第224話 もうお腹一杯
俺達の調査一日目は殆ど砂の研究で終わってしまった。
「今日は疲れたので、出来合いの物で食事をして早めに休みましょう」
トーフハウスですが、一応結婚前なので仕切りは作ってあります。こういう事もあると思ってラロックの家具屋にシングルベットを作って貰っていて良かった。
翌朝、今日こそは周辺の海の調査をやらないと、他の皆が帰って来た時に示しがつかない。
「サラ、今日は砂の実験は無しですよ。砂に関しては俺が大量に持って帰りますから、ラロックでやってください」
「は~~い、分かりました~~」
何だこの軽いノリは? サラらしくないこの返事に物凄い違和感を感じる……。
先ずは今日の一番の目標は、急に水深が深くなる辺りの調査だ。その為に今日は秘密兵器を用意した。サラが寝静まってから、前世で見た手釣りの糸巻きと強靭な糸と錬成陣で大きな釣り針を作った。
ようは一本釣りをしようという事だ。流石に水深の深い所にいる魔魚などの魔物は魔法でも無理なので、極普通のやり方だが正攻法でやることにした。
ボートをインベントリから出して、いざ乗り込もうとした時に俺はサラが手にしてる物に気づいた。乗り込む寸前まで背中に隠していたようだ。
「サラさん……、それはいったい何でしょうか?」
「あ~ これですか、これは貝を獲ろうと思ってBBQ用の網を加工した物です」
あ! そう言えばBBQの後、片付けるのを忘れていましたが、ここを出る時に回収すれば良いと思ったし、また使うかもと放置していましたね。
それを加工した? どこでそんな知識と技術を……。夢の本にそんな事書いた覚えはないんですが?
「それをどうやって考えたんです?」
どう見ても、サラの作った物は前世の船で引いて貝を獲るかごの様なものです。
「何を言ってるんですか、これを教えてくれたのはユウマさんですよ。以前森で魚を獲る時のかごを作って見せてくれた時に、貝を獲る時はこんなものを使うと絵に描いてくれましたよ」
そう言われて記憶を探ってみたら、確かに一度そんな話をしたことがあるような……。 川では無理だけど湖ならシジミの様な貝も獲れるという話のついでに放した記憶が蘇って来ました。
これが妙なテンションの正体でしたか。しかしサラの作った物では不十分なんだよな。
「サラ、それだと砂に上手く食い込みませんから、もう少し手を加えた方が良いですから、俺が加工してあげますよ」
砂の実験をしないし、海の調査だから貝を獲ることは止められないので、効率を良くしてやることにしました。折角サラも一生懸命考えたんでしょうから……。
「これで良いですよ。このように砂に食い込みやすくして、かご自体に錘も付けると自然に砂の少し深い所を掘り返します」
「成る程、確かにこの方が砂に食い込みますね。ありがとうございます」
それから浅瀬と深くなる所の境目を俺はトローリングをするように魔魚を狙い。サラは船尾に付けた紐付きのかごを定期的に回収して獲れた貝を鑑定していた。
魔魚は中々掛かりませんでしたが、サラの貝には大きな収穫がありました。それはもう物凄い収穫です。
「サラ、その貝を少し見せてください」
「これですか? 食用の貝みたいですけど何か気になるんですか?」
気になるも何もどう見ても前世でいう真珠貝に似ているんですよ。正式には
鑑定するとパルオイスという名前らしい。アコヤガイの英語名がパールオイスターだから物凄く似てる。そして俺の鑑定EXには当然のように真珠が取れると表記されている。それだけではなく、この世界の真珠には色が何色かあり、その色に合わせて今回分かった魔石と同様に属性があると出ていた。
もうお腹一杯なんだが……。これ以上発見が続いても俺達だけでは対処できない。
本来は海の調査と言ってもどんな魔魚が生息してるかなどが分かれば良いだけだったのに、砂の魔石に今度は属性真珠、島の内部でもミスリルの鉱脈や薬草の原種、新種の魔物……。もうどうしたら良い物やら?
そんな事を考えていたら、そういう時に限って追い打ちが来る。俺の手にしていた一本釣りの糸が勢いよく糸巻きから出て行った。
「おいおい、こんな時にやめてくれよ。この勢いからするとかなりの大物のようだ」
「ユウマさん、手伝う事はありますか?」
「このままだとボート事沖に持って行かれますから、非常事態なので緊急的に魔法を使います」
今回用意した強靭な糸にはこういう事も想定していたので、魔石を合成しています。ですから糸に魔法を伝えられる。雷魔法を糸に流して電気ショックを与えて一時期的に麻痺させることが出来る。もしそれでもダメなら、高魔力を一気に流せば麻痺すると思う。
電気と言っているけどこれまでの研究で見た目が電気に見えるだけで、魔電気、電気と同じようなことが出来る魔素と行った方が良いか?
まぁ考え方は電気のつもりで良いのだから大きな違いはないのだが、魔石の入れ替え実験の時は電気ショックでは心臓は動かなかったから、その辺の研究も必要だろう。
「お! 電気の方で動きが鈍ったな。これならサラでも持っていられそうだから、俺と交代してください。ボートを俺が岸まで運びます」
このまま引いて行けば魔魚は段々水面に浮いてくるだろうから、そのまま最終的に岸で回収しよう。
岸にボートを戻して岸から糸を身体強化を使って巻き取って行ったのだが、現れたのは、な! なんと巨大な前世でいうカジキマグロ。
岸まで上げて一応急所を刺して絶命させた時には、二人ともあまりの大きさに放心状態になっていた。あの電気ショックの判断が少しでも遅れていたら、恐らく今頃俺達は海に引きずり込まれていただろう。
「これどう見ても5m以上ありますよね」
「先端部分から入れたら7mはありますよ」
「これマルリンという魔魚のようですね」
カジキマグロ、英語だとマーリンだったか。それにしてもこんな島の近くでこんな大物が掛かるなんてどうなっているんだよ。前世なら記念撮影物だよ、逆さに釣り上げて、その横に立ってVサインでもしそうだよ……。
「サラ、悪いけど今日はこれで調査は止めよう。ちょっと俺休みたい」
「休んでも良いですけど、先ほど気にしていた貝について教えた後にしてください」
ここにも鬼畜がいたよ。ここはそういう好奇心を一度抑えて、俺をいたわりましょうよ。お願いだから……。
日頃、俺が鬼畜モードをする方だから、自業自得なんだけど。サラって本当に容赦ないよな。
「しょうがないな。詳しい話はしないと約束してくださいね」
「は~い、了解しました」
ん? このハイテンションは物凄く記憶にあるんだが……。
「この貝の名前はパルオイスと言います。そしてこの貝は……」
貝をナイフで開いて、手で硬い部分を探したら、やはりありましたよ真珠が、それも何故か一発目に黒を引いちゃいました。
「これが真珠という物ですが、今回は黒でしたが他の色の物もあります。調べてみないと分かりませんが、最低でも5~7色はあると思いますよ」
「まぁ~~ 黒ですけど何と言ったら良いのでしょうか、何処にも不気味さを感じないというか、それよりエレガントさの方が目を引きます」
「最後に一つだけ教えますがこれ以上の質問は禁止ですよ。この真珠の色は属性と関係しています。以上! おやすみなさい」
これ以上の突込みが無いように強制的に話を終わらせて、そそくさと自分のベットに行きお昼寝タイムに突入した。
「ふぁ~~ 久しぶりに昼寝したな。こういうのが理想だよな~ 適度に働いて適度に休む。早くこんな生活が普通になるようにしたい」
「バタン!」
「ユウマさん! お目覚めですね! 見てくださいあのパルオイスからこんなに色の違う真珠が採れました。私は付与が出来ませんから、この真珠に属性ごとに付与して見せてください。さぁ~ 、さぁ~」
俺が起きたのを独り言で気づき、物凄い勢いで俺の所に仮設で作ったドアを壊す勢いで入って来て、自分の要望をまくしたてるサラ。
何だか俺の周りの人が最近狂気じみてきた。フランクは戦闘狂、錬金術師三人衆は元から研究バカ、ついにはサラまで……。
ニックとロイスがかろうじてという状態だけど、この人達も時間の問題かな?
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