第54話 事件です

 辺境伯一行がラロックを訪問してる時、領都のグラン商会では事件が起きていた。

 グラン商会の従業員が一人、行方不明に成っていたのだ。


 その従業員は勤続12年というグラン商会では中堅所、フランクの店のロイスと同様にある程度は仕事を任せることの出来る人物だった。


 まして無断で休むなんていう事をする人物では当然ない。それがいきなり消えるように居なくなった。


 ジーンは当然探したし、領都の警備兵にも捜索願いを出した。しかし一向に見つからない。


 しかし領主一行が領都に戻って来たと同時位に、店の裏口の前に行方不明だった従業員が意識を無くし衰弱した状態で捨てられていた。


 ジーンはすぐさまユウマから貰っていた、50%UPの初級回復薬を従業員に与えて店で休ませた。


 従業員は衰弱していたので、いくら回復薬を飲ませたと言っても直ぐには起きず、事情を聴くにも起きるまで待つしかなかった。


 それから2日後漸く従業員が目覚め事情を聴くことが出来た。


 聞けた内容は、仕事が終わって自宅に帰る途中いきなり後ろから襲われ、意識を刈り取られた。その後目を覚ましたら、目隠しをされて両手を後ろ手に縛られて椅子に座らせられていたという。


 それからは食事も与えられず、水だけ与えられて、シャーロットの事と薬について、聞かれ続けたらしい。暴力は振るわれなかったので今回は無事に帰れたが、そうでなければあの衰弱振りからしたら途中で死んでいただろう。


 当然、目的が結核の薬なのだから、ジーンはもう犯人に目星は付いていたが証拠がない。


 本人は声だけしか聴いていないのだ。犯人の顔は誰一人見ていないし、複数人から問い詰められたので特徴も掴めていない。


 それでも犯人はあいつだ。医者のスベンだ。


 ジーンは従業員から事情を聞けてから直ぐにラロックのグランに手紙を出した。


 それと同時に従業員にはこれから帰宅する時は出来るだけ一人でしないようにと、どうしてもの時は、十分注意して表通りを通って帰宅するように伝えた。


 最悪、店に泊まってもいいことも付け加えた。


 ジーンからの手紙を受け取ったグランはフランクに内容を伝え、シャーロットを始め家族全員の安全を考えるように伝えた。勿論従業員も含めて。


 今回は領都の従業員だったが、次があるとしたらラロックに居る事がばれているシャーロットが一番に狙われる可能性が高い。


 ただラロックで誘拐しても連れて行く場所がない。スベンにはラロックに拠点はないだろうから、そうなるとどう出てくるかが解らない。


 後に解ったことだが、こういう連中は地下道を作っていて、容易に街の中と外を行き来していた。


 この世界一生町から出ず、レベル1という人もいるぐらいなので、道の無い所に地下通路の出口を作ってもカモフラージュしていたら殆ど見つからない。


 どう出てくるか解らないので後の対策はフランクに任せて、グランは急ぎ領都に戻ることにした。


 グランは領都に戻り次第、今回の事件をビクターに報告した。


 ビクターには薬の事は全て話しているし、領都の医者が執拗にレシピや製法を聞きだそうとしてる事は伝えてあった。


 ビクターは報告を受けてすぐさま領都の警備兵にグラン商会の警備を強化させ、スベンという医者の周辺を探らせた。


 グランは今回の事でこれは全てを急がなくてはいけないと思い、ビクターに根回しに使ってもらう為の商品を渡し、大急ぎで行動に移してもらえるようにお願いした。


 勿論、ローレライにも化粧品などを多めに渡し貴族の夫人たちに広めてもらう。


 それから2週間ぐらいは何事もなく過ごせたが、警備兵の警戒が緩んだ頃、領都の店でもラロックの店でも、周りをうろつく冒険者のような輩が目に付くようになりだした。


 逆にスベンは街中で、ジーンやグランを見ても何も言ってこなくなった。

 本当に不気味だ、あれ程執拗に薬の事を聞こうとしていたのに……


 その頃王都では


「国王陛下並びに王妃様、この度は急な謁見をお許し頂き感謝いたします」


 ビクターが国王夫妻と謁見していた。


 謁見といっても謁見の間ではなく、国王が個人的に面談する部屋での事


「ゾイド辺境伯よ、此処には身内しかおらんそう畏まるな」


 国王とビクターの父は同世代で国王が王太子の頃はビクターの父が近衛騎士として傍にいたので、父が辺境伯をついでからも父とは交流があり、その関係でビクターも子供の頃、国王に可愛がられていた。


 ビクターの場合は若くして辺境伯を父から受け継いだけど、国王は子供が出来るのが遅かったのもあり未だ現役である。


 実際はもう王太子も良い年齢なのだが、国王が早く引退するはどうしても一領主と同じようには出来ない。


 執務が出来なくなれば別だが……


「陛下、本日は陛下並びに王妃様に献上したき品がありましてお持ちしました。つきましては品をご覧になってから一つご相談に乗って頂きたく存じます」


 献上品であるから当然前もって調べられているので、後ろに控えている王宮の侍女に献上品を持ってくるように伝える。


 次から次へと運ばれてくる色鮮やかな陶器、初めて見るガラス製品、綺麗な箱に入った石鹸、シャンプー、リンス、化粧水、乳液、口紅、ファンデーションは今回は全てガラス容器に入っている。(口紅は昔の紅を注すのと同じで指で付けるタイプ)


 そして最後にレンガの登場……






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