第264話 久しぶりに料理の時間

 会議は中々結論というか方針が決まらなかったが、俺自身は言いたいことも報告も全てしているから、何とか結婚式の準備があると言って中座させてもらった。


 飛行船の事や島の事は当分機密扱いになると予測しているし、島のことが機密なら真珠の事も等分機密とまではいかないが知らせるのは少数に制限するだろう。エマが研究はしているが、まだ大量販売と言う所までは行っていないようだし、現状は王家や上位貴族のみの販売に留まっているようだ。


「ケインさん久しぶりですね。商売の方も繁盛しているようで良かったです」


「おう! ユウマじゃないか! 本当に久しぶりだな。最近は噂だけだが色々忙しいようだな。それにとうとう結婚するし、俺も嬉しいよ。お前との出会いがなければ今の俺はないからな」


 ケインは今、食堂を二店舗経営しているし、ケインの店から育った弟子たちが国中で店を経営している。酒の販売もグランとの契約で、年代物を優先的に廻してもらっているから店は繁盛している。


 俺の方も噂で聞いている事だが、ケインが料理の学校を計画していると聞いた。以前これからは色んな学校が生まれるかもと考えていたその第一号に成るかも知れない。


 錬金術や他の分野でもそれに近いことをしようとしてる人がいるとも聞いているから、本当に専門学校が増えていきそうだ。


「ところで今日はどうしたんだ? 結婚式の準備で忙しいだろう。色んな意味で」


「ケインさんも知っていますよね当然」


「そりゃ、これだけ凄い人数がこの辺境のラロックに集まっているんだぞ。何かあると思うのが当然だし、俺はグラン商会の一員みたいなものだからな」


 当然だがケインはそういうだけでそれ以上は聞いて来なかった。そこは付き合いが長いだけあって、詮索することはしない。まぁ大体の事は知っているんだろうがね。


「今日はケインさんに手伝ってもらいたいことがあって来たんですよ」


「俺に手伝い? それは当然料理に関係してるからだよな?」


「そうです。今回新しい食材を手に入れたのでそれを使って作りたいものが有るんですよ。それにその食材は色んな料理に使えるので、それをケインさんに覚えてもらおうと思っています」


「なんていう奴だ。俺のところに来る時はいつも驚かされる時ばかりだな。もう慣れっこになって来たが、それでも新しい食材と聞けば胸が高鳴るな。それでその食材とは何だ?」


「それはこれです」


 俺はインベントリから、ガルスの玉子とエミュの玉子を取り出した。


「な、なんだそれは? 見た目には卵のように見えるが大きさが違いすぎる」


 この世界には動物は存在しないが、魔物の鳥は存在する。しかし今まではその魔物の卵を食用にすることはなかった。一般の森に生息する鳥の魔物は小鳥の部類の物しかおらず、逆に魔境の森ではそういう小鳥の部類の魔物は生息できない。


 だから卵の存在は知っていても極一部の料理人や冒険者が知っているぐらいだ。わざわざ小鳥の卵を危険を覚悟に採取する人はいない。だから食材として扱われなかったし、世間にその存在自体広まらなかった。


 ケインの様に料理に対しての探求心が今はあるから、知識としては知っている人がいるが、それ以前の料理人には料理を研究する事すらしなかったのだから、知識すらない。


「これはある場所に生息するガルスという鳥の魔物とエミュという同じく鳥の魔物の玉子です」


「ユウマが食材というからには食べられると言うことだな。それも大きさや色の違うものを二種類も……」


「ケインさんももう分かっていますよね。新しい食材と言うことはこれを大量に手に入れることができると言うことに」


「当然だ! そうじゃなきゃ俺にわざわざ見せに来ないし、料理法を教えるなんてしないからな」


 流石ケイン話がはやい。そこからは先ず玉子という食材がどんなもので、どうやって手に入れることができるのかなど、基本的なこと説明した。


「ガルスという魔物は此処でも飼育できそうだが、エミュに関しては厳しいかもな。気候が違い過ぎる」


「そうですね。俺もそうだと思っていますが、エミュの玉子には未知の効果が有りそうなので、どうにかしたいとは思っています」


「取りあえずはガルスの玉子だけでも大発見だぞ。ん? そうするとあのロイスやフランク、ジーンが飼育しているクルンバやアクイラの卵も可能性があるのか?」


「どうでしょうね? 全ての卵が食用になるとは限りませんし、今のところクルンバやアクイラはそういう飼育方法をしていませんからね。それに俺の鑑定ではアクイラに関しては雌雄が表示されないんですよ。クルンバにはありますが……」


 これは俺も鑑定したときに驚いたことだった。アクイラには雌雄の表示がなかったのだ。ゴブリンやオークも同じくその表示はない。だからと言って、前世でよく聞いた人間の女性を苗床にもしていないのだ。この世界の魔物には雌雄の表示が無い物が多く存在する。


 オックスもその中に含まれる。それでは矛盾しているように思うだろうが、オックスは両性具有のような存在なのだ。生殖行為をしなくても子供を産むし、ミルクも出す。これとアクイラやゴブリン、オークが同じような存在だとすれば納得できる。


 ただ、このような研究をした人がいないから、誰も知らないし、俺も推測でしかない。


「雌雄がないと言うことは食べられる卵を産むとは限らないのか?」


「雌雄が無い事と食べられる卵かどうかはまだ分かりません」


 ウズラの卵だって食べらる玉子だ。大きさ的にはそれほど大きくもないけど食用に出来る。他にも俺に知識が無いだけで食用に出来る卵は前世にもあったかもしれない。この世界でもダチョウの卵のような大きさのコカトリスの卵だって食用になる。ただそれを採取できていないから、知られていないだけだ。


 実は俺のインベントリにはコカトリスの卵も以前からあるのだが、公表出来ていないだけだ。フランク達に森の家でふるまっても良かったのだが、卵が食材になると分かっても採りに行ける冒険者がいない。


 その状態で公表しても結局俺が採取しないといけなくなるのでは本末転倒になるから、公表を控えていた。ガルスの存在を知ってからは何時か公表できるかもと思ってはいるが、それも出来るなら今はしたくない。


 エミュの卵が食用に成り、その効果が一般的になってからでもその判断は遅くないと思う。効果が絶大だと分かってから、コカトリスの卵を公表したら、とんでもないことになりかねない。人々が能力的に向上して、魔境の森の奥地にも普通に行けるようになってからなら何の問題もないが、そこまでになるにはまだまだ時間が掛かるから公表はそれまで待つ方が良いと今は決めている。


「取りあえずは今回はガルスの玉子で色々教えます。基本卵の性質は同じなので、用途も同じですからそれで覚えて、ケインさんがエミュの玉子の研究をして下さい」


 ケインにはエミュの玉子の仮説も話してある。それはガルスの玉子にも何かしらの変化をもたらす効果があるかも知れないから、知っておいてもらわないとこの先困ることになる。


 エミュの玉子の様にガルスの玉子によって魔力量がアップすると知られたらそれこそ奪い合いになる可能性すらある。だからそれを知っておいてもらって、料理に使う量も研究してもらいたいからだ。これはそこまで心配はしていない事なんですが、エミュの例があるので、ガルスでも研究はする必要がある。


 偶にしか食べないエミュでさえ1.2倍ですから、それが頻繁になればまた違ってくるでしょうし、ガルスの効果が小さくてもエミュより頻繁に食用出来るように成れば、どうなるか分かりません。まぁ予測としては最高でも1.5倍程度が限度だと思っています。だからそこまでの心配はしていないのですが、効果を知れば欲深い人も出てくるでしょう。そうすると病気になる人が出るかもしれない。なぜなら前世と同じなら、玉子の取り過ぎは病気の原因にもなりますからね。だから研究だけはしておきたいのです。


 玉子について今解っていることを全てケインに説明した後、今回のメインであるケーキ作りに入った。


 この世界には甘味と言えるものは非常に少ない。ローム糖から作った飴やスライムパウダーによる、パンケーキがやっと広まってきたぐらいだ。


 今回の玉子の発見によってこれからは物凄い勢いで甘味のレパートリーは増えるはず。その火付け役に今度の結婚式のウエディングケーキを使うつもりだ。


 一度口にしたらもうその魔性の魅力からは逃れられない。


 ひれ伏すがいい! その虜に成る亡者どもめ!


 何か影のフィクサーぽいセリフを心の中で叫んでケインにケーキ作りを教えた。






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