第136話 バターとチーズ

 魔法士たちも帰ったので取りあえずはひと段落だが、このまま完全に終わりということはないだろうとは思っているが、その時はまたその時ということで今は次のことに集中する。


「今日はバターとチーズを作ります。作り方はそんなに難しくありませんから、しっかり覚えてください」


 オックスの牧場に今日は来ている。目的は牧場主として雇ったゾックとその家族や親せきにバターやチーズの作り方を教えるためだ。


 このゾックという人は元からオックスを農耕牛として飼育していた人で、以外にも魔力量が他の候補の人より多かった。 勿論、人柄もよく評判もまじめだという事だったので採用した。


 当分はグラン商会で雇うことになるが、将来的には人を育てた後は独立してもらうつもりだ。この先色々な場所でオックスの飼育が始まるだろうから、その時の人材を教育してもらうこととティムの魔法の習得がこれからの仕事。




 当然、独立した後もグラン商会にはマージンは払ってもらう。言ってみればグラン商会が投資した形にする。払うと言っても利益の5%ほど、微々たるものですが。


 オックスは乳製品の製造、肉牛としての飼育と農耕牛としても貸し出す予定。



 バターの作り方は原始的なやり方で作ってもらう。それでも小さな器で作るようなことはさせない。


 引きこもり中に、バター作成用の機械は作ってある。前世で見たことがあったので、見よう見まねで作ってみたが案外上手く出来た。


 小型の樽を横にしたものを回転させてバターを作る機械。ベアリングがあるから回転が楽に出来るから、女性でもそれほど負担なく作れる。


 時間は掛かるから交代でやらないといけないだろうが……。


 何でか分からんが俺ってこういうことは本当によく覚えているんだよね。


 勉強は嫌いだったのに、ホームセンターでやったことはよく覚えているし、プログラミングも嫌いじゃなかった。俺って基本、物を作ることが好きなんだろうな、好きなものは覚えるし忘れない。人ってそういうもんだよね。


 チーズは凝固剤に何を使うかで悩んだ。一番簡単なのはオックスの子供の胃から採取する、レンネットで作るか、レモーネ(レモン)で作るかなんだが、オックスの繁殖も考えると子供を使うのはあまり効率的ではない。


 レモーネでも作れるが、チーズの種類が制限される。前世では微生物性のレンネットを遺伝子組み換えして苦みが出ない100%レンネットを開発したけど、この世界で遺伝子組み換えなんてできない。


 ん? もしかしてこの世界の微生物レンネットは苦みが出ないかも?


 この世界って色々前世と違う。結核の薬、ペニシリンと前世とは違った効果があった。 もしかしたら科学の世界じゃないから、そういうことはあり得る可能性がある。


 はい! その通りでした。 遺伝子組み換えなんて出来ないんだから、当然そういう所はご都合主義なんです。いや、この世界主義?


 勿論、微生物レンネットはカビから採取しました。俺の鑑定EXなら簡単に見つけることが出来ますからね。


 しかし本当に人間ってどうしたらここまで研究出来るんだろう?


 カビからレンネット? 誰が思いつく? 一つ一つのことを突き詰めているからその応用が出来るんだろうな。


 一人の人間が途方もない実験や考察を繰り返し、発見したことを論文などにして世界に公表することで、その知識が共有され、そこから別の人がまたいろいろ研究して論文を書く。 この繰り返しが文明を進めてきたんだ。


 この世界は俺が急激に進めてしまっているから、やはりこの世界の住人による文明の進化をさせるには基礎が絶対に必要だ。


 やっぱり小中学校は必要だね。小中学校で読み書き計算から始まり、前世の理科のような知識に、この世界特有な魔法の基礎を教え、HP、MP向上の体育まで取り入れれば、15歳の成人を迎えるころにはスキルの基礎も出来ていると思う。


 そうすれば進む職業にあったスキルは直ぐに習得できるし、習熟度も早く上がる。


 ここまでのことで分かることは、この世界の文明を進化させるには、人間も進化しないといけないということ。


「もうそろそろいいですね。 このようにオックスの乳から固形物が出来ます。これがバターという物です」


 前世のバターとは違ってかなりクリーム状ですが、これも作るときに乳の温度が下げられるようになればもう少し固形物に近いものが出来るようになるでしょう。


 出来上がったものは無塩バターなので、塩を足せば有塩バターも作れます。


 この撹拌を途中で止めて容器で沈殿させると上澄みは生クリームということになります。


 生クリームが出来ればケーキと行きたいが、これはまだ止めておく。そんなもの作ったら最後、俺は確実に過労死する。


 美容用品と同じく女性に甘いものは絶対に気楽に教えてはいけないもの。


 卵を産む魔物が見つかってからこれは公表する。その方がレシピが多いし、おいしいものが作れる。


 次はチーズだ。チーズの作り方は


 生乳を加熱殺菌する

 酵素(レンネット)を加えて、タンパク質を固める

 乳清(ホエイ)が抜けたタンパク質の塊を攪拌する

 塩を加える

 熟成(タンパク質がアミノ酸に変わる)


 通常のチーズは熟成が必要なので今回はモッツラレラを作る。



 タンパク質の塊のことをカードと言いますが、これにお湯を足して練っていくとモッツラレラが出来ます。


 モッツラレラ自体はたんぱくな味なので他の料理に合わせる方が良い。


 一番に思いつくのはピザなのだが、これは教えようか迷っている。


 個人で楽しむならそう問題はないだろうが、これを商売にするといろんな職業の人が大変になる。


 多分、爆発的に売れるだろうから、トマト農家、レンガ職人、左官職人、そしてチーズ職人は今の現状では追いつかない。


 売り出すならそれなりの準備が必要だ。特にトマトやチーズは、はいそうですかと生産出来るもんじゃない。


 トマトソースを保存するにはこの世界だと殆ど方法がない。氷属性は存在していないからだ。 よく考えると冷蔵庫を作った時に何で氷という発想にならなかったのか?


 魔方陣を作るときに冷やすというイメージはしたが、凍らせるというイメージはしていない。だから俺のステータスに氷属性は発現していないのか、それとも風属性や水属性のうちに含まれているのか? 


 ここラロックって割と北にあるから夏でもそう暑くないから、氷が必要ない。


 飲み物は俺の場合、冷やせば良いから氷を入れるという発想にならなかった。


 これはまた問題発生だな。バターやチーズの作り方からまた魔法の進化の可能性が出てきた。


 どうしてこうも次から次に出てくるかな、自業自得ではあるんだが、早く全て人任せにしたいよ。


 多分無理だとは思っているが……。













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