第145話 どうしてこうなった?

 病院の視察から介護士の学校の構想が浮かんだけど、これはもう少し検討するという事で一時保留にした。


 今は冷蔵庫関係の研究で忙しいのでそれどころではない。この介護士の学校に関してはグーテル王国の賢者候補が来てからニックを中心に考えてもらおうと思っている。


 そろそろこういう事も人に任せていくようにするつもりだ。いつまでも全てを俺がやっていたんでは賢者候補が成長しない。 まぁ俺が丸投げしたいというのが本心だが……。


「ユウマ君、あの女性は確か、この病院と学校の責任者だったよな?」


「はい、そうですよ」


「それなのに何故? 手術の練習をしてるのかね?」


「それは彼女が賢者候補だからですよ」


 話に出てきた女性とはスーザンの事。スーザンはここに来る前から薬師見習いだったので、今は俺の英才教育で薬師のスキルは発現しているので、医者になるための勉強もしている。


「医者になるための訓練だけじゃないですよ。彼女は錬金術の勉強もしています」


「え! なんだって! 薬師のスキルと錬金術のスキルを持てるのかい?」


「できますね。実際私が持っていますから」


 俺の場合はダブルどころではないけど、そこまで全部教える必要もないでしょう。それなのに、拠点のメンバーは誰も何も言いません。俺が異常なのは分かっているはずですが。


 どうしてそこを追及してこないのかは分かりませんが、俺にとっては好都合なので無視しています。フランクの鑑定のように行為を抑制してる何かがあるのか、それともただみんなが勝手にタブー視してるのか? 本当に良く分からん……。


 この世界でもスキルを複数持っている人は確かにいるが、その殆どが冒険者や商人で、商人の場合、計算スキルと鑑定を持っていたり、計算スキルと直感スキルを持っていたりする。


 冒険者だと剣術スキルと気配察知スキルをもっていたりするのだが、冒険者も商人も持っているスキルの片方は補助的なものが多い。


 そのまま職業として成り立つようなスキルなどを複数持っている人はいない。


 犯罪者として鉱山送りになった治癒魔法と薬師スキルを持っていた、スベンなどは本当に稀なのです。彼はその稀有の存在だという事が驕りを生んでしまい、犯罪に走ってしまったのでしょう。


「そうだ、あのスーザンさんも身体強化は出来ますよ」


「な! なんじゃと! あのうら若き女性も出来るのか……」


 病院の視察が終了したので、昼食を挟んだ後、拠点の地下の研究室に案内した。


「ここでは何をしてるのじゃ? 入り口も秘密だと言っていたが」


「はい、ここでは新型の魔道具が開発されています。特別なものなので秘密保持のために賢者候補以外は知りません。ですからお父さん方も此処の事は誰にも口外しないようにお願いします」


 それから冷蔵庫や冷凍庫などの話を詳しく説明したら


「それはまたとんでもないものだな。氷室などは聞いたことがあるが、それを人工的に作ってしまい、それを移動させることも出来るなんて世の中がひっくり返るぞ」


「そうですね、それに魔方陣はティム魔法などのようにいろんな魔法に使えますから、これから先どれだけ世の中が変わるか予測が出来ません」


 まぁ俺は予測というか前世の知識があるから、最低でも前世ぐらいまでは進歩すると思っているけど、流石にそれを言うわけにはいかない。


「ユウマ君、色々見て来て気になったのだが、まさかとは思うがうちのサラも身体強化が出来るとは言わないよな」


「ご心配なく、流石にサラさんはまだ出来ませんよ。でも近いうちに出来るようになるとは思いますが」


「そうか……」



 視察は二日で終わったので、それからはお二人が気になるところをもう一度見たり、温泉銭湯でゆっくりしたりとして過ごした。


 その間ご両親の護衛として付いてきていた騎士たちは、安全が確保されているという事で、学校の冒険科の生徒と共に魔境の森での訓練をしていた。


 グーテル王国も魔境には隣接しているけど、この国と同様殆ど入る事がないので、生徒が入っていると聞けば入りたくなるのが人情。


 狩った獲物はお金にもなるのだから、小遣い稼ぎにもなって土産を買う予算が増えるから皆さん目の色が違った。


 それから数日、明日で滞在一週間という時に、俺はご両親にサラ共々呼び出された。


「ユウマ君、君に一つ頼みがあるんだが聞いてもらえるかね?」


「はい、私に出来るとこでしたら何なりと」


 そこで「何なりと」と言ってしまった俺を後からぶん殴りたかった。


「実はな、わしら二人はここに住もうかと思っているんだ」


「は! 俺の聞き間違いですか? ここに住むと言われましたか?」


 思わず俺と言ってしまうくらい俺は動揺していた。隣にいるサラなんていつもは殆どの事に動揺すらしないのに、目を大きく見開き、口を開けたまま固まっていた。


「ここに来る前から家族で話してはいたんだ。わしもそろそろ引退して、息子に跡を継がせてもいいころだとな。勿論、ここに住むと決めたのは視察が終わってから決めたんだが」


 確かにグランでさえ本来なら引退していたんだから、お父さんが引退を考えてもおかしくはないけど、それがどうしてここに住むという事になるんだ?


「色々と理由はあるんじゃが、一番はわしが身体強化を身に着けたいことなんじゃ」


 おいおい、そんなことでここに住みたい? 身体強化なら国に帰ってもやり方は教えるから出来るでしょ。


「それにイザベラがな、ここならサラとも一緒にいられるし、化粧などに困らないと言っているんだ」


 おいおい、お母さんもそんなことでかよ。化粧品は送ると言ったじゃないか。それすらも我慢できないの?


「兄さんはそれで良いと言っていたの?」


 漸く正気に戻ったサラが両親に向かってそう問いただした。


「ジャンは好きにすればと言っていたな。最近は殆どあいつが仕事をしていたから、引継ぎも必要ないからな」


 何だよそれ! もう準備万端じゃん。お兄さんの名前はジャンというのね。覚えておかないとな。義理の兄になる人だから。


 そんなことは今はどうでも良いんだけど、そこはね……。


 しかしそれで本当にいいのか? 公爵の引退をそんなに簡単に決めて。


「お父さん、流石にそんなに簡単に聞けられないでしょう? 王家はどうするんです?」


「そちらも心配ない。近いうちに引退することは告げてあるからな。それでも一応は一度国に戻って挨拶はしてくるが」


 流石にこのままという事では無かったが、それでもこれは大問題だよ。


 これどう考えても、この国の王家にも話を通さなければいけないことだよな。どうするんだよ? 俺とサラとの婚約は両王家も知っていることだろうが、隣国の貴族がいくら仲が良いとはいえ移り住むとなれば色々問題だ。


 引退しても貴族には変わりないから、当然、護衛や従者もこの国に移り住むことになる。


 これマジで大事になりそうなんだが、どうすればいいんだ……。





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