんどん出てくると言うのに、その芽を潰しておしまいになるの?」
化粧品が出てくるとは言っていないが王妃はそう思っているのだろう、援護が強い。
「良かろう、法律を作ると言う事ならこの場で決める事は憚れる、宰相と法律に詳しいものを同伴の上決める事にしよう、明日もう一度参れ」
謁見はこれで終了、明日出直す事が決まった。
王都のタウンハウスではその頃、ローレライに拠る貴族夫人引き込み工作が行われていた。
そうは言っても直接的な引き込みではなく、お茶会に招待した人に石鹸、シャンプー、リンスを配るだけだ。
化粧品については今回配った物の反響を見てから紹介する予定だ。勿論、献上して王妃が使った後でないとまずいと言うのもある。
ローレライは中々の策士だ。
そして翌日、ビクターは王宮の昨日とは別の部屋で待機していた。
おそらく昨日の謁見後に王から宰相に話があり、宰相から法務関係に強い役人? 貴族? が選抜されて今日の会議に来るのだと思っていたビクターだが、現れたのは……
王を先頭に王妃、王太子、王太子妃、宰相、宰相夫人、王の妹が嫁いでいる公爵、それと妹ご本人(公爵夫人)、その後ろに役人らしき男性が5人、総勢13人。
ビクターはそのメンツと数の多さに圧倒され、ドアが開いたと同時に立ち上がって礼を取ったまま動けなかった。
「待たせたなゾイド辺境伯、では会議を始めようか」
王はこのメンバーについて何も告げることなく会議を始めるみたいだ、ビクターはそう言われても頭が働かず、ただ王に促されて着席するしかなかった。
司会は宰相が務めた。そして今日の議題である特許の法律を作ると言う事を宣言して、ビクターに特許の仕組みとはどういう物で、その意義についての説明をさせた。
(あれ?特許の法律を作る?)
ビクターは疑問に思っていた。確かに王や王妃は昨日の謁見の時に好感触だったし、王妃は乗り気だったが、王はまだ決定では無い様な感じだったのに、いざ会議が始まると宰相が法律を作ると宣言した。
メンバーの構成からあっけに取られて呆然としていたから言われるがままに説明を始めたが、説明しながら段々と冷静に成って来たのか、ビクターは法律を作ることが決まって要る事に違和感を感じていた。
「ゾイド辺境伯説明ご苦労、では次に法律の骨子について報告してもらおう」
(え~~~法律の骨子?、もう出来てるの? 今の俺の説明いる?)
ビクターの困惑はもっと大きくなった。昨日の今日なのに、法律を作るかどうかではなく、法律は作ることがもう決定してるし、骨子まで出来ている。
その後はビクターの動揺とは関係なく、粛々と法律の骨子が報告された。
「大まかな内容は以上であります。詳細は今後詰めていき決まり次第報告、承諾の上施行となります」
細かいことは決まっていないが、骨子だけでももう十分法律として施行できるぐらいまで決まって要る。元々遅れている世界だからこのまま施行しても十分なんだろうが、何故か今回は詳細まで詰めるようだ。
(あれ?これって会議の必要あった?)
ビクターがそう思うのも無理はない。実際会議ではあるのだけど、これはただの報告会だ。
報告が終わってから、宰相からビクターに質問や不明な点等は無いかと尋ねられたけど、ビクターは内容があまりにも充実していたので不明な点など何もないと言うだけしか無かった。
(あれ?終わっちゃたよ?このメンバーの意味は?)
ビクターがそう思って油断していた時、公爵夫人が口を開いた
「ゾイド辺境伯、王妃様に献上したあの化粧品はもう販売されていますの?」
思わぬ人からの質問とその内容にビクターは一瞬、返答に困った。
すると今度は王太子妃が
「そうです! もう販売されていますの? まだなら何時からですの?」
此処まで来ればビクターも理解した。王妃には化粧品は献上したが王太子妃にはしていない。多分王妃が化粧品を自慢したか、使用後の王妃の変化に気づいて王太子妃が食事の時にでも王妃に聞いたんだろう。
そこで献上品の話が出て、今度は王太子も興味を持った。もしかしたら食事の時に献上した陶器やガラスの食器が使われたのかも知れないと。
(では公爵夫人はなぜ?)
ビクターは昨日の謁見後のタウンハウスでの妻からの報告を思い出していた。
昨日のお茶会には公爵夫人も参加していた。だから石鹸やシャンプーなどは貰っているはず、しかし化粧品は知らないはず、なのになぜ?
ビクターは知らなかったが、実は公爵夫人はお茶会の後、偶然にも王宮での夕食に参加していたのだ。勿論、公爵夫人も……
残る宰相夫人はというと、これも偶然が重なっていた、宰相夫人は謁見後の王妃とお茶の約束があったのだ。
そこでお茶の話題に献上品が出て、尚且つ宰相が帰宅後に特許の話を王から指示されたことを話していた。
王太子や王太子妃については予想が出来たビクターだが、それ以外は出来なかった。
それにこんなにも早く骨子が出来ていることにはただただ困惑するしかなかった。
これにも理由はちゃんとあった。謁見後王から宰相に特許の法律について相談をされた時に、当然献上品も見せられ説明を受けていた。
勿論、結核の薬についても、それが今回の骨子まで出来ていた本当の理由。
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